今回のテーマはフィアスプ注!
有効成分はインスリンアスパルト。ノボラピッド注(イノレット)と同じです。デバイスもフレックスタッチとペンフィル、バイアルの3つが用意されています。
有効成分が同じ両製剤の違いは何か?
フィアスプ注の特徴についてノボラピッド注と比較しながら解説します。
フィアスプ注:理解するためのポイント

大きく2つあります。
1)超超速攻型インスリン製剤
ノボラピッドよりも速効性がある
フィアスプ注は「超超速効型」になります。「超速効型」製剤よりも効果発現までの時間がさらに短縮されたインスリン製剤です。
国内で使用できる超速効型インスリンは3種類あります。
- ノボラピッド…インスリンアスパルト
- ヒューマログ…インスリンリスプロ
- アピドラ…インスリングルリジン
ノボラピッドはノボリンR(速効型)よりも速く効きます。フィアスプはノボラピッドの改良版。血糖効果作用がさらにスピードアップしました。
どのくらい違いがあるのか?
ざっくりいうと
「フィアスプの方が約4分速く効き始め、30分間で約2倍の効果が得られます」
日本人成人1型糖尿病患者における単回投与試験の結果は以下のとおりでした。(一部抜粋)
フィアスプ注 | ノボラピッド注 | |
onset of appearance (min) |
2.98±1.13 | 7.05±3.22 |
AUC0-15min (pmol×h/L) |
15.80 | 4.83 |
AUC0-30min (pmol×h/L) |
65.82 | 33.95 |
AUC0-12h (pmol×h/L) |
641.13 | 644.41 |
※onset of appearance:投与からインスリンアスパルト濃度が定量下限値に最初に達するまでの時間
※参照フィアスプ注インタビューフォーム

※「フィアスプ®の投与のタイミングにおける適正使用のお願い」より作成
上図を眺めると、血中濃度の立ち上がりが速いことがわかります。また、30分を経過した時点でAUCも大体2倍くらいあるように見えますね。ちょっとわかりにくい…。
では、どうして速効性が期待できるのか?
添加物であるニコチン酸アミドがスピードアップに関係しています。
ビタミンB3とも呼ばれるニコチン酸アミドは末梢の血管拡張作用があり、投与後にインスリンアスパルトが血中へ吸収される速度が上がるためです。
比較すると、フィアスプの方が2種類の添加物が増えています。
フィアスプ注 | ノボラピッド注 | |
有効成分 | インスリン アスパルト | インスリン アスパルト |
添加剤 | フェノール m-クレゾール 濃グリセリン 酸化亜鉛 リン酸水素Na Lーアルギニン ニコチン酸アミド 塩酸 水酸化Na |
フェノール m-クレゾール 濃グリセリン 酸化亜鉛 リン酸水素Na 塩酸 水酸化Na 塩化Na |
L-アルギニンとニコチン酸アミドを加えた目的は下記です。
- ニコチン酸アミド…末梢血管拡張作用→血中への吸収アップ
- L-アルギニン…製剤を安定化させる
もともと、インスリンアスパルトはヒトインスリンを改良して速効性を高めたものです。具体的にはヒトインスリンβ鎖の28位プロリン残基をアスパラギン酸に置換することで、投与後の解離スピードが速く(6量体→2量体、単量体)なりました。
フィアスプは、ノボラピッドの有効成分をそのままに、添加物の追加により速効性がさらに高まったインスリン製剤です。
ちなみに、ほかの超速効型製剤も追従しています。
ルムジェブです。インスリンリスプロにトレプロスチニルとクエン酸を加えて吸収速度を高めた製剤になります。添加物の種類は違えど、開発コンセプトは一緒です。
投与時点は食事開始前の2分以内

フィアスプは食直前2分以内投与です。食事を始める0〜2分前に投与すればOK。ノボラピッドが食直前15分以内だとすると、かなり短縮されました。
従来の製剤と比較すると下記です。
- ノボリンR注
…食事の30分前(食前投与) - ノボラピッド注
…食事の15分前(食直前投与) - フィアスプ注
…食事の2分前(食直前投与)
なぜ、食事前ギリギリ投与で良いのか?
もちろん、血糖効果作用がよりスピーディーになったからですね。
おもに食後の高血糖を抑えるのが、速効性インスリンの投与目的になります。食べ物が消化されて、血糖値が上がるタイミングに合わせてインスリンを効かせたいわけです。
でも、先述したように投与したインスリンは6量体から2量体、単量体になって吸収されるまでに時間がかかります。
インスリンの投与時点は重要です。タイミングがズレると期待した効果が得られないばかりか、低血糖の危険もあるからですね。
だから、効果発現に時間を要するインスリン製剤ほど、前もって投与する必要があるわけです。一方で、効果発現が速い製剤ほど投与時点が短縮されます。
フィアスプはノボラピッドよりも効果発現が速く、食事前ギリギリ投与で生体のインスリン分泌パターンに合わせることができる(超)超速効型インスリン製剤です。
2)食後にも投与できる!

フィアスプは食前投与以外の用法があります。
「食事を始めて20分以内の投与です」
これが驚きですね。インスリンは食前という常識が覆されたわけです。ここがメーカーの売りですね。
ただし、注意点があります。
基本は食前投与である点です。なぜなら、臨床試験において投与後26週までのHbA1c変化量がノボラピッドと比べて非劣性であったものの、フィアスプ食後投与は食前投与に比べて劣る可能性が示唆されたからです。
臨床試験の結果は以下のとおりでした。
製剤 | フィアスプ | ノボラピッド | |
投与時点 | ①食前投与 | ②食後投与 | ③食前投与 |
HbA1c(変化量) ※26週時点 主要評価項目 |
-0.12 ③に対して非劣性 |
-0.002 ③に対して非劣性 |
-0.10 |
食後血糖値(変化量) ※26週時点 検証的副次評価項目 |
-18.34 ③に対して優越性 |
16.16 ③に対して劣性 |
-2.10 |
参考文献)成人1型糖尿病患者を対象としたBasal-Bolus療法におけるインスリンデグルデグ併用下でのフィアスプとノボラピッドの比較試験
食後投与の方がデータがよくないのは、投与タイミングの遅れが原因とされています。食前投与に比べて食後血糖値を十分に抑え切れないためです。
だから、通常は食前投与になります。しかし食後投与の必要性が高いと判断される患者さんでは食後投与も可という扱いです。積極的に推奨されているわけではありません。
「基本は2分前以内、必要に応じて食事開始後20分以内も可」ということ
ここは押さえておきたいポイントですね。
本剤は、ノボラピッド注より作用発現が速いため、食事開始時(食事開始前の2分以内)に投与すること。また、食事開始後の投与の場合は、食事開始から20分以内に投与すること。なお、食事開始後の投与については、血糖コントロールや低血糖の発現に関する臨床試験成績を踏まえた上で、患者の状況に応じて判断すること。
フィアスプ、添付文書
フィアスプ注:臨床の位置付けは?

フィアスプはどのような場合に有用なのか?
見ていきますね。
Basal-Bolus療法で使用する
まず、適応はインスリン療法が適応となる糖尿病です。
1型糖尿病患者(成人、小児ともに)を対象とした第3相臨床試験で有効性が認められました。
もちろん2型糖尿病患者さんにも使用できます。その場合には、食事療法や運動療法を行った人が対象で、いきなりフィアスプを選択するものではありません。当たり前ですが……。
「フィアスプはBasal-Bolus療法で使用するインスリン製剤です」
基礎-追加インスリン療法のことで、持効型のインスリンで基礎分泌を、毎食前の速効型インスリンで追加分泌を補う方法ですね。健常者のインスリン分泌パターンに近づけることで良好な血糖コントロールが期待できます。
本剤は持続型インスリン製剤と併用する超速効型インスリンアナログ製剤である。
フィアスプ、添付文書
では、ノボラピッドよりもフィアスプを選択した方がよいケースは?
大きく2つあります。
食事のタイミングがわからないとき

フィアスプは決まった時間に食事を摂取するのが難しい人に有用です。
病院では食事の時間が決まっています。朝昼夕の食事開始に合わせて、15分前に投与することは可能です。特別むずかしいわけではありません。
もちろん、自宅でも規則正しく決まった時間に食事をとっている人も大丈夫。
しかし、食事のタイミングが一定の人はどちらかというと少数派です。食事の時間はその日のスケジュールによって変動するのが普通ですよね。
たとえば、特に営業マンやタクシーの運転手など。時間が空いた時にささっと食事を済ませることが多いです。また外食時も難しいですよね。メニューを注文してどのくらいで料理がテーブルにやってくるのか正確には読めません。
だから、タイミングを見計って15分前に投与するのは実は簡単ではないのです。いつも、患者さんに当然の如く説明していますが、実はハードルが高いものなんですよね。
フィアスプは、食事開始2分前以内投与なので、食事のタイミングが不規則であったり、わからない場合に対応しやすいのがメリットです。
「今からご飯を食べよう」と思い立った時に投与して、すぐにご飯が食べられます。
食事量がわからないとき

フィアスプは食欲不振や体調不良で、食事の摂取量が予想できないケースにも有用です。
病院や介護施設ではよくあります。食事量が安定せずムラがある人は多いです。今日の朝は10割食べたけど、お昼は5割、夕食は全然食べないというケースも普通にあります。
特にご高齢の人ですね。NSTチームも悩んでいます。
そのような方に、食前のインスリン投与は危険です。低血糖のリスクがあるからですね。どのくらい食べてくれるかを予想するのは難しいものです。
インスリンを打ったからには何としても食べてもらわないと困るわけですが、こればっかしは患者さんの食欲に委ねるしかありません。
実際には、ある程度食べたのを確認してから食後に投与することもあるそうです。
フィアスプなら大丈夫。食後に開始できるので、食事量を見て投与の可否が判断できるし、単位数を調節することも可能です。
「今日は結構食べてくれた、じゃあ投与しよう」と、現場のニーズに応えてくれるのがメリットですね。
まとめ

今回は(超)超速効型インスリン製剤であるフィアスプ注について、超速効型のノボラピッド注と比較しながら特徴を解説しました。
記事を書きながら印象に残ったのは
まず速効性を高めたメカニズム。まさか、添加物の変更で新しい薬が開発されたと思っていなかったので、目からウロコでした。
それから、食後投与が可能である点。
驚きました。確かに臨床においてニーズがあります。今までは、あまり意識できていなかった、食前投与が実は難しいものであることを学ぶきっかけとなりました。
そしてインスリン製剤は投与タイミングが大事であること。有効性(血糖値やHbA1cを下げて合併症を防止する)と安全性(低血糖を予防する)を担保するために、生体のインスリン分泌に合わせる必要があるんですね。
フィアスプは、個々の患者さんの生活スタイルに合わせて、投与時点を選択できるのが強みであると感じました。
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