新剤型!
イナビル「吸入懸濁用160mgセット」
が2019年6月に承認、10月25日から販売されました。
イナビル「吸入粉末剤」との違いは何か?
気になりますよね。
今回は、イナビル「吸入懸濁用」と「吸入粉末剤」を比較しながら、両剤の違いを解説します。
イナビル吸入懸濁用と吸入粉末剤の比較
イナビル吸入懸濁用 | イナビル吸入粉末剤 | |
---|---|---|
販売 | 2019年10月 | 2010年10月 |
一般名 | ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 | ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 |
作用機序 | ノイラミニダーゼ阻害 | ノイラミニダーゼ阻害 |
規格 | 160mg/セット | 20mg/個 |
適応 | A型又はB型 | A型又はB型 |
予防投与 | 不可 | 可 |
投与方法 | ネブライザーで吸入 | 自力で吸入 |
用法用量 | 160mgを生理食塩液2mLで懸濁後に、ネブライザー吸入 | 成人及び10歳以上の小児 40mg(2容器) 10歳未満の小児 20mg(1容器) |
投与日数 | 単回使用 | 単回使用 |
添加物 | チロキサポール | 乳糖 |
薬価 | ¥4241.5 | 成人、小児(10歳以上):¥4359.0(2個) 小児(10歳未満):¥2179.5(1個) |
ポイントは大きく8つです。
- 有効成分
- 作用機序
- 適応
- 投与方法
- 投与量
- 有効性
- 添加物
- コスト
違いだけでなく、共通点も合わせて見ていきましょう!
イナビル吸入懸濁用の有効成分…ラニナミビル
共通点
・イナビル吸入懸濁用…ラニナミビルオクタン酸エステル水和物
・イナビル吸入粉末剤…ラニナミビルオクタン酸エステル水和物
どちらも成分は同じ。イナビルはプロドラッグです。加水分解により活性代謝物ラニナミビルに変換され、薬効(抗ウイルス作用)を発揮します。
イナビル吸入懸濁用の作用機序…ノイラミニダーゼ阻害薬
共通点
・イナビル吸入懸濁用…ノイラミニダーゼ阻害薬
・イナビル吸入粉末剤…ノイラミニダーゼ阻害薬
もちろん、作用機序も同じ。ノイラミニダーゼ阻害薬です。A型、B型インフルエンザウイルスが感染細胞で増殖した後に、⑤出芽から⑥放出される過程を妨げることにより、次の細胞へと感染が広がるのを防ぎます。出芽の段階では、インフルエンザウイルスが細胞膜上のシアル酸に繋がれた状態です。その結合を切るのがノイラミニダーゼの役割になります。
イナビル吸入懸濁用の適応…治療のみ(予防不可)
相違点①
・イナビル吸入懸濁用…A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療
・イナビル吸入粉末剤…A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防
ここは1つ目の違い。イナビル吸入懸濁用は治療にのみ用います。イナビル吸入粉末剤のように予防投与の適応はありません。
予防投与の適応あり
- タミフルカプセル・ドライシロップ
- リレンザ吸入
- イナビル吸入粉末剤
- ゾフルーザ錠
予防投与の適応なし
- イナビル吸入懸濁用
- ラピアクタ点滴静注
イナビル吸入懸濁用の投与方法…ネブライザーで吸入
相違点②
・イナビル吸入懸濁用…ネブライザーで吸入(受動的)
・イナビル吸入粉末剤…自分の力で吸入(能動的)
ここが最大の違い(2つ目)ですね。
イナビル吸入粉末剤は自分の力で勢いをつけて吸入しなければなりません。吸う力が弱いと十分にドライパウダーを肺の奥まで到達させることができないからです。一方、イナビル懸濁用は吸入力が弱い人に向いています。ネブライザで薬液を霧状にしたものを自発呼吸で吸えるからです。
