今回のテーマはアネレム静注用とドルミカム(ミダゾラム)注射液の違い!どちらも、ベンゾジアゼピン系の鎮静薬(注射)です。令和7年6月24日、アネレムに「消化器内視鏡診療時の鎮静」の適応が追加となりました。従来のミダゾラムにとって代わるのか?、考察を加えながらポイントをまとめたので共有します。
アネレムとミダゾラムの比較表
製品名 | アネレム静注用 | ドルミカム注射液 |
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発売 | 2020年8月 | 1988年7月 |
一般名 | レミマゾラムベシル酸 | ミダゾラム |
規格 | 20mg/50mg | 10mg |
作用機序 | GABAA受容体刺激薬 | GABAA受容体刺激薬 |
適応 | ①全身麻酔の導入及び維持 ②消化器内視鏡診療時の鎮静 (2025年6月24日追加承認) | ①麻酔前投薬 ②全身麻酔の導入及び維持 ③集中治療における人工呼吸中の鎮静 ④歯科・口腔外科領域における手術及び処置時の鎮静 消化器内視鏡診療時の鎮静は適応なし(保険算定上は認められる) |
用法用量 | 〈消化器内視鏡診療時の鎮静〉通常、成人には、レミマゾラムとして3mgを、15秒以上かけて静脈内投与する。効果が不十分な場合は、少なくとも2分以上の間隔を空けて、1mgずつ15秒以上かけて静脈内投与する。なお、患者の年齢、体重等を考慮し、適切な鎮静深度が得られるよう、投与量を適宜減量する。 | 〈消化器内視鏡診療時の鎮静〉通常、0.02~0.03mg/kgをできるだけ緩徐注入する。ミダゾラムに対する反応は個人差があり、患者の年齢、感受性、全身状態、目標鎮静レベル及び併用薬等を考慮して、過度の鎮静を避けるべく投与量を決定すること( | 社会保険診療報酬支払基金、資料参照)
禁忌 | ①本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 ②急性閉塞隅角緑内障の患者 ③重症筋無力症の患者 ④ショックの患者、昏睡の患者、バイタルサインの抑制がみられる急性アルコール中毒の患者 | ①本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 ②急性閉塞隅角緑内障の患者 ③重症筋無力症のある患者 ④HIVプロテアーゼ阻害剤(リトナビルを含有する薬剤、ネルフィナビル、アタザナビル、ホスアンプレナビル、ダルナビルを含有する薬剤)、エファビレンツ、コビシスタットを含有する薬剤及びニルマトレルビル・リトナビルを投与中の患者 ⑤ショックの患者、昏睡の患者、バイタルサインの抑制がみられる急性アルコール中毒の患者 |
代謝 | カルボキシルエステラーゼ | CYP3A4 |
半減期 | 39〜53min | 1.82~2.68hr |
薬価 | 20mg:1,540円 50mg:2,218円 | 10mg:115円 92〜115円(後発品) |
アネレムとミダゾラムの適応
消化器内視鏡診療時の鎮静
アネレム静注用 | ドルミカム注射液 (ミダゾラム) | |
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適応 | あり | なし |
保険審査 | 認められる |
アネレムは「消化器内視鏡診療時の鎮静」に適応を有する国内初のベンゾジアゼピン系注射薬です。2020年8月に「全身麻酔の導入及び維持」で承認、2025年6月に同適応が追加されました。一方で、ミダゾラムは保険適用がありません。ただし、内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)において使用を提案されており、「消化器内視鏡検査及び消化器内視鏡を用いた手術時の鎮静」に用いることは保険審査上、認められています。
内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)

原則として、「ミダゾラム【注射薬】」を「消化器内視鏡検査及び消化器内視鏡を用いた手術時の鎮静」に対して使用した場合、当該使用事例を審査上認める。
社会保険診療報酬支払基金
参考までに:内視鏡診療時の使用について
一般名 (商品名) | 適応 | 適応の有無 |
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プロポフォール (ディプリバン) | 全身麻酔の導入及び維持 集中治療における人工呼吸中の鎮静 | |
デクスメデトミジン塩酸塩 (プレセデックス) | 集中治療における人工呼吸中及び離脱後の鎮静 成人の局所麻酔下における非挿管での手術及び処置時の鎮静 小児の非挿管での非侵襲的な処置及び検査時の鎮静 | 治療のみ |


アネレムは「内視鏡診療時の鎮静」に適応を有する国内初のベンゾジアゼピン系薬です。ミダゾラムからの切り替えが進みそうな印象ですね。
アネレムとミダゾラムの用法用量
消化器内視鏡診療時の鎮静:使い方
アネレム静注用 | ドルミカム注射液 (ミダゾラム) | |
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投与設計 | 固定用量 | 体重あたりの用量 |
初回量 | 3mg 15秒以上かけて | 0.02~0.03mg/kg 緩徐に |
追加量 | 1mg 2分以上あけて | 特に用量の記載なし |
最大投与量 | 8mg | 特に規定なし |
減量基準 | あり (具体的に記載) | あり |
①アネレムは固定用量であり、通常は体重に関係なく初回3mg、追加1mgを投与します。体重が薬物動態パラメータに対する有意な共変量として特定されなかったこと等が理由です(審議結果報告書、海外第Ⅲ相試験のデータを用いたPPK解析の結果)。一方で、ミダゾラムは体重あたりの投与量設定、1回0.02〜0.03mg/kgを投与します。50kgの人なら1〜1.5mgが初回投与量の目安です。
②アネレムは減量基準の設定があります。臨床試験では75歳以上又は体重45kg未満の患者における初回及び追加投与量は半量を考慮するというプロトコールです。同様にミダゾラムも減量基準があります。患者の年齢、感受性、全身状態、目標鎮静レベル及び併用薬等を考慮し、医師の判断で減量を行います。ただし、具体的な年齢や体重、投与量の指示は記載がありません。
③アネレムは最大投与量の設定があります。初回と追加投与を合わせて上限8mgです。はじめに3mgを投与した場合、追加投与の回数は5回ですね。一方で、ミダゾラムは特に規定がなく、医師の判断になります。参考までに、「歯科・口腔外科領域における手術及び処置時の鎮静」の適応には、具体的な記載があります。
通常、成人には、初回投与としてミダゾラム1~2mgをできるだけ緩徐に(1~2mg/分)静脈内に注射し、必要に応じて0.5~1mgを少なくとも2分以上の間隔を空けて、できるだけ緩徐に(1~2mg/分)追加投与する。但し、初回の目標鎮静レベルに至るまでの、初回投与及び追加投与の総量は5mgまでとする。
ドルミカム注射液 電子添文
アネレムの投与回数について
上部・下部消化管ともにおよそ1〜2回です。大腸カメラの方が回数が多くなる傾向あります。また、検査よりも処置の方が鎮静を要する時間が長く、投与回数も増えています。





アネレムは投与方法(減量基準、最大投与量も含めて)が明確で、わかりやすいですね。
アネレムとミダゾラムの半減期
アネレム静注用 | ドルミカム注射液 (ミダゾラム) | |
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半減期 | 39〜53分 | 1.8〜6.4時間 |
①アネレムはミダゾラムに比べて半減期が短く、鎮静からの回復が早いのがメリットです。外来診療において早期に帰宅できます。臨床試験の結果(副次評価項目)によると、歩行が可能となるまでの時間(中央値)は、最終投与から9〜10.5分、検査終了から5分です。


②また、アネレムの半減期は拮抗薬フルマゼニルと同程度(49〜52分)です。投与後の再鎮静のリスクも低く、より安全性が高いといえます。
健康成人男子に1、2、4mgを静脈内投与したときの血漿中未変化体の消失半減期は49~52分であり、血漿中濃度曲線下面積は投与量に比例して増加し、分布容積及び血漿クリアランスは投与量にかかわらず一定であった。
アネキセート注射液0.5mg 電子添文



アネレムはミダゾラムに比べて、半減期が短く、鎮静からの回復期間が早い上に、拮抗薬投与後の再鎮静のリスクも低いのが最大の強みですね。
アネレムとミダゾラムの相互作用
アネレム静注用 | ドルミカム注射液 (ミダゾラム) | |
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代謝酵素 | カルボキシルエステラーゼ | CYP3A4 |
併用禁忌 | なし | HIVプロテアーゼ阻害剤(リトナビルを含有する薬剤、ネルフィナビル、アタザナビル、ホスアンプレナビル、ダルナビルを含有する薬剤)、エファビレンツ、コビシスタットを含有する薬剤及びニルマトレルビル・リトナビルを投与中の患者 |
アネレムは肝臓のカルボキシルエステラーぜで速やかに代謝されます。ミダゾラムのようにCYP3A4の影響を受けず、併用禁忌の設定がありません。



アネレムはミダゾラムに比べて、相互作用が少なく(併用禁忌なし)使い勝手が良いといえます。
アネレムとミダゾラムの溶解方法
アネレム静注用 | ドルミカム注射液 (ミダゾラム) | |
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剤型 | バイアル | アンプル |
外観 | 粉末 | 液体 |
溶解操作 | 必要 | 不要 |
希釈操作 | 必要 | 特に規定なし |
①アネレムは溶解操作が必要です。1バイアル(20mg・50mg)あたり生理食塩液10mLで溶解します。一方でミダゾラムは液体が充填(全量2mL)されています(溶解操作不要)
②アネレムは希釈して用います。1mg/mLの濃度になるように、20mg製剤は全量20mL、50mg製剤は全量50mLに希釈します。ミダゾラムの希釈量は特に規定がありませんが、0.5〜1mg/mLになるように1バイアルあたり10〜20mLに希釈するのが一般的ですかね。
まとめ
今回はアネレム静注用とドルミカム(ミダゾラム)注射液の違いについて、「消化器内視鏡診療時の鎮静」に着目し、ポイントをまとめました。アネレムの強みは適応に加えて半減期の短さですね。検査・処置後の鎮静からの回復が早く、早期に歩行(帰宅)できます。あと、CYPの影響がなく、併用禁忌がない点も使い勝手が良いといえますよね。逆に弱点は、薬価の高さでしょうか。内視鏡診療において、アネレムはミダゾラムにとって代わるのか注目ですね。