今回のテーマはインフルエンザ治療薬!
それぞれの特徴は?使い方は?注意点は?等
知識が薄れていたり、曖昧になってる人も多いのではないでしょうか。
私もその一人で、この前急に出た処方に、かなり慌ててしまいました(^_^;)
今回は知識の整理がてら、インフルエンザ治療薬の特徴や使い方についてまとめたので共有したいと思います。
インフルエンザ治療薬の種類
国内承認のインフルエンザ治療薬は7成分、承認日順に並べると以下のとおりです。
一般名 | 商品名 | 作用機序 | 適応 | 承認日 |
---|---|---|---|---|
アマンタジン | シンメトレル | M2チャネル阻害薬 | A型 | 1998年11月 |
ザナミビル | リレンザ | NA阻害薬 | A型、B型 | 1999年12月 |
オセルタミビル | タミフル | NA阻害薬 | A型、B型 | 2000年12月 |
ペラミビル | ラピアクタ | NA阻害薬 | A型、B型 | 2010年1月 |
ラニナビル | イナビル | NA阻害薬 | A型、B型 | 2010年9月 |
ファビピラビル | アビガン | RNAポリメラーゼ阻害薬 | 新型、再興型 | 2014年3月 |
バロキサビル マルボキシル | ゾフルーザ | キャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性阻害薬 | A型、B型 | 2018年2月 |
主流はノイラミニダーゼ(NA)阻害薬ですね。中でも、タミフルとイナビルは外来でよく使われていると思います。一方で、シンメトレルは耐性化や副作用の関係でほとんど使われておりません。アビガンも同様、従来の治療薬で無効又は効果不十分時の切り札として、国の許可で初めて使える薬です。それから、ゾフルーザはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性阻害薬、単回使用の経口薬という強みで、結構使われています。
インフルエンザ治療薬の比較
続いて、インフルエンザ治療薬の比較について。主要な5種類の薬剤を表にまとめました。
一般名 | オセルタミビル | ザナミビル | ラニナミビル | ペラミビル | バロキサビルマルボキシル |
---|---|---|---|---|---|
商品名 | タミフル | リレンザ | イナビル | ラピアクタ | ゾフルーザ |
作用機序 | NA阻害 | NA阻害 | NA阻害 | NA阻害 | キャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性阻害 |
投与経路 | 経口 | 吸入 | 吸入 | 注射 | 経口 |
規格・剤型 | カプセル75mg/錠75mg/ドライシロップ3% | 吸入剤 | 吸入粉末剤20mg | バッグ300mg/バイアル150mg | 錠10mg/錠20mg/顆粒2%分包 |
適応 | A型又はB型 | A型又はB型 | A型又はB型 | A型又はB型 | A型又はB型 |
用法用量 | 成人及び37.5kg以上の小児 1回75mg 1日2回 幼小児 2mg/kg/回 新生児、乳児 3mg/kg/回 | 成人及び小児 1回2吸入 1日2回 | 成人及び10歳以上の小児 40mg(2容器) 10歳未満の小児 20mg(1容器 | 成人 300mg 15分以上かけて(600mgに増量可) 小児 10mg/kg 15分以上かけて(最大600mg) | 成人及び12歳以上の小児 20mg×4錠 (80kg以上) 20mg×2錠 (80kg未満) 12歳未満の小児 20mg×2錠 (40kg以上) 20mg×1錠 (20kg以上40kg未満) 10mg×1錠 (10kg以上20kg未満) |
投与日数 | 5日間 | 5日間 | 単回使用 | 単回使用 ※反復投与可 | 単回使用 |
腎機能障害時の投与 | 減量必要 | 通常量 | 通常量 | 減量必要 | 通常量 |
妊婦への投与 | 有益性投与 | 有益性投与 | 有益性投与 | 有益性投与 | 有益性投与 |
授乳婦への投与 | 有益性投与 | 有益性投与 | 有益性投与 | 有益性投与 | 有益性投与 |
予防投与 | 可 | 可 | 可 | 不可 | 可 |
備考 | ジェネリックあり | 乳製品アレルギー注意 | 乳製品アレルギー注意 | 肝機能障害に注意 | 耐性ウイルスに注意 |
令和5年12月8日、新剤型であるオセルタミビル錠75mg「トーワ」が発売されました。錠剤は小さく(直径7.1mm、厚さ3.6mm)、高齢者でも飲みやすい印象です。
ここからは、押さえておきたいポイントを見ていきます。
- 作用機序
- 有効性
- 成人への投与
- 小児への投与
- 妊婦・授乳婦への投与
- 腎機能障害時の投与
- 予防投与
- 異常行動のリスク
- コスト
インフルエンザ治療薬の作用機序
まずは、インフルエンザ治療薬の作用機序について。インフルエンザウイルスの増殖過程は大きく6つのステップからなります。各薬剤の作用点は以下のとおりです。
インフルエンザウイルスの膜にあるHA(ヘマグルチニン:糖タンパク質の一種)が、気道粘膜(宿主細胞)上のシアル酸に吸着します。
吸着したインフルエンザウイルスは、エンドサイトーシス(細胞膜の形態変化により、細胞外のものを細胞内へ取り込む)により、宿主細胞に侵入します。
侵入したインフルエンザウイルスは膜融合(ウイルス膜にあるM2タンパクが関与)により、ウイルスRNAを細胞質に放出します。
アマンタジンの作用点はここです!