イナビル吸入懸濁用は吸入力が弱い小児や高齢者に有用性が高いといえます。
①ジェット式のネブライザー
- PARI ボーイ SX (村中医療機器株式会社)
- PARI イプシータ【販売終了】(同上)
- オムロン コンプレッサー式ネブライザ NE-C28 (オムロンヘルスケア株式会社)
- オムロン コンプレッサー式ネブライザ NE-C29 (同上)
- オムロン コンプレッサー式ネブライザ NE-C30【販売終了】(同上)
- ミリコン Cube (新鋭工業株式会社)
- ミリコン Pro (同上)
- ボヤージ (株式会社東京エム・アイ商会)
- イノスパイアミニコンプレッサー (同上)
- ソフィオ (同上)
イナビル吸入懸濁用はジェット式のみ適合が確認されています。超音波式やメッシュ式の機器は使用できません。
- ジェット式…圧縮した空気で薬液を霧状にする
- 超音波式…超音波振動子の振動により、薬液を霧状にする
- メッシュ式…振動によって薬液をメッシュの穴から放出し霧状にする
②投与に際して医療機関で準備するもの
- 生理食塩液2mL…粉末を溶解するためのもの
- 注射針とシリンジ…溶解、調製に必要
メーカーによると
準備に2分、吸入に10分程度、かかるそうです。
イナビル吸入粉末剤は説明も入れて5分程度で完結することを考えると、懸濁用の方は2倍くらい時間を要する計算です。
イナビル吸入懸濁用の投与量…成人と小児で共通
相違点③
・イナビル吸入懸濁用…160mg(年齢に関係なく)
・イナビル吸入粉末剤…成人、小児(10歳以上):40mg、小児(10歳未満):20mg
ここは3つ目の違い。イナビル吸入粉末剤は年齢により2つの用量設定(40mgと20mg)があります。一方で、吸入懸濁用は、年齢に関係なく成人、小児ともに160mgです。
大丈夫って?感じですけど、in vitro 試験で懸濁用160mgは、肺に到達する量が吸入粉末剤における成人と小児用量にそれぞれ相当することが確認されています。
(用法及び用量の設定経緯・根拠)イナビル吸入粉末剤の承認用量に相当する本剤の用量を検討するため、米国薬局方に定める小児と成人の標準的な呼吸パターン(換気量、呼吸頻度、吸入/呼気時間比)を考慮し、気管及び肺に到達する薬物量と相 関する指標の微粒子量(fine particle dose: FPD)を in vitro カスケードインパクターを用いて評価した。 その結果、本剤160mg は、小児と成人の標準的な呼吸パターンで、それぞれ吸入粉末剤20mg(10歳未満の承認用量)及び吸入粉末剤 40mg(成人及び10歳以上の小児での承認用量)に相当するFPDが得られた。
イナビル吸入懸濁用160mgセット インタビューフォーム
同じ量をネブライザで蒸気にしても、自発的に吸入できる量は小児の方が少ないので、過量投与にはならないという理解ですね。
イナビル吸入懸濁用の有効性…罹病期間を約1日短縮
ほぼ変わりません
・イナビル吸入懸濁用…インフルエンザ罹病時間をプラセボの比べて約1日間短縮
・イナビル吸入粉末剤…インフルエンザ罹病時間をタミフルと同程度短縮
患者背景や流行株等が異なるものの、概ね1日程度の短縮効果が得られると考えられます。
主要評価項目 | 結果 | 臨床試験 | |
---|---|---|---|
イナビル吸入懸濁用 | インフルエンザ罹病時間(全てのインフルエンザ症状が「なし」又は「軽度」に改善し、それらが21.5時間以上持続するまでの時間) | 約1日短縮(本剤55.3時間、プラセボ73.6時間) | 国内第Ⅲ相試験 |
イナビル粉末吸入剤 | インフルエンザ罹病時間(全てのインフルエンザ症状が「なし」又は「軽度」に改善し、それらが21.5時間以上持続するまでの時間) | タミフルと非劣性(本剤73.0時間、タミフル73.6時間) | 国際共同第Ⅲ相試験(成人) |
