イナビルの新剤型!
イナビル吸入懸濁用160mgが、2019年6月に承認され10月25日から販売されました。
イナビル吸入粉末剤との違いは?
ポイントは大きく3つです。
- イナビル吸入“懸濁用”は“吸入粉末剤”に続く新剤型!
- メリットは大きく2つある!
- 臨床的な位置付けは?
押さえておきたい特徴について解説します。
イナビル吸入“懸濁用“は”吸入粉末剤“に続く新剤型!
成分は同じ、ノイラミニダーゼ阻害薬!
成分は同じラニナミビル。加水分解により活性化されるプロドラッグです。
ラニナミビルはノイラミニダーゼ阻害薬。A型、B型インフルエンザウイルスが感染細胞で形成されて、次の細胞へと放出されるのを阻害して抗ウイルス作用を示します。
適応は治療のみ、予防投与はできない
イナビル吸入懸濁用の効能効果は下記です。
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療のみ
イナビル吸入粉末剤は予防投与ができますが、懸濁用の方はできません。
・ちなみに、ラピアクタ点滴静注、ゾフルーザなどの抗インフルエンザ薬も治療のみで、予防投与はできません。(タミフル、リレンザは予防投与可)
投与方法が異なる
1番の違いです。
・イナビル吸入粉末剤は自分の力で勢いをつけて吸入する。一方、イナビル懸濁用の方は、ネブライザで薬液を霧状にしたものを自発呼吸で吸う。
能動的か受動的かの違いで、イナビル懸濁用は吸入力が弱い人でも使用することが可能です。
成人と小児用量が同じ
成人も小児も投与量は同じです。
吸入粉末剤は以下のように投与量が異なります。
・成人、小児(10歳以上)…40mg
・小児(10歳未満)…20mg
懸濁用は年齢に関係なくどちらも、160mgで共通です。
大丈夫って?感じですけど、in vitro 試験で懸濁用160mgは、肺に到達する量が、吸入粉末剤における成人と小児用量にそれぞれ相当することが確認されています。
イナビル吸入粉末剤の承認用量に相当する本剤の用量を検討するため、米国薬局方に定める小児と成人の標 準的な呼吸パターン(換気量、呼吸頻度、吸入/呼気時間比)を考慮し、気管及び肺に到達する薬物量と相 関する指標の微粒子量(fine particle dose: FPD)を in vitro カスケードインパクターを用いて評価した。 その結果、本剤160mg は、小児と成人の標準的な呼吸パターンで、それぞれ吸入粉末剤20mg(10歳未満の承認用量)及び吸入粉末剤 40mg(成人及び10歳以上の小児での承認用量)に相当するFPDが得られた。
同じ量をネブライザで蒸気にしても、自発的に吸入できる量は小児の方が少ないので、過量投与にはならないという理解です。
・イナビル懸濁用の用量は、成人と小児、どちらも160mgで共通。
ネブライザが必要
ジェット式のネブライザが必要です。
ネブライザーの種類は大きく3種類。
- ジェット式…圧縮した空気で薬液を霧状にする
- 超音波式…超音波振動子の振動により、薬液を霧状にする
- メッシュ式…振動によって薬液をメッシュの穴から放出し霧状にする
イナビル吸入懸濁用はジェット式のみ適合が確認されてます。超音波式やメッシュ式の機器は使用できません。
↓適合性が確認されているジェット式ネブライザ(メーカー資料より)
- PARI ボーイSX(村中医療器株式会社)
- PARI イプシータ(村中医療器株式会社)
- オムロン コンプレッサー式ネブライザ NE-C28、NE-C29、NE-C30
- ミリコン Cube(新鋭工業株式会社)
- ミリコン Pro(新鋭工業株式会社)
- ボヤージ(株式会社東京エム・アイ商会)
- インスパイア ミニ コンプレッサー(株式会社東京エム・アイ商会)
- ソフィオ(株式会社東京エム・アイ商会)
ネブライザが必要なイナビル吸入懸濁用。医療機関で使用するのが基本です。
吸入に際して必要な物品
イナビル吸入粉末剤は、クスリだけを準備すればOK。
一方で、懸濁用はネブライザに加えて、以下の物品が必要になります。
- 生理食塩液2mL…粉末を溶解するためのもの(医療機関で用意)
- 注射針とシリンジ…溶解、調製に必要(医療機関で用意)
- 吸入マスク…本剤に付属
- 吸入マスク用アダプタ…本剤に付属
- ネブライザ吸入器本体…本剤に付属
専用の付属品は、1患者ごとに1セット、使い捨てです。感染対策に配慮されています。
吸入にかかる時間は?
イナビル懸濁用はどのくらい時間がかかるのか?
・準備に2分、吸入に10分程度といわれてます。
準備は慣れたら、もっと早くできます。
イナビル吸入粉末剤は説明も入れて5分程度で完結することを考えると。懸濁用の方は2倍くらい時間を要する計算です。
抗インフルエンザ薬の種類と剤型
イナビル吸入懸濁用の発売で、治療の選択肢が増えました。
以下のラインナップです。
ノイラミニダーゼ阻害薬
- タミフル…カプセル、ドライシロップ
- リレンザ…吸入
- イナビル…吸入粉末剤・吸入懸濁用
- ラピアクタ…点滴静注
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬
- ゾフルーザ…錠剤
RNAポリメラーゼ阻害薬
- アビガン…錠剤
ゾフルーザは顆粒が承認されてますが、未発売(薬価未収載)です。
アビガン除くと、抗インフルエンザ薬は、ぜんぶで5種類、7剤型のラインナップになりました。
治療にかかる費用
イナビル吸入粉末剤と同程度です。
成人では懸濁用の方が若干安いけど、10歳未満の小児では、負担が約2倍に倍増します。
・イナビル吸入粉末剤…20mgで2179.5円(40mgで4359.0円)
・イナビル吸入懸濁用…4241.5円(2019/10月時点の薬価です)
他の製剤との比較もしておきます。
- タミフルカプセル…2678.0円/コース(1297.0円ジェネリック)
- リレンザ…2890.0円/コース
- ラピアクタ…6331.0円/袋
- ゾフルーザ……4877.6円/40mg(通常量)、9755.2円/80mg(高用量)
イナビル吸入懸濁用は、単回使用製剤のなかでは、薬価が一番低い。ラピアクタは点滴製剤でやや高めの値段設定です。ゾフルーザの80kg以上がダントツで高いですね。
臨床試験:イナビル吸入懸濁用160mg単回使用 vs プラセボ
- 対象者…A型またはB型インフルエンザウイルス感染症患者534例(成人及び10歳以上の小児)
- 主要評価項目…インフルエンザ罹病時間(全てのインフルエンザ症状※が“なし”または“軽度”に改善し、21.5時間以上持続するまでの時間)
※頭痛、筋肉痛または関節痛、疲労感、悪寒または発汗、鼻症状、喉の痛み、咳 - 結果…55.3時間(イナビル)vs 73.6時間(プラセボ) p=0.0048
- 安全性…2.2%(イナビル)vs 4.1%(プラセボ)、主な副作用は下痢。
・イナビル吸入懸濁用は、プラセボに比べて一日弱程度、インフルエンザ罹病期間が短縮しました。
10歳未満の小児に対する臨床試験
- 対象者…A型またはB型インフルエンザウイルス感染症患者173例(10歳未の小児)
- プラセボとの比較なし
- 主要評価項目は、インフルエンザ罹病時間
- 結果は、中央値49.0時間でした
倫理的な問題もあって、プラセボとの比較がない試験です。
メリットは大きく2つある…その②
自発呼吸で吸入できる
イナビル吸入粉末剤は、ある程度の吸入力がないと上手く吸えません。
・イナビル吸入懸濁用は、薬液をネブライザで霧状にして、自分の呼吸リズムで自然に吸入することができるのが最大のメリット!
今まで、吸入力が不十分だった人や吸入手技の理解が難しかった人でも安定した効果が期待できるのがいいところです。
乳糖が入っていない
乳製品アレルギーの人にも使用できる。
・イナビル吸入粉末剤は、添加物として乳たんぱくを含む乳糖が含まれています。乳製品にアレルギーを示す人には使用することができませんでした。リレンザ吸入も同様です。
一方で、懸濁用には、乳糖が入っていないので、乳製品にアレルギーがある人にも使えます。メーカーが売りにしているところです。
イナビル吸入懸濁用は、①自発呼吸で吸入できる、②乳製品アレルギーの人にも使えるのがメリットです。
臨床的な位置付けは?…その③
吸入力が低下した気管支喘息、COPD患者など
イナビル吸入粉末剤が吸入できなかった患者さんに使える。
・たとえば、肺機能の低下した気管支喘息やCOPDの患者さんです。自発呼吸のパターンに合わせて吸入することが可能です。
今までは内服や注射薬など吸入薬以外の剤型で対応していた患者さんに、懸濁用製剤が治療の選択肢に加わります。
吸入力が不十分な5歳未満の小児
イナビル吸入懸濁用が最も有用だと考えられます。
5歳未満の小児は、自分で吸入するのは難しかった。
・今までは、タミフルドライシロップで対応するのが一般的です。といっても、1日2回で5日間服用するのは、それなりに大変でした。ラピアクタ点滴という選択肢もありますが、痛みを伴う注射という時点で敬遠される傾向があります。
単回使用で、痛みを伴わない吸入懸濁用製剤。小児にとって特にメリットが大きく、今後選択されるケースが増えると予想されます。
吸入手技の理解が難しい人
吸入方法や手順に対する理解がないと、正しく吸入することはできません。
・イナビル吸入懸濁用は、ネブライザにセットして、蒸気化した薬剤を吸入するだけなので、手技の理解は不要です。マスクを口にあてて、自分の呼吸リズムに合わせて、吸入すればOK。
また、吸入手技の理解が難しい人の中には、服薬コンプライアンスが悪く、内服薬の選択を躊躇するケースもあって、治療の選択肢は注射剤のみとなる場合も。
懸濁用製剤の登場により、注射に加えて治療の選択肢が一つ増えることになります。
イナビル吸入懸濁用の臨床的な位置付けは、大きく3つ。①肺機能が低下した気管支喘息、COPD患者、②5歳未満の小児、③吸入手技の理解が難しい人です。
まとめ
最後にまとめておきますね。
ポイントは以下のとおりです。
- イナビル吸入“懸濁用”はイナビル“吸入”の新剤型!
→違うのは投与方法、自力で吸うのが粉末製剤、ネブライザで霧状にしたものを自然呼吸で吸入するのが懸濁用製剤。投与量は、小児と成人で一緒。予防投与はできない。 - メリットは大きく2つ
→乳糖を含まないので、乳製品アレルギーの患者さんにも安心して使用できる!
→ネブライザーで霧状にして自発呼吸で吸入できる! - 臨床的な位置付け
・肺の機能が低下した気管支喘息、COPD患者など
・吸入力が低い5歳未満の小児
・吸入手技の理解が難しい患者さん
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今回はイナビル吸入懸濁用160mgについて解説しました。
最後まで、読んでいただきありがとうございます。