(A型インフルエンザウイルスに対する作用)
アマンタジン塩酸塩の抗A型インフルエンザウイルス作用は、主として感染初期にウイルスの脱穀の段階を阻害し、ウイルスのリボヌクレオプロテインの細胞核内への輸送を阻止することにあると考えられる。
シンメトレル錠 インタビュフォーム
核内に移行したインフルエンザウイルスのRNAは、 ①複製(RNAを鋳型にしてウイルスゲノムRNAの合成)と②転写・翻訳(RNA→mRNA→タンパク質の生成)が行われます。この過程でウイルスの増殖に必要な素材が作られるわけです。
もう少し詳しくいうと、②ウイルスmRNAの転写は、宿主細胞のmRNAからキャップ構造を含む10数塩基を切り取って、これをプライマーとして行われます。ここで働くのがウイルス由来のキャップ依存性エンドヌクレアーゼです。
ゾフルーザの作用点は
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ。酵素活性を選択的に阻害し、インフルエンザウイルスの転写(mRNAの生成)を妨げ、増殖に必要な素材の合成を抑制します(抗ウイルス作用)。
アビガンの作用もここの段階!
ウイルスRNAの複製には、インフルエンザウイルス由来のRNAポリメラーゼが関わります。宿主細胞に取り込まれたファビピラビルは、リボシル3リン酸体に代謝され、RNAポリメラーゼを阻害し、抗ウイルス作用を示します。
(作用機序)細胞内でリボシル三リン酸体(ファビピラビルRTP)に代謝され、ファビピラビルRTPがインフルエンザウイルスの複製に関与するRNAポリメラーゼを選択的に阻害すると考えられている。
アビガン錠 電子添文
複製されたウイルスゲノムと転写・翻訳されたタンパク質(構成素材)が組み立てられ、宿主細胞の細胞膜に出芽します。ここでは、インフルエンザウイルスはHAを介して宿主細胞のシアル酸に繋がれた状態です。
出芽されたインフルエンザウイルスは膜酵素のノイラミニダーゼによって、シアル酸とHAの結合が切れて放出されます。
ここで働くのがNA阻害薬です!
オセルタミビルやザナミビルなどは、ノイラミニダーゼを阻害し、インフルエンザウイルスが次の細胞へ感染するのを妨げて抗ウイルス作用を示します。
インフルエンザ治療薬の有効性
続いて有効性について。インフルエンザ治療薬を飲むことで得られるメリットは何か?
