コルスバ静注が令和5年12月13日に発売されました。
オピオイドκ(カッパ)受容体に作用する掻痒症の治療薬です。
同効薬レミッチと何が違うのか?
気になりますよね。
今回は、注射薬コルスバと経口薬レミッチの違いについてまとめたので共有します。
コルスバとレミッチの比較表
まずはコルスバとレミッチの基本情報を比較します。
商品名 | コルスバ静注透析用シリンジ | レミッチOD錠・カプセル |
---|---|---|
一般名 | ジフェリケファリン酢酸塩 | ナルフラフィン塩酸塩 |
規格 | 17.5μg、25.0μg、35.0μg | 2.5μg |
分類 | κオピオイド受容体作動薬 | κオピオイド受容体作動薬 |
適応 | そう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る) 血液透析患者 | そう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る) 透析患者 慢性肝疾患患者 |
用法用量 | 下記ドライウェイトに基づく用量を週3回、透析終了時の返血時に透析回路静脈側に注入 45kg未満:17.5μg 45kg以上65kg未満:25.0μg 65kg以上85kg未満:35.0μg 85kg以上:42.5μg | 1日1回2.5μgを夕食後又は就寝前に経口投与する。 最大1日1回5μg |
禁忌 | 過敏症の既往歴のある患者 | 過敏症の既往歴のある患者 |
重大な副作用 | 特になし | 肝機能障害、黄疸 |
薬価 | 17.5μg:¥2971 25.0μg:¥3609 35.0μg:¥4341 | 2.5μg:¥599.3 後発品あり |
相違点の前に、共通点は大きく2つです。
- 、作用機序:KORアゴニスト
-
どちらもオピオイドκ受容体(KOR)を刺激、抗掻痒作用を示します。ここは同じです。
なぜ、KORを刺激すると、痒みが抑えられるのか?
KORアゴニストは、κ受容体を刺激して、バランスの改善により抗掻痒作用を示します。
血液透析患者におけるそう痒症はオピオイドバランスの崩壊(μ>κ)が原因とされており、μオピオイド受容体はβエンドルフィンと結合し痒みを誘発するのに対して、κオピオイド受容体はダイノルフィンと結合しかゆみを抑制するからです。 - 、選択基準:第一選択ではない
-
どちらも掻痒症の第一選択ではありません。保湿剤や抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬等の効果が不十分だった時に使用する薬剤に位置付けられているからです。適応にも但し書きがあります。
コルスバレミッチ血液透析患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
・透析患者
・慢性肝疾患患者ガイドラインの記載も同様です。ナルフラフィンは慢性肝疾患や腎疾患(透析患者)がある患者で、既存治療で効果が不十分な場合に使用すると注意書き(青囲み)がされています。
ここからが本題です。両薬剤の違いを見ていきましょう!
コルスバとレミッチの相違点
大きく5つです。
- 投与経路
- 適応
- 投与設計
- 臨床の位置付け
- 相互作用
投与経路
透析回路内へ静注
レミッチ…経口投与
両薬剤は投与経路が異なります。コルスバは注射薬です。透析日ごとに透析終了時の返血時に透析回路内へ静注します。長所は、嚥下・消化吸収機能等により経口投与が不向きな症例にも使用できる点です。また、内服薬の種類を増やさない点もメリット。服薬負担の軽減に加えて、透析ごとに確実に投与でき、服薬アドヒアランスの向上も期待できます。
一方で、レミッチは内服薬です。1日1回夕食後または就寝前に飲みます。
レミッチの投与時点が夕食後または就寝前の理由
- 傾眠、浮動性めまい等の副作用が報告されており、自動車の運転などの機械操作に対する影響を懸念されるため
- 睡眠障害につながる夜間のかゆみを取り除く必要性が高いため
レミッチは食事の影響を受けるのか?
食事の影響を受けません。
健康成人男子(12例)を対象に、ナルフラフィン塩酸塩(カプセル)10μgを食後に経口単回投与した時のAUC0-48hr及びCmaxは空腹時投与の場合とほぼ同等であり、食事の影響は認められなかった
レミッチOD錠 電子添文
レミッチは透析で除去される?
