【アスピリン喘息】「禁忌薬」と「使用できる薬」のまとめ

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アスピリン喘息って、名前が良くないと思いませんか?

だって、誤解を招きやすいですよね。「アスピリンだけが喘息発作をおこす」と思われがちだし、「アスピリンさえ飲まなければ大丈夫」と誤った認識の人もいます。

アスピリン喘息のことを、
正しく理解している人は意外と少ないのではないでしょうか?

今回は「アスピリン喘息」をテーマに、あいまいな解釈をスッキリと解消できる知識と考え方を解説します。

この記事を読んでわかること
  1. アスピリン喘息の基本
  2. アスピリン喘息の禁忌薬
  3. アスピリン喘息に使用できる薬

さっそく見ていきましょう。

目次

アスピリン喘息の基本

アスピリン喘息とは

定義は

アスピリンなどのNSAIDsにより誘発される、喘息発作や鼻閉、鼻汁などの強い気道症状を起こす過敏症のこと

頻度は

成人喘息の約5〜10%を占め、男女比は1 : 2で女性の方が多いとされています。

アスピリンだけが原因?

と思いがちですが、そうではありません。NSAIDs全般に認められる過敏症です。“NSAIDs過敏喘息”と呼ばれることもあります。また、アスピリン喘息はCOX-1阻害作用の強いNSAIDsに強く反応するため、“COX-1阻害薬過敏症”ともいわれます。

重篤副作用疾患別対応マニュアル 非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作(アスピリン喘息、解熱鎮痛薬喘息、アスピリン不耐喘息、NSAIDs 過敏喘息)

アスピリン喘息の機序

NSAIDsの投与によりエイコサノイド産生のバランスが崩れ、アラキドン酸の代謝がロイコトリエンの産生に傾き、気管支収縮を起こすというもの

エイコサノイドとは?

細胞膜の構成成分であるアラキドン酸から生成される生理活性物質の総称

  • プロスタグランジン(PG)
  • プロスタサイクリン(PGI)
  • トロンボキサン(TX)
  • ロイコトリエン(LT)など

具体的に説明すると

細胞膜のリン脂質はホスホリパーゼA2によりアラキドン酸(AA)に代謝されます。AAからシクロオキシゲナーゼ(COX)によりプロスタグランジン(PG)が、リポキシゲナーゼ(LO)によりロイコトリエン(LT)が生成されます。

なぜ、NSAIDsはロイコトリエンの産生を促し気管支収縮を起こすのか?

というと、COXの選択阻害により、もう片方(LO)の経路が活性し、LTの産生が促されるからです。アスピリン喘息の患者さんはもともと、LT系が亢進しており、さらに活性が高まり気管支収縮が起こります。

日内会誌 102:1426~1432,2013

添付文書で「アスピリン喘息」が「禁忌」の薬

アスピリン喘息が禁忌の薬はどのくらいあるのか?
気になったので調べてみました。

PMDAの添付文書情報メニューで「アスピリン喘息」と「禁忌」、2つキーワードで検索すると419件がヒットしました(令和5年3月時点)。ジェネリックや規格、剤型などの重複分を除き、有効成分だけに絞るとざっと35種類ほどになります。結構多いですよね。

詳しく見ると、予想に反してNSAIDsだけではなく、いわゆる解熱鎮痛剤も含まれていました。系統別に大きく3つのグループに分類できます。

アスピリン喘息が禁忌の薬
①NSAIDs

酸性NSAIDs、塩基性NSAIDs、COX-2阻害薬

②アセトアミノフェン

カロナール、PL配合顆粒、SG配合顆粒、トラムセット配合錠など

③ピリン系

スルピリン、SG配合顆粒

アスピリン喘息はNSAIDsだけではなく、アセトアミノフェンやピリン系薬などを含む解熱鎮痛薬全般も禁忌の扱いです。どうして禁忌なのか?というと、アセトアミノフェン、ピリン系どちらもCOX阻害作用(程度に差はあるものの)が認められているからです。