答えは
インフルエンザ罹病期間の短縮です。
各薬剤ごとに患者背景や流行株等が異なるものの、概ね1日程度の短縮効果が認められています。
たとえば、タミフルは国内第Ⅲ相試験において、インフルエンザに特徴的な症状である①鼻症状②喉の痛み③咳④筋肉または関節等の痛み⑤けん怠感または疲労感⑥頭痛⑦悪寒または発汗など、7つの症状が回復するまでの期間が、薬を飲まない(プラセボ)群に比べて、約1日短縮しました。
参考までに、以下のように各薬剤で有効性自体は大きく変わりません。
主要評価項目 | 結果 | 臨床試験 | |
---|---|---|---|
タミフル | インフルエンザ罹病期間(①鼻症状、②喉の痛み、③咳、④筋肉または関節等の痛み、⑤けん怠感または疲労感、⑥頭痛、⑦悪寒または発汗が全て回復するまでの期間) | 約1日短縮(本剤70.0時間、プラセボ93.3時間) | 国内第Ⅲ相試験 |
リレンザ | インフルエンザ罹病時間(解熱し、頭痛、筋肉痛、咽頭痛及び咳が「軽症」又は「症状無」の状態が24時間以上持続するまでの期間) | 約1日短縮(本剤4.5日、プラセボ6.0日) | 海外第Ⅲ相試験(成人) |
イナビル | インフルエンザ罹病時間(全てのインフルエンザ症状が「なし」又は「軽度」に改善し、それらが21.5時間以上持続するまでの時間) | タミフルと非劣性(本剤73.0時間、タミフル73.6時間) | 国際共同第Ⅲ相試験(成人) |
ラピアクタ | インフルエンザ罹病時間(主要7症状が改善するまでの時間) | 約1日短縮(300mg群59.1時間、600mg群59.9時間、プラセボ81.8時間) | 国内第Ⅱ相試験 |
ゾフルーザ | インフルエンザ罹病期間(咳、喉の痛み、頭痛、鼻づまり、熱っぽさ又は悪寒、筋肉又は関節の痛み、並びに疲労感)の全ての症状が「なし」又は「軽度」に改善するまでの時間) | 約1日短縮(本剤53.7時間、プラセボ80.2時間) | 国際共同第Ⅲ相臨床試験(65歳未満の成人及び12歳以上の小児) |
期待した効果を得るために、
抗インフルエンザ薬は症状発現から48時間以内に投与を始めなければなりません。48時間経過後に投与した場合の有効性が確立していないからです。作用機序からも早期に投与した方が、ウイルスの増殖を抑えられると考えられます。
インフルエンザ様症状の発現から2日以内に投与を開始すること。症状発現から48時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
タミフルカプセル 電子添文
インフルエンザ治療薬の使い分け:成人への投与
続いて、インフルエンザ治療薬の使い分け(成人)について。
日本感染症学会、抗インフルエンザ薬の使用指針によると、治療薬の選択は以下のとおりです。
- A群.入院管理が必要とされる患者
-
A-I群:重症で生命の危険がある患者
- オセルタミビル(タミフル)
- ペラミビル(ラピアクタ)
経口投与可能ならオセルタミビル、不可又は確実な投与が必要な場合は静注ラピアクタを選択します。ラピアクタは600mg(増量)を投与、必要に応じて反復投可です。
吸入薬は不向き(吸入困難なケースが多いため)
A-2-1群:生命に危険は迫っていないが入院管理が必要と判断され、肺炎を合併している患者
- オセルタミビル(タミフル)
- ペラミビル(ラピアクタ)
A-I群と同様です。経口投与可能ならオセルタミビル、静注治療が適当である場合はラピアクタを選択します(必要に応じて、増量、反復投与可)。
吸入薬は不向き(肺炎合併により吸入薬の効果が限定的であるため)
A-2-2群:生命に危険は迫っていないが入院管理が必要と判断され、肺炎を合併していない患者
- オセルタミビル(タミフル)
- ペラミビル(ラピアクタ)
- ザナミビル(リレンザ)
- ラニナミビル(イナビル)
経口投与が可能ならオセルタミビル、静注治療が適当である場合は静注ラピアクタを選択しますが、A-2-1群と異なり、吸入が可能なら吸入薬の使用も考慮します。
- B群.外来治療が相当と判断される患者
-
- オセルタミビル(タミフル)
- ペラミビル(ラピアクタ)
- ザナミビル(リレンザ)
- ラニナミビル(イナビル)
患者さんごとに最適な薬剤・剤型(タミフル、リレンザ、イナビル)を選択します。経口や吸入が困難な場合にはラピアクタが代替薬です。
ゾフルーザの位置付けは?
