今回のテーマはバクスミー点鼻粉末剤!
一般名はグルカゴン、低血糖時の救急処置に用いる“点鼻粉末薬”です。
「低血糖の時はブドウ糖じゃないの?」
って思ってましたが、グルカゴンの出番もあります。在宅で使うことを、初めて知りました(^_^;)
バクスミーはかなり注目されている!
みたいで、今までに使っていたグルカゴン“注射薬“の上位互換といえるくらい!
両者を比較しながらバクスミーの特徴を解説します。
ポイントは大きく7つです。
- 適応症
- 作用機序
- 投与方法
- 有効性
- 保管
- 使用期限
- コスト
順番に見ていきましょう!
適応症

まずは一つ目。有効成分は同じですが、以下のように適応症が異なります。
※グルカゴン注(ジェネリック)はインスリノーマの診断に適応あり、胃の内視鏡的治療の前処置に適応なし
バクスミーの適応は限定的です。低血糖時の救急処置に特化した製剤になります。
一方で、グルカゴン注は適応が広いです。低血糖時だけではなく各種検査時にも使います。胃カメラの前投薬として用いるのは有名ですね。
このように、どちらも低血糖時の救急処置に使います。
では、バクスミー点鼻は具体的にどのような場面で用いるのか?
キーワードは下記3つです。
- when…低血糖時(重症)
- where…在宅(医療機関以外)
- who…看護者(ご家族等)
①重症の低血糖時に用います
基本的にバクスミーは、意識低下や昏睡など自力でブドウ糖を摂取できない時が出番です。グルカゴン注も同じですね。一方で、軽症の場合はブドウ糖の経口投与を行います。
②在宅で③看護者(ご家族等)が施行します
バクスミーは患者さん自身が行うものではありません。これもまたグルカゴン注と同様です。医療機関外における低血糖時の救急処置は、注射手技の指導を受けた看護者が行っています。一方で、医療機関では医師や看護師さんがブドウ糖の静脈内投与を行うことが多いですね。
適応に注目すると、バクスミー点鼻粉末剤は低血糖時の救急処置に特化した製剤!使用場面はグルカゴン注と同じです。①重症の低血糖時に②在宅で③看護者が用いる点は押さえておきましょう。
作用機序

次に2つ目のポイント。バクスミーとグルカゴン注、どちらも作用機序は同じです。有効成分が同一なので当たり前ですね。
グルカゴンの作用は大きく3つあります。
- 血糖値…グリコーゲンの分解と糖新生(肝cAMP↑)
- 消化管…消化管運動の低下、胃酸・膵液の分泌低下
- 下垂体…成長ホルモンの分泌
グルカゴンといえば血糖上昇作用!
肝細胞においてcAMP産生により、①グリコーゲンの分解を促進、血中グルコース濃度を上昇させます。それだけではありません。加えて糖新生も促します。乳酸やアミノ酸、ピルビン酸などの非糖質性の基質からグルコースを生成するわけです。
一方、グルカゴンは血糖を上げる作用だけではありません
②消化管の働きを抑えたり、③下垂体から成長ホルモン分泌させる働きもあります。各種検査に用いるのは先述のとおりです。
実は作用機序からバクスミが不向きなケースがあります
- 飢餓状態
- 副腎機能低下症
- 頻発する低血糖
- 一部糖原病
- 肝硬変等
- アルコール性低血糖
バクスミー点鼻粉末剤 添付文書より
上記病態ではグリコーゲンの減少や枯渇により、血糖上昇効果はほとんど期待できません。ではどうすればいいのか?代わりにブドウ糖を用いる必要があります。どんな病態にでもグルカゴンが使えるわけではないのですね。
作用機序に注目すると、バクスミーとグルカゴン注は同じです。グリコーゲンの分解と糖新生により内部からグルコースを供給します。一方でグリコーゲンが不足した病態では期待した効果が得られない点は押さえておきましょう。
投与方法

次に3つ目のポイント。ここが1番の違いですね。バクスミーとグルカゴン注は使い方(剤型)が異なります。
バクスミーのメリットは大きく3つです。
- 操作が簡便!
- 速やかに投与できる!
- 安全性が高い!
バクスミーは鼻腔内に噴霧する製剤です。
以下の手順で使います。
①操作は簡単です
バクスミーはケースから取り出して、鼻腔に差し込み、ボタンを押すだけ。自宅でご家族が簡単に投与できます。一方で、グルカゴン注は難易度が高めです。筋肉内注射の手技はいくら指導を受けたとしても抵抗がありますよね。
また、②スピーディに行えます
バクスミーはあらかじめ薬剤が充填されており、注射剤のように溶解操作が不要だからです。
③安全に行えるのもメリット!
注射針を扱わなくても良いので、針刺し事故の可能性もありません。
使い方を比べると、バクスミーは操作が簡便で速やかに投与できるし安全性の高さが魅力です。まさにグルカゴンの上位互換といえる点ですね。
有効性

次に4つ目のポイント。バクスミーとグルカゴン注はどちらが優れているのか、有効性を確認します。
国内臨床試験の結果は以下のとおりです
治療成功の割合は同等でした。
ちなみに、どのくらいの時間で効果が得られるのか?
治療成功までの平均時間は下記のとおりでした。
このように、バクスミー点鼻3mgとグルカゴン注1mgの有効性は変わりません。効果発現時期もほぼ同等です。となると、使いやすいバクスミーを選択した方が良いですね。
保管

続いて5つ目のポイント!以下のように保管方法が異なります。
ここが第2の魅力!
バクスミーは室温保存です。携帯性に優れます。持ち運びが簡単!職場に持って行けるし、旅行もOK、グルカゴン注のように保冷剤を準備する必要もありません。
ただし、夏場は注意が必要ですね。30℃を超える可能性が十分にあるからです。涼しい場所に置くのはもちろん、長時間の移動の際には、可能であれば保冷剤付きのバッグ等に入れた方が無難だと思います。
保管条件に注目すると、バクスミーの方が断然扱いやすいです。携帯性に優れているのがメリットですね。
使用期限

続いて6つ目のポイント。バクスミーとグルカゴンGノボ注は使用期限が異なります。※グルカゴン注の後発品とは使用期限が変わりません。
バクスミーは製造後24ヶ月で期限切れを迎えます。グルカゴンGノボ注よりも1年短めの設定です。
あえて言うならここが唯一の弱点かも…
当然、低血糖リスクが高い人に処方するわけですが、使用タイミングが2年以内とは限らないので。
グルカゴンGノボ注でも同じこと(3年以内とは限らない)がいえますが、期限はできるだけ長い方が安心だし、医療機関にとっても廃棄のリスクを減らせます。
使用期限に注目すると、現時点ではグルカゴンGノボ注に軍配が上がります。今後、バクスミーの期限が延長されたらいいのですが、どうなんですかね。
コスト

続いて7つ目のポイント。バクスミーは薬価がかなり高いです。比較すると明らかですね。
※2021年11月時点の薬価です。
薬価は断然高い!
バクスミーの方が6600〜6700円ほど高めの設定です。かなりの差がありますが、低血糖の救急処置においてバクスミーの方が断然使いやすい点を考えると妥当なところなんでしょうね。
しかし、実際のところ費用は大きく変わりません
グルカゴン注の場合、薬代のほかに在宅自己注射指導管理料(650点/月)や注入器加算等の費用が発生するからです。となると、患者さんの負担はそれほど変わらないか、むしろバクスミーの方が安くなる場合もあります。
コストに注目すると、在宅ではバクスミー、入院中はグルカゴン注という使い分けですかね。
バクスミーの処方に際しては、下記の留意事項が通知されています。
保険給付上の注意:本製剤を1回2瓶以上処方する場合は、複数必要と判断した理由を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
保医発0825第1号厚生労働省保険局医療課長通知
ちなみに、1回の低血糖発作に対して1瓶しか使えません。繰り返し投与によるグルコース濃度の上昇作用が認められていないからです。
1瓶の処方が基本ですが、患者さんの生活環境やライフスタイルによっては複数処方が必要な場合もありそうですね。
まとめ

今回はバクスミー点鼻の特徴をグルカゴン注と比較しながら解説しました。
ポイントをまとめると下記です。
- 適応)バクスミー…低血糖のみ、グルカゴン…低血糖+α
- 作用機序)共通…グリコーゲン→グルコース
- 投与方法)バクスミー…3mg点鼻、グルカゴン…1mg筋注
- 有効性)共通…回復率100%、11〜12分程度
- 保管)バクスミー…室温、グルカゴン…冷所(15℃以下、遮光)
- 使用期限)バクスミー…2年、グルカゴン…3年
- 費用)バクスミー≒グルカゴン※薬価はバクスミー≫グルカゴン
記事を書きながら思ったのは、
バクスミー点鼻粉末剤はグルカゴン注にとって代わる!
ということ!もちろん、低血糖時の救急処置において。
とにかく、剤型が簡便な点鼻であり、室温で携帯性に優れるのが最大の強みです。コストは大きく変わらないし、あとは使用期限が延長されれば、パーフェクトですね♪