透析性があります。服用タイミングに注意が必要です。
〈血液透析患者におけるそう痒症の改善の場合〉本剤の投与から血液透析開始までは十分な間隔をあけること。本剤は血液透析により除去されることから、本剤服用から血液透析までの時間が短い場合、本剤の血中濃度が低下する可能性がある
レミッチOD錠、 用法及び用量に関連する注意
薬物動態シミュレーションの結果、透析の4時間前以内の投与では、血中濃度低下により十分な効果が期待できません。8時間以上間隔をあけると影響がないとされています。
ナルフラフィン塩酸塩(カプセル)投与時の血漿中濃度に対する透析回数(週1, 2, 3回)、透析時間(2, 4, 6時間)、透析の実施時期(午前、午後、夜間)、投与から透析までの間隔(4, 8, 12時間)の影響をシミュレーションにより検討した結果、投与から透析までの間隔が4時間以内の血液透析では血漿中濃度が低下する可能性があるが、8時間以上の血液透析では影響はないと考えられた。
レミッチOD錠、その他、血液透析の影響
一般的に、注射薬は手技に伴う侵襲や通院回数の増加等の患者負担が増えますが、この点に関して、コルスバは問題になりません。透析回路への投与であるし、透析日以上に通院する必要もないからです。血液透析患者さんにとっては、利便性が高い薬剤だといえます。
適応
下記、そう痒症の改善
(既存治療で効果不十分な場合に限る)
コルスバ | レミッチ | |
---|---|---|
血液透析(HD) | ||
腹膜透析(PD) | ||
慢性肝疾患 |
原疾患が確定しており、肝臓の炎症が6ヵ月以上持続している又は画像診断により肝炎からさらに病態が進展した状態にあると判断された肝疾患患者
両薬剤は適応にも違いがあります。コルスバは血液透析患者のそう痒症のみ適応です。一方で、レミッチは、もともと血液透析患者のみでしたが、2015年5月に慢性肝疾患患者、2017年9月に腹膜透析患者に適応が拡大されています。
コルスバも適応が拡大されるのか注目ですね。週3回・透析回路内投与は、血液透析患者には最適ですが、非透析患者では注射に伴う侵襲、通院回数の増加等に直結するため、投与方法がどうなるのか気になりますね。
投与量設計
個別用量
レミッチ…一律用量
両薬剤は投与量設計にも違いがあります。コルスバはドライウェイトに基づき投与量を決定するかたちです。第2相臨床試験において推奨用量が0.5μg/kgであることが示され、投与設計の煩雑さ、現場での混乱を避けるために、ドライウェイトの区分ごとに用量設定を行い、第3相臨床試験において有効性と安全性が確認されています。
ドライウェイト | 投与量 |
---|---|
45kg未満 | 17.5μg |
45kg以上65kg未満 | 25.0μg |
65kg以上85kg未満 | 35.0μg |
85kg以上 | 42.5μg |
一方で、レミッチの開始用量は体重に関係ありません。開始用量と維持用量は2.5μg、効果が不十分な場合は5μgに増量可能です。効果を見ながら個別投与量を決めます。
コルスバは投与前にドライウェイトから投与量を求める薬剤です。増量の規定がなく、効果が得られない時は中止、不十分である場合には、併用薬の追加や増量とかで対応するかたちですね。
相互作用
コルスバ | レミッチ | |
---|---|---|
オピオイド系薬剤 | 本剤の作用が増強あるいは減弱されるおそれがある | 本剤の作用が増強あるいは減弱されるおそれがある |
睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん薬 | 本剤との併用により、不眠、幻覚、眠気、浮動性めまい、振戦、せん妄等が認められる可能性があるので、併用の開始、用量の変更並びに中止時には、副作用の発現に注意すること。 | |
CYP3A4阻害作用のある薬剤等アゾール系抗真菌剤(イトラコナゾール等)、ミデカマイシン、リトナビル、シクロスポリン、ニフェジピン、シメチジン、グレープフルーツジュース等 | 本剤の血漿中濃度が上昇する可能性があるため、併用の開始、用量の変更並びに中止時には、患者の状態を十分に観察するなど注意すること。 |
- コルスバはCYPに関する相互作用の記載がありません
-
薬物代謝酵素CYP(UGTも)基質ではないからです。
一方で、レミッチはCYP3A4の基質であり、併用薬に対する注意が欠かせません。アゾール系抗真菌薬やニフェジピン、シクロスポリン等のCYP3A4で代謝される薬剤との併用により血中濃度が上昇し、副作用のリスクが増加するからです。
- コルスバは中枢神経系の薬剤との相互作用の記載もありません
-
一方で、レミッチは中枢神経系の薬剤との相互作用があります。マウスを用いたペントバルビタール誘発睡眠時間の実験において、ニトラゼパム併用時に10μg/kg以上の皮下投与で睡眠時間の延長を有意に増加したためです。不眠や幻覚、眠気、浮動性めまいなどが発現する可能性を考慮して、併用注意に設定されています。抗不安薬や抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん薬も同副作用のリスクを想定して、併用注意の扱いです。
相互作用に注目すると、コルスバは使い勝手が良いといえます。
臨床の位置付け
大前提
どちらも既存治療で効果が不十分な場合、ここは共通点です。
じゃあ、どのように使い分けるのか?