以下のとおりです。執筆時には耐性ウイルス出現防止の観点から、ゾフルーザの位置付けが明確にされていませんでした(日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」)が、2023年3月(11月に一部改訂)に下記提言内容へ変更、外来患者(12歳〜19歳、および成人)ではオセルタミビルと同等の位置付けとなっています。一方で、重症患者や免疫不全患者ではエビデンスが不十分であり、推奨/非推奨の判断は見送られたままです。
12歳〜19歳、および成人の外来患者
インフルエンザの治療において、バロキサビルをオセルタミビルと同等の推奨度で活用することが可能です。重症患者および免疫不全患者
インフルエンザの治療において、バロキサビルを選択することが可能ですが、推奨/非推奨を論じることのできるエビデンスは現時点では、まだ不十分 です。重度の免疫抑制状態ではウイルス排出期間の遷延に留意することが必要です。
委員会オブザーバーの1名は、成人においても、耐性変異 I38Xの影響が懸念されるので、バロキサビルの使用は基礎疾患のない健康な外来患者に限るべきで、入院患者と免疫抑制状態の患者には使用すべきではないという意見でした。12歳未満の小児
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬、バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)の使用についての新たな提言 (2023.11.27 改訂)
バロキサビルの投与については、今後も慎重な投与適応判断が必要です
日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」
2019年10月24日(最終更新日) 参考までに
・12-19歳および成人:臨床データが乏しい中で、現時点では、推奨/非推奨は決められない。
・12歳未満の小児:低感受性株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する。
・免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない。
日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」
インフルエンザ治療薬の使い分け:小児への投与
続いて、インフルエンザ治療薬の使い分け(小児)について。
日本小児科学会の指針(2023/24)によると、選択基準は以下の通りです。
ポイントは大きく4つです。
- 経口薬タミフルが実績、使い勝手から第一選択!
(12歳以上はゾフルーザも推奨に:2023年11月19日の提言) - 吸入薬は11歳未満には不向き(6〜9歳は吸入可能なら推奨)
イナビル懸濁用は1〜4歳でも使用可であるが、推奨されていない! - 点滴ラピアクタは代替薬という扱い
- ゾフルーザは耐性ウイルス出現リスクを考慮して選択
①タミフルは使用経験が豊富で、小児にも第一選択薬として推奨されています。公知申請により、2017年3月24日に1歳未満の新生児・乳児にも適応が拡大されました。
投与量は1歳未満(3mg/kg)の方が1歳以上の小児(2mg/kg)よりも多く設定されています。オセルタミビルの海外承認用量は1歳未満3mg/kgであり、薬物動態解析から2mg/kgの用量では海外で有効性・安全性が確立しているAUCを下回り、十分な有効性が得られない可能性があるからです。
②吸入薬リレンザとイナビルは吸入可能な小児に選択します。年齢は5歳以上が目安です。あと肺炎を合併していたり、呼吸器症状が強い場合には不向きですので、他の剤形が選択肢になります。
イナビル吸入懸濁用160mgセットが2019年6月に承認されました。こちらは自力で吸入する吸入粉末剤と異なり、ネブライザーを用いて吸入できる製剤であり、5歳未満の乳幼児にも使用可能です。ただし、エビデンスが不十分であり、エアロゾル発生の危険性から積極的に推奨されていません。
③点滴静注のラピアクタは第一選択ではありません。経口投与が困難でありオセルタミビルが使用できないときに用います。
④経口薬ゾフルーザは本記事執筆時では積極的に推奨されていませんでした。成人同様に耐性ウイルス出現の懸念があるからです。国内第Ⅲ相臨床試験(12歳未満の小児を対象)において、投与前後に塩基配列解析が可能であったA型インフルエンザ患者のうち23.4%(18/77例)にアミノ酸変異が認められ、変異のない患者では罹病期間が43.0時間であるのに対して、変異が認められた患者では79.6時間と1.8倍の延長が認められました。そのため、ゾフルーザはノイラミニダーゼ阻害薬が使用できないときの代替薬という位置付けでした。
しかし、有効性・安全性情報等の集積により、2023年11月19日に2023/24シーズンのインフルエンザ治療・予防指針が提言、ゾフルーザの位置付けが一部変更されました。その中で12歳以上の小児に対してはタミフル同様に推奨されています。一方で、新生児・乳児、幼児、小児、重症患者では、エビデンス不足、耐性ウイルスの懸念等から積極的には推奨されていない状況です。
参考までに:2022/23 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針
インフルエンザ治療薬:妊婦・授乳婦への投与
続いて、インフルエンザ治療薬の妊婦・授乳婦に対する投与について。添付文書の記載は以下のとおりです。いずれも妊婦・授乳婦の方には、有益性を考慮して個々で投与の要否を決定します。
- 妊婦…有益性>危険性の場合に投与
- 授乳婦…授乳の継続又は中止を検討(有益性考慮)
