エドルミズの特徴を理解する7つのポイント、適正使用の観点から解説!

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エドルミズ錠が2021年4月21日に発売されました。

一般名はアナモレリン、がん悪液質の治療薬です。

かなり注目されています!

なぜなら、今までにない機序で、類薬の存在しない新薬であるし、プラセボに比べて除脂肪体重を有意に増加させる効果(非小細胞肺がん患者対象の国内第II相試験)も認められているからです。

特にNSTで活動している人にとっては、期待度も高いのではないでしょうか。栄養状態を良くするための切り札になる可能性を感じますよね。

それだけに乱用される懸念もあります

ここは薬剤師として気掛かりな点です。

そこで今回は、適正使用の観点を加えながらエドルミズの特徴を見ていきたいと思います。

ポイントは大きく7つです。

  1. グレリン様作用
  2. がん悪液質の治療薬
  3. 空腹時投与
  4. 相互作用に注意
  5. Naチャネル阻害作用
  6. 肝代謝型
  7. 高血糖のリスク

順番に見ていきましょう。

目次

グレリン様作用

まずは1つ目の視点から。

エドルミズはどんな効果があるのか?

鍵を握るのはグレリン様作用です。大きく2つの作用があります。

  • 食欲亢進
  • 筋肉量(体重)増加

グレリンといえば食欲増進のイメージが強いですが、筋肉量を増やすという効果もあるんですね。ここは誤解されている人が多いかも…。私も食欲を上げるだけの薬だと思っていました…。

では、エドルミズはどのように作用するのか?

以下のように視床下部と脳下垂体にあるGHS-R1a受容体を介して効果を現します。

  • 視床下部…食欲を亢進
  • 脳下垂体…成長ホルモン(GH)を分泌

食欲アップは視床下部への直接作用です。一方で、②筋肉量の増加は間接的な働きになります。GHは血流を介して肝臓に作用、分泌されたインスリン様成長因子-1(IGF-1)により筋タンパクの合成を促すわけです。

このように、エドルミズはグレリン様作用により、①食欲を上げて②筋肉量を増やす(維持する)効果が期待できます。

当たり前ですが、食欲がないという理由だけで投与する薬剤ではありません。念のため…。

では、具体的にどのような患者さんに用いるのか?