普通に考えて、経口投与が可能ならレミッチの選択が望ましいと考えられます。第一にコストが抑えられるからです。週あたりの薬価はコルスバが9000〜20000円に対して、レミッチは5000〜10000円と低く、後発品もあります(1000〜2000円)。また、水分制限に対しても、OD錠やフィルム錠で対応可能です。さらに、1日1回夕食後投与であり、リン吸着薬(1回量・1日の服用回数が多い)のように患者さんの服薬負担が明らかに増えることもないですからね。
では、コルスバの出番は?
普通に考えて、静脈投与の利点を生かして、経口薬が適さない例だと思います。嚥下機能が低下した人や消化吸収に問題があるがケース等です。それからアドヒアランスが悪い人ですね。私はここが特に有用だと感じました。透析患者さんは服薬種類、服薬時点が多く、内服薬の種類は最小限に留める必要性が高いからです。たとえば、レミッチの服薬時点である夕食後は昼食後ほど多くないにせよ、そこそこ飲み忘れが多い印象があります。服薬負担を増やさずに、確実に週3回投与できるのはメリットが大きいのではないでしょうか。
あとは、レミッチで不眠や傾眠・浮動性めまい等の中枢神経系の副作用が問題になるケースに有用である可能性があります。コルスバは中枢移行が限定的だからです。
雄性ラット(2例/時点)に本剤3mg/kgを単回静脈内投与したときの投与0.5、1及び3時間後の血漿中及び脳中の本剤濃度が検討された結果、各測定時点における血漿中に対する脳中の本剤濃度の比は、それぞれ0.0221、0.0187及び0.253であった
コルスバ静注 インタビューフォーム
対象患者の違いはありますが、副作用の頻度もレミッチに比べて低い傾向があります。
- コルスバ
-
- 不眠症…0.8%(2/254)
- 傾眠…2.8%(7/254)
- 浮動性めまい…2.4%(6/254)
- レミッチ
-
- 不眠症…15.3%(93/609)
- 傾眠…3.1%(19/609)
- 浮動性めまい…1.5%(9/609)
RMP(医薬品リスク管理計画)の方を見ると、レミッチは不眠、傾眠・浮動性めまいが重要な特定されたリスクに記載があるのに対して、コルスバには記載がありません。
コルスバ | レミッチ | |
---|---|---|
重要な特定されたリスク | なし | ・不眠 ・傾眠・浮動性めまい ・肝機能の悪化 |
重要な潜在的リスク | 心房細動病歴のある血液透析患者における心不全及び心房細動を含む不整脈 | ・血中プロラクチン増加などの内分泌機能異常 ・睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかんただし、薬との併用 |
重要な不足情報 | 血液脳関門(BBB)に障害をきたす可能性のある疾患を合併する患者での使用 | 慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善」における中等度および重度(Child-Pugh 分類グレー ド B および C)の肝障害患者 |
もちろん、副作用の発現リスクはあるため、レミッチ同様に車の運転等に対する注意喚起は必要です。
眠気、めまい等があらわれることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないよう注意すること。
コルスバ静注 電子添文、重要な基本的注意
まとめ
今回は注射薬コルスバと経口薬レミッチの違いについてまとめました。
ポイントは以下のとおりです。
コルスバ | レミッチ | |
---|---|---|
投与経路 | 透析回路内 | 経口 |
適応 | 血液透析のみ | 血液透析、腹膜透析、慢性肝疾患 |
投与量設計 | ドライウェイト区分 | 2.5μgから開始 (最大5μg) |
相互作用 | オピオイド薬 | オピオイド薬 CYP3A4阻害薬 中枢神経系薬 |
位置付け(使い分け) | 経口投与不適(嚥下困難等) 服薬アドヒアランスに問題がある人 レミッチに忍容性(副作用等)がない人 | 経口投与可 |
記事を書きながら、コルスバは透析患者さんにとって、使い勝手が良い印象を受けました。
特に、服薬負担を軽減し、透析回路内から確実に投与できるのは強みだと思います。
今後、両薬剤の使い分けはどうなるのか?注目していきたいです!