インフルエンザ治療薬:妊婦・授乳婦への投与(電子添文の比較)
商品名 | 妊婦 | 授乳婦 |
---|---|---|
タミフル | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性に投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(ラット)で胎盤通過性が報告されている | 治療の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。ヒト母乳中へ移行することが報告されている。 |
リレンザ | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(ラット、ウサギ)で胎盤通過性が報告されている。 | 治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。動物実験(ラット)で乳汁中に移行することが報告されている。 |
イナビル | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(ラット)で胎盤通過性が報告されている。 | 治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。動物実験(ラット)で乳汁中に移行することが報告されている。 |
ラピアクタ | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性に投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。ラットで胎盤通過性、ウサギで流産及び早産が報告されている | 治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。ラットで乳汁中に移行することが報告されている。 |
ゾフルーザ | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性に投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(ラット、ウサギ)において、催奇形性は認められなかったが、ウサギにおける高用量投与で、流産及び頚部過剰肋骨が報告されている。また、ラットにおいて胎盤通過が認められている。 | 治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。ヒト母乳中への移行は不明だが、ラットで乳汁中への移行が報告されている。 |
でも、このような記載だと、抗インフルエンザ薬の投与を躊躇してしまいかねません。どうしても投与によるリスクの方を重視してしまいがちだからです。一方で、妊婦に対して抗インフルエンザ薬の投与は推奨されています。妊婦さんはインフルエンザによる合併症や入院のリスクが高いからです。
日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」では、「妊婦および出産後2週以内の産褥婦」は、合併症のハイリスク患者であり、可及的早期に抗ウイルス治療を開始することとされています。
では、妊婦・授乳婦の方に使用できる抗インフルエンザ薬は?
国立生育医療研究センターによると、妊婦・授乳婦の方には使用実績があるタミフル、リレンザ、イナビルが勧められています。
- タミフルカプセル
- リレンザ吸入
- イナビル吸入
- インフルエンザにかかった場合に、薬を使用することはできますか?
-
日本で主に使用されているインフルエンザの治療薬にはタミフル® ・リレンザ® ・イナビル®などがあります。 タミフル®は内服薬で妊娠初期に使用したお母さんの赤ちゃんでの先天異常発生率は、一般の先天異常発生率の3%と比べて増加はみられなかったという報告が複数あります。リレンザ®・イナビル®は吸入薬です。リレンザ®に関しては妊娠初期に使用したお母さんの赤ちゃんに先天異常発生率の増加はみられなかったという報告が1つあります。イナビル®については妊娠初期の使用に関する報告はありませんが、いずれも吸入薬であり、お母さんの血液中に検出される薬の量はごくわずかですので、妊娠中の使用は問題になりません。
国立生育医療研究センター、妊娠と薬情報センター、妊娠と薬について知りたい方へ、妊娠中のお薬Q&A - インフルエンザの治療薬は授乳中にも使えますか?
-
日本でよく使用されているインフルエンザの治療薬にはタミフル®・リレンザ®・ イナビル®などがあります。タミフル®は内服薬、リレンザ®とイナビル®は吸入薬です。タミフル®に関しては母乳移行量を調べて、非常に少なかったと報告されています。授乳中の使用が問題になる可能性は低いと考えられます。リレンザ®・イナビル®はいずれも母乳移行量を調べた報告はありませんが、もともとお母さんの血液中にほとんど検出されないので、授乳中の使用は問題にならないと考えられます。
国立生育医療研究センター、妊娠と薬情報センター、授乳と薬について知りたい方へ、授乳中のお薬Q&A
インフルエンザ治療薬:腎機能障害時の投与について
続いて、腎機能障害時の投与について。インフルエンザ治療薬は、腎機能に応じて投与量の調節が必要な薬があります。
\腎機能に応じた投与量設計の要否/
タミフルとラピアクタは腎機能に応じた投与設計が欠かせません。排泄遅延に伴う副作用のリスクが増加するからです。
- Ccr>30…通常量(75mg×2を5日間)
- 10<Ccr≦30…減量(75mg×1を5日間)
- Ccr≦10…推奨用量は確立していない
Ccr≦10の場合はどうすればいいのか?