アセトアミノフェンのCOXに対する影響

体温中枢に関与しているプロスタグランジンの合成阻害はアスピリンと同程度とされているが、末梢におけるプロスタグランジンの合成阻害はアスピリンに比べ極めて弱いという。 平熱時にはほとんど体温に影響を及ぼさず、発熱時には投与3時間当たりで、最大効果を発現する。その鎮痛作用はアスピリンと同じく緩和な痛みに限られている。抗炎症作用はほとんどない。

カロナール錠 インタビューフォーム
スルピリンのCOXに対する影響

スルピリン水和物は,プロスタグランジン生合成の律速酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し,プロスタグランジンの産生を抑制することにより,解熱作用を現す

スルピリン注射液「日医工」 添付文書

だから、NSAIDsと同様にアスピリン喘息を起こす可能性があります。ピリン系とアセトアミノフェンも禁忌というわけですね。

アスピリン喘息は“解熱鎮痛剤全般の過敏症”ともいえます

アスピリン喘息の禁忌薬

アスピリン喘息誘発リスクの強さは、薬剤の種類、剤型によって変わります。危険度を見分ける視点は下記の2つです。

COX-1阻害作用の強さ
剤型の違い

①COX-1選択性が高いものほど誘発リスクが高く、逆にCOX-2選択性の高いものはリスクが低くなります。選択性の違いで評価するわけですね。

②血中濃度が急激に昇する剤型は症状の出現が早く重篤です。リスクが高い順に、注射薬、坐薬、内服薬、外用薬が続きます。

具体的に高リスク、中リスク、低リスクの薬剤をみてみましょう。

高リスクの薬

COX-1阻害作用あり、注射薬と坐薬
  • ケトプロフェン(カピステン筋注)
  • フルルビプロフェン(ロピオン静注)
  • スルピリン(スルピリン注、メチロン注販売中止)
  • ジクロフェナク(ボルタレンサポ)
  • インドメタシン(インテバン坐剤)
  • ピロキシカム(パキソ坐剤販売中止)…など

中リスクの薬

COX-1阻害作用あり、酸性NSAIDsの内服薬
  • アスピリン(バファリン、バイアスピリン)
  • ロキソプロフェン(ロキソニン錠)
  • メフェナム酸(ポンタールシロップ)
  • ジクロフェナク(ボルタレン錠)…など

低リスクの薬

弱いCOX-1阻害作用あり、酸性NSAIDsの外用剤、高用量アセトアミノフェン
  • ケトプロフェン(モーラス)
  • フェルビナク(ナパゲルン)
  • プラノプロフェン(ニフラン点眼)
  • アセトアミノフェン(500mg/回以上)…など

参考文献)日本内科学会雑誌第102巻第6号 p1429

このように、COX-1選択性と剤型の違いから考える点は覚えておきましょう。

注意すべきはロコアテープです。一般名はエスフルルビプロフェン、最近よく使われているNSAIDsの外用薬ですね。普通に考えると、外用剤なので低リスクに分類されます。しかし、ロコアテープは、経皮吸収率の高さが売りです。使用量によっては内服薬と同じくらいの血中濃度になるので、内服薬に準じたリスクと考えておいたほうが良いと思います。

急性増悪時に注意すべき注射薬

アスピリン喘息発作時に注意すべき注射薬があります。コハク酸エステル結合のステロイド注射薬です。急速に静注すると発作症状をかえって悪化させてしまう可能性が指摘されています。

コハク酸エステル型…禁忌
  • ヒドロコルチゾン(サクシゾン、ソル・コーテフ)
  • プレドニゾロン(水溶性プレドニン)
  • メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール)

では、どうすればいいのか?

リン酸エステル結合のステロイド薬であれば、比較的安全に使用できます。もちろん、急速静注すると添加物の影響により症状の悪化につながる可能性があるので緩徐に点滴静注を行うのが基本です。

リン酸エステル型…投与可(添加物に注意)
  • デキサメタゾン(デカドロン)
  • ベタメタゾン(リンデロン)

ちなみに、内服ステロイドは非エステル構造のため安全に使えます

アスピリン喘息患者でも使用できる薬

ここからはアスピリン喘息患者さんに使える薬剤について見ていきますね。

基本的には解熱鎮痛薬全般の投与を避けるべきですが、どうしても薬物治療が必要な場合には、どのような薬を選択すれば良いのか?

答えは

COX-1阻害作用がないか、あっても弱い薬を選択する!

