今回のテーマはDLST!
「ドラスト」と呼びます。
薬疹の時などに原因薬を推定するために行う検査です。
DLSTとは何か?押さえておきたい10個のポイント
をまとめたので共有したいと思います。
DLSTの意味
DLSTの略は?
薬剤誘発性リンパ球刺激試験
DLST:drug-induced lymphocyte stimulation test
別名、LTTと呼ばれることも!
リンパ球幼若化試験
LTT:Lymphocyte Transformation Test
DLSTの原理
DLSTは薬剤によるアレルギー反応を疑った時に、原因薬を特定(推定)するために行います。
どのような原理なのか?
「被疑薬」と「患者の血液に含まれるリンパ球」を培養して、「リンパ球がどのくらい増殖したのか?」免疫応答の強さから、薬剤性かどうかの判断を行う仕組みです
リンパ球がどのくらい増えたかは、培養液に添加する放射性のトリチウムチミジンを液体シンチレーションカウンターで測定します。
DLST結果の読み方
次に、検査結果の見方について。
DLSTの結果が出るまでの期間は10日程度です。検査結果は「陽性」とか「陰性」とかで表示されるかと思いきや、◯◯cpm、SI値という記載でかえってきます。
どう読めばいいのか?それぞれの用語について説明しますね。
cpm値とは?
・リンパ球に取り込まれたチミジンの放射活性
(counts per minute:1分あたりのカウント数)
cpmはどのくらいリンパ球が増殖されたのかを表す指標です。高いほど薬剤性の可能性が高くなります。
SI値とは?
・Stimulation indexの略
・薬剤を添加した群と無添加のコントロール群との比率
式は以下のとおりです。
SI値=薬剤を添加した群のcpm/コントロール群のcpm
薬剤性の判断基準は?
・SI値に100をかける
・180以上を「DLST陽性」と判断する
DLSTに必要なもの
DLSTを行う時に必要なものは2つあります。
①血液12mL(1薬剤追加ごとに5mLプラス)
②被疑薬
血液量は1薬剤で12mL、2薬剤を調べる時には5mL追加で計17mL。これに被疑薬をセットで検査室に持っていくという流れです。
採血に関しては色々と注意があります!
- ヘパリンが起因薬であれば専用容器を使用する
- 1薬剤で500万個のリンパ球が必要なため、白血球が少ない人では採血量が倍になる……など
検査精度を上げるために細かいルールがある点は要注意ですね。
それから、被疑薬は必要量が決まっています
- 錠剤…1錠
- カプセル…1カプセル
- 粉末…1回投与量程度1包
- リキッドタイプの飲み薬…0.5mL程度
- 注射薬…1バイアル(アンプル)
DLSTにかかる費用
DLSTにかかる費用はどのくらいなのか?
・1薬剤…345点
・2薬剤…425点
・3薬剤以上…515点
調べる薬剤の種類によって変わります。以前は自費でしたが、保険請求できるようになり患者さんの経済的負担も軽くなりました。
- 薬剤費は算定できるのか?
-
別途、保険請求できません。以下のように、検査における薬剤費の算定要件を満たさないからです。患者さんに施用(投与、使用)するものは算定できる場合がありますが、DLSTはin vitroの検査であり、患者さんに施行しないため、薬剤費は検査の点数(1薬剤…345点など)に含まれると解釈されます。
検査に当たって患者に対し薬剤を施用した場合は、特に規定する場合を除き、前号により算定した点数及び第5節の所定点数を合算した点数により算定する。
診療報酬点数 医科 > 第2章 特掲診療料 > 第3部 検査 > 検査 通則
DLSTに不向きな薬剤
DLSTは原因薬なら何でも検査できるか?
というと、そうではありません。DLSTに不向きな薬剤もあるからです。
例えば
- 麻薬、覚せい剤原料
- 脂溶性が高くて溶けにくい成分
- 坐薬やシロップ剤など溶けにくい製剤
麻薬と覚せい剤原料は調べることができません。麻薬及び向精神薬取締法、覚醒剤取締法の規制により受領ができないからです。一方で、向精神薬は検査が可能ですが、受領の記録が必要になります。
脂溶性が高い成分や溶解性の低い製剤は、物によって検査ができない場合もあるので検査担当者と相談しながら進めた方が良いでしょう。
あとですね。皮内反応注射薬や希釈された注射薬は、容量が少なかったり、濃度が薄かったり、と反応が弱く不向きなので、錠剤やカプセルで代用します。
DLSTができない薬剤がある点は押さえておきましょう。
DLSTの対象薬
一方で、DLSTの対象薬は?
下記が参考になります。
DLSTを行う場面
大きく2つの場面が想定されます。
- 薬疹
- 薬剤性肝障害
概要について簡単に確認しておきますね。
薬疹
薬疹は機序により2タイプに分類できます。
①即時型アレルギー(Ⅰ型)…IgE抗体が関与
②遅延型アレルギー(Ⅳ型)…リンパ球のT細胞が関与
DLSTは、遅延型アレルギー(Ⅳ型)による原因薬の特定に有用であるとされています。リンパ球のT細胞が関与するアレルギー反応を評価する検査だからです。ただし即時型でも遅発型に対する感作が成立している場合には陽性になることもあります。
DLSTで陽性になる典型的な薬疹は?
紅斑丘疹型薬疹です。全身に紅い皮疹ができます。
DLSTで陽性になる重症型の薬疹は?
- スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)
- 中毒性表皮壊死症(TEN)
- 薬剤性過敏症症候群(DIHS)
SJSとTENは有名ですね。目や口腔粘膜を中心に発赤やびらんが生じます。だんだん皮膚にも広がって全身が紅くなり、擦れるとズルズル皮膚が剥がれるのが特徴です。通常は、皮膚が剥がれた面積が10%以下のものをSJS、それ以上をTENと呼びます。
DIHSは薬剤以外にウイルスが関係し、発症までの期間が約4週間と長いです。原因薬として抗痙攣薬が最多で、薬剤中止後も症状が悪化したり、腎臓や肝臓、神経の症状など多彩な病状を示します。
日常業務でよく遭遇する薬疹。中でも重症薬疹は、再燃再発を防ぐためにも原因薬の特定が欠かせません。DLSTをうまく活用することが大切だと思います。
薬剤性肝障害
薬剤性肝障害は大きく2つに分類されます。
①中毒性
②特異体質性
中毒性は用量依存的に起こるアセトアミンフェンの肝障害が有名ですね。一方、殆どは用量非依存的に起こる特異体質性です。様々な薬物が原因になります。
特異体質性は2タイプに分類!
- アレルギー性…薬物そのものや中間代謝物に抗原性を獲得する
- 代謝性…薬物代謝酵素の個人差に起因する
この中で、DLSTが有用なのは、アレルギー性を機序とするT細胞傷害性の肝障害です。薬物療法中にときどき認める薬剤性の肝機能障害は、中止によって回復することがほとんどですが、中には再発、再燃を防ぐためにDLST試験を行う必要性が高いケースもあります。
一般医向けに作成された「DDW-J2004ワークショップ薬物性肝障害診断基準の提案」においてもDLST試験を活用することが記載されています。
現時点で、DLSTの保険適用は薬疹のみです。薬物性肝障害の原因薬特定にDLSTは保険適用ではありません。
DLSTのメリット
DLSTのメリットは?
患者負担が少なく、簡便である点!
DLSTは患者さんの血液と被疑薬を混ぜて培養し、リンパ球の反応をもとに診断する方法なので、患者さんの負担は採血だけです。in vitroで安全性が高いのが魅力だといえます。
一方で、患者さんの負担が大きいのは下記の検査です。
- 内服誘発試験(再投与試験)
- 皮膚パッチテスト
それぞれのメリットとデメリットを簡単に押さえておきます。
内服誘発試験
名前からどんな方法かイメージできますよね。原理はいたって単純です。チャレンジ試験とも呼ばれ、患者さんに被疑薬を1/10〜1/100と少量から再投与して反応を確認します。
内服誘発試験のメリットは確定診断ができる点です。一方で、症状の再発が懸念されます。患者さんの負担も大きいのが欠点です。安全性に配慮し、かなり減量して投与するとはいえ、患者さんからしたら、できることなら避けたいのが本音ですよね。
薬剤性肝障害では、通常、内服誘発試験は行いません。症状の再燃、悪化リスクが高いからです。
一方で、薬疹の場合には、ケースによりチャレンジ試験を行うこともあります。特にSJS、TENなどの重症例では再発の危険を回避するために、原因薬の特定が欠かせないからです。
皮膚パッチテスト
名前の通り、皮膚に被疑薬を溶かした溶液を塗布して局所の反応をみる方法です。
チャレンジ試験と異なり、全身投与ではないので、当然、患者さんの負担は減ります。
しかし、生体での代謝反応を介さないため、薬によっては偽陰性となったり、高濃度の接触によりアレルギー反応を感作する可能性があったり…と、結果の判定が難しいテストです。
皮膚パッチテストは、アレルギー性の接触性皮膚炎や薬疹の原因検索に用います。
DLSTのデメリット
DLSTの弱点は?
検査の陽性率が高くない点!
DLSTは陽性となった場合でも、必ずしも原因薬が特定されたとはいえません。陽性率は薬疹全体の約50%と低めだからです。ちなみに、皮膚パッチテストが50〜70%、内服試験ではほぼ確定診断ができます。
陽性率が低い原因は?
- 薬物代謝物や中間代謝物が原因の場合には「偽陰性」になる
→DLSTでは、生体での代謝反応を経るわけではないので代謝物が原因の場合には不向き。 - 採血のタイミングにより「偽陰性」となる
→アレルギー反応の直後ではコントロール群にも原因薬が含まれてしまう。治療に使うステロイドホルモンや免疫抑制剤が混入するとリンパ球の反応が弱くなる場合も。 - 「偽陽性」を起こす薬が知られている
→漢方薬やβラクタム薬、NSAIDs、注射金製剤など他にもいくつか報告がある
DLSTが陽性だからといって、「これが原因薬で間違いない」とは言い切れないし、逆に「陰性だから原因薬でない」ともいえません。
DLSTの結果は慎重な解釈が求められている!
この方法(DLST)は患者さんの血液(リンパ球)と原因薬剤を試験管内で混ぜ、薬剤に対する反応をみる方法です。この方法でも、偽陽性、偽陰性はかなりあり、判定はあくまで他の検査法の結果や臨床症状と照らし合わせて行うべきです。
日本皮膚科学会ホームページ、Q7薬疹と診断するにはどのような検査が行われますか?
・controlのCPMが低いときは参考データに留める
DDW-J2004ワークショップ薬物性肝障害診断基準の提案
・薬物そのものではなく、薬物製剤の添付されたものが原因となることがある
・免疫抑制剤、副腎皮質ステロイド薬使用患者は偽陰性となることがある
・肝炎極期には偽陰性となることがある。肝炎回復期初期の施行を推奨する
・薬物の中間代謝物が抗原となる場合は偽陰性となることがある
・biological modifierを含め偽陽性となる薬物が存在する
まとめ
今回は「DLST」をテーマに押さえておきたいポイントをまとめました。
薬疹や薬剤性肝障害が起こった時には、原因薬の中止、症状緩和のための治療に加えて、再発予防のために、原因薬の特定も大切な視点です。その方法の一つとしてDLSTを活用することができます。DLSTについて理解が深まり日常業務にお役立ていただけたらうれしいです♪