日本透析医学会・日本透析医会から透析患者さんは以下の用量が推奨されています。
・タミフルカプセル 75mg1capを単回服用
血液透析(48時間間隔で2回実施)あるいは腹膜透析(1日4回実施)を行う患者さんにおいて、75mg単回服用で、5日間にわたって抗ウイルス作用を示す血中濃度を維持できることが確認されています。
- 50≦Ccr…通常量(300mg ※重症例600mg)
- 30≦Ccr<50…減量(100mg ※重症例200mg)
- 10≦Ccr<30…減量(50mg ※重症例100mg)
Ccr10未満はどうすればいいのか?
投与量の設定がありません。慎重に投与量を設定することとあります。
クレアチニンクリアランス10mL/min未満及び透析患者の場合、慎重に投与量を調節の上投与すること。ペラミビルは血液透析により速やかに血漿中から除去される
ラピアクタ点滴静注 電子添文
CKD診療ガイド2012によると
・Ccr10未満のCKD患者…50〜100 mgを1回投与
・血液透析患者…50〜100mgを1回投与(重症例ではHD後に50mg追加)
インフルエンザ治療薬の予防投与
続いて、インフルエンザ治療薬の予防投与について。ポイントは3つです。
- 予防投与の条件がある(誰でも投与できるわけではない)
- 予防投与の適応がない製剤がある(ラピアクタ、イナビル吸入懸濁用)
- 予防投与の適応がないケースがある(新生児、乳児等)
インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の
同居家族又は共同生活者である
- 高齢者(65歳以上)
- 慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
- 代謝性疾患患者(糖尿病等)
- 腎機能障害患者
誰にでも予防投与できるわけではありません。同居家族又は共同生活者で、インフルエンザの重症化リスクが高い人が対象です。あと、予防投与は保険がききません(自費です)。
あり
なし
①ラピアクタと②イナビル吸入懸濁用は予防投与が認められておりません。
- タミフル…新生児、乳児(1歳未満)
- ゾフルーザ…10kg以上20kg未満
上記のケースでは治療の適応はありますが、予防の適応がありません。新生児、乳児(1歳未満)で、予防投与の必要性が高い場合には、以下の用法用量で投与を検討します。
原則、予防投与としてのオセルタミビルは推奨しない(海外でも予防投与については1歳未満で検討されていない)。ただし、必要と認めた場合に限り、インフォー ムドコンセントのもと予防投与(予防投与量:2mg/kgを1日1回、10日間内服)を検討する
2023/24 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針
インフルエンザ治療薬と異常行動のリスク
続いて、インフルエンザ治療薬の異常行動リスクについて。
ポイントは3つです。
- タミフルの警告は削除されて、10代の未成年にも使用可能となった
- 全てのインフルエンザ治療薬に異常行動が出現する可能性がある
- 特に小児・未成年に投与する場合、異常行動のリスクと事故防止策の説明が必要
①異常行動といえば、タミフルを思い浮かべる人は多いですよね。因果関係は不明であったものの、転落死の事例(2件)に続き、転落による骨折事例(2件)の報告を受けて、2007年3月に緊急安全性情報が発出、「10歳以上の未成年者には原則使用しない」よう注意喚起がされた経緯があります。
しかし、2018年10月に添付文書が改訂、警告欄にあった「10代の未成年は原則、タミフルの処方を控えること」の記載が削除されました。
その後、約10年の調査により、①抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無又は種類にかかわらず,インフルエンザ罹患時には異常行動が発現していること、②タミフル及び他の抗インフルエンザウイルス薬ともに,異常行動の発現頻度は10代と10歳未満とで明確な差はないことが明らかになったからです。
タミフルカプセル/ドライシロップ、使用上の注意改訂のお知らせ
②③異常行動はすべてのインフルエンザ治療薬の服用中に加えて、インフルエンザ感染症の症状として起こる可能性があります。
特に、小児・未成年へに投与時には患者、家族に以下2点の説明が必要です。
①異常行動の発現のおそれがあること
②自宅において療養を行う場合、少なくとも発熱から2日間、保護者等は転落等の事故に対する防止対策を講じること
- 玄関や全ての部屋の窓の施錠を確実に行う(内鍵、補助錠がある場合はその活用を含む)
- ベランダに面していない部屋で寝かせる
- 窓に格子のある部屋で寝かせる(窓に格子がある部屋がある場合)
- できる限り1階で寝かせる(一戸建てにお住まいの場合)
下記リーフレットも活用できます
インフルエンザ治療薬のコスト
最後にインフルエンザ治療のコストについて。成人の投与量にかかる費用は以下のとおりです。
薬価 | 用法用量 | 1コース費用 | |
---|---|---|---|
タミフルカプセル オセルタミビルカプセル「サワイ」 | ¥230.2/cap ¥114.4/cap | 75mg×2×5日 | 2,302円 1,144円 |
リレンザ吸入 | ¥127.7/BL | 4BL×5日 | 2,554円 |
イナビル吸入 | ¥2,179.5/キット | 2キット | 4,359円 |
ラピアクタ点滴静注液バッグ300mg | ¥6,331/袋 | 1袋=300mg | 6,331円 |
ゾフルーザ錠20mg | ¥2438.80/錠 | 40mg 80mg:80kg以上 | 4877.6円 9,755.2円 |
タミフルとリレンザの薬代は2500円前後(3割負担で750円)です。タミフルはジュネリックの登場により、さらに費用を抑えることが可能です。
一方で、単回使用製剤はコストがかさみます。1コースの薬代はオセルタミビル(ジェネリック)に比べて、吸入薬イナビルで約4倍、点滴静注ラピアクタで5.5倍です。ゾフルーザは高体重(80kg以上)の方では、約9倍にもなります。
コストで選ぶなら、5日間の服用が必要ですが、タミフルのジェネリック一択ですね。
まとめ
今回は、インフルエンザ治療薬の特徴や使い方についてまとめました。
オセルタミビル | ザナミビル | ラニナミビル | ペラミビル | バロキサビルマルボキシル | |
---|---|---|---|---|---|
商品名 | タミフル | リレンザ | イナビル | ラピアクタ | ゾフルーザ |
作用機序 | NA阻害 | NA阻害 | NA阻害 | NA阻害 | キャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性阻害 |
投与経路 | 経口 | 吸入 | 吸入 | 注射 | 経口 |
規格・剤型 | カプセル75mg/ドライシロップ3% | 吸入剤 | 吸入粉末剤20mg | バッグ300mg/バイアル150mg | 錠10mg/錠20mg/顆粒2%分包 |
適応 | A型又はB型 | A型又はB型 | A型又はB型 | A型又はB型 | A型又はB型 |
用法用量 | 成人及び37.5kg以上の小児 1回75mg 1日2回 幼小児 2mg/kg/回 新生児、乳児 3mg/kg/回 | 成人及び小児 1回2吸入 1日2回 | 成人及び10歳以上の小児 40mg(2容器) 10歳未満の小児 20mg(1容器 | 成人 300mg 15分以上かけて(600mgに増量可) 小児 10mg/kg 15分以上かけて(最大600mg) | 成人及び12歳以上の小児 20mg×4錠 (80kg以上) 20mg×2錠 (80kg未満) 12歳未満の小児 20mg×2錠 (40kg以上) 20mg×1錠 (20kg以上40kg未満) 10mg×1錠 (10kg以上20kg未満) |
投与日数 | 5日間 | 5日間 | 単回使用 | 単回使用 ※反復投与可 | 単回使用 |
腎機能障害時の投与 | 減量必要 | 通常量 | 通常量 | 減量必要 | 通常量 |
妊婦・授乳婦への投与 (国立生育医療研究センターの推奨) | 推奨 | 推奨 | 推奨 | ||
予防投与 | 可 | 可 | 可 | 不可 | 可 |
備考 | ジェネリックあり | 乳製品アレルギー注意 | 乳製品アレルギー注意 | 肝機能障害に注意 | 耐性ウイルスに注意 |
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