これが基本の考え方です。やはり、COX-1阻害作用に注目ですね。アスピリン喘息に使用可能な薬剤は以下のとおりです。

安全に使用できる薬(喘息の悪化なし)

COX-1阻害作用がない、安全に使用できる薬
  • オピオイド薬(モルフィン、ペンタゾシンなど)
  • 非エステル型ステロイド薬(内服ステロイド)
  • 漢方薬(地竜、葛根湯など)

ほぼ安全に使用できる薬(不安定例では発作が生じる可能性あり)

COX-1阻害作用がわずか、ほぼ安全に使用できる
  • PL配合顆粒(アセトアミノフェン150mg/包含有)
  • アセトアミノフェン300mg/回以下
  • MS冷シップ(NSAIDs非含有サリチル酸を主成分)
  • エトドラク、メロキシカムなど(選択性の高いCOX-2阻害薬)
  • セレコキシブ(COX-2阻害薬)
  • 塩酸チアラミドなど(塩基性消炎剤)

添付文書で禁忌の薬剤

アレルギー総合ガイドライン2013 p93

添付文書で禁忌になってる薬がすべて使えないのかというと、そうではなくてCOX-1選択性やその強さによっては代替薬になります。

ただし、いくら安全性が高いといっても、喘息誘発のリスクがゼロではないので、個々の症例ごとに投与の可否を医師と相談し、処方変更後も症状のモニタリングが必要です。

おすすめの代替薬

オピオイドや漢方薬、ステロイドは使える場面が限られます。COX-1阻害作用がなくて安全性が高いといっても、適応症や副作用などを考えると代替薬として使いにくいケースがほとんどだからです。

じゃあ、臨床で使いやすい代替薬は何か?大きく2つあります。

低用量アセトアミノフェン
COX-2阻害薬

低用量アセトアミノフェン

1つ目はアセトアミノフェンですね。ただし、弱いながらもCOX阻害作用があるので、低用量使用が基本になります。

1回量300mg以下が推奨!

米国においてアセトアミノフェンの高用量投与(1回1000〜1500mg)で34%の患者が呼吸機能の低下を認めたからです。(J Allergy Clin Immunol 96: 480-485, 1995.)用量から考えると、解熱目的では効果が期待できそうですが、痛みの方は頼りないかもしれません。でも、適応症は広いし副作用も少ないので使い勝手はいい方ですかね。

剤型が豊富なのもメリット!

錠剤、散剤、シロップ剤、坐薬、点滴静注の製剤もあります。アセトアミノフェンは安全性が高く、患者さんごとに最適な投与経路を選択できるのがいいところです。

COX-2選択性の高い薬

2つ目はCOX-2阻害薬ですね。アスピリン喘息はCOX-1阻害薬過敏症なので安全に使用できます。

中でもCOX-2阻害薬セレコキシブ!

アスピリン喘息患者への安全性が示されています。(J Allergy Clin Immunol 118: 773-786, 2006.)適応症から解熱目的では使用できないけど、鎮痛目的ならOKです。抗炎症作用も期待できるので使える場面はそれなりにあります。

アスピリン喘息患者さんには、アセトアミノフェン(300mg/回以下)とCOX-2阻害薬がおすすめです。

まとめ

本記事のポイント

  1. アスピリン喘息の基本
    NSAIDs過敏喘息、COX-1阻害薬過敏症と呼ばれる
    原因はエイコサノイドのバランスの乱れ(PG<LT)
    アスピリンだけでなく、解熱鎮痛薬全般が禁忌の扱い
  2. 禁忌薬
    特に誘発リスクが高いCOX-1阻害薬と注射薬は特に注意!
    アスピリン喘息の申し出があったときに加えて、ハイリスク薬の処方時にも「アスピリン喘息の既往」を確認した方が良い
  3. 使用可能な薬
    比較的使いやすいのはCOX-2阻害薬と低用量アセトアミノフェン
    適応症、投与経路を加味して患者さんごとに代替薬を提案

今回は「アスピリン喘息」をテーマにあいまいな解釈をスッキリと解消できる、知識と考え方を解説しました。アスピリン喘息の人、ときどきいます。慌てないで、対応するための正しい知識を準備しておきましょう♪

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