タミフル | インフルエンザ罹病期間(①鼻症状、②喉の痛み、③咳、④筋肉または関節等の痛み、⑤けん怠感または疲労感、⑥頭痛、⑦悪寒または発汗が全て回復するまでの期間) | 約1日短縮(本剤70.0時間、プラセボ93.3時間) | 国内第Ⅲ相試験 |
イナビル吸入懸濁用の添加物…乳製品アレルギーの方にも安全
相違点④
・イナビル吸入懸濁用…チロキサポール
・イナビル吸入粉末剤…乳糖水和物(夾雑物として乳蛋白を含む)
ここも違い(4つ目)です。イナビル吸入懸濁用は乳製品アレルギーの方にも安全に使用できます。吸入粉末剤と違って添加物に乳糖水和物を含まないからです。イナビル吸入粉末剤は、乳製品アレルギーの方には禁忌ではないですが、基本的には投与を避けるのが一般的な対応になります。
(乳製品に対して過敏症の既往歴のある患者)
本剤は、夾雑物として乳蛋白を含む乳糖水和物を使用しており、アナフィラキシーがあらわれたとの報告がある。
イナビル粉末吸入剤
イナビル吸入懸濁用のチロキサポールは界面活性剤です。薬剤の溶解性を増し、エアゾル粒子安定化のために添加されています。
イナビル吸入懸濁用のコスト…10歳未満では割高
相違点⑤
・イナビル吸入懸濁用…¥4241.5
・イナビル吸入粉末剤…成人と小児(10歳以上):¥4359.0、小児(10歳未満):¥2179.5
10歳未満の小児に用いる場合、大きな違い(5つ目)になります。成人と10歳以上の小児では、イナビル吸入懸濁用と粉末吸入剤の薬価はほぼ変わらないのに、10歳未満の小児では、吸入懸濁用は負担が約2倍に増えるからです。
具体的には、イナビル吸入粉末剤に代わって吸入懸濁用を使うと、成人及び10歳以上の小児では100円コストが抑えられ、10歳未満の小児では2000円多めに費用がかかります。
薬価 | 用法用量 | 1コース費用 | |
---|---|---|---|
タミフルカプセル オセルタミビルカプセル「サワイ」 オセルタミビル錠「トーワ」 | ¥205.8/cap ¥111.6/cap ¥111.6/錠 | 75mg×2×5日 | 2,058円 1,116円 |
リレンザ吸入 | ¥120.6/BL | 4BL×5日 | 2,412円 |
イナビル吸入 | ¥2,179.5/キット | 2キット | 4,359円 |
ラピアクタ点滴静注液バッグ300mg | ¥6,331/袋 | 1袋=300mg | 6,331円 |
ゾフルーザ錠20mg | ¥2438.8/錠 | 40mg 80mg:80kg以上 | 4877.6円 9,755.2円 |
まとめ
今回は、イナビル吸入懸濁用と吸入粉末剤を比較しながら、両剤の違いを解説しました。
本記事のポイント
イナビル吸入懸濁用 | イナビル吸入粉末剤 | |
---|---|---|
一般名 | ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 | ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 |
作用機序 | ノイラミニダーゼ阻害 | ノイラミニダーゼ阻害 |
規格 | 160mg/セット | 20mg/個 |
適応 | A型又はB型 | A型又はB型 |
予防投与 相違点① | 不可 | 可 |
投与方法 相違点② | ネブライザーで吸入 | 自力で吸入 |
用法用量 相違点③ | 160mgを生理食塩液2mLで懸濁後に、ネブライザー吸入 | 成人及び10歳以上の小児 40mg(2容器) 10歳未満の小児 20mg(1容器) |
投与日数 | 単回使用 | 単回使用 |
添加物 相違点④ | 乳糖含まない | 乳製品アレルギー注意 |
薬価 相違点⑤ | ¥4241.5 | 小児(10歳未満):¥2179.5(1個) | 成人、小児(10歳以上):¥4359.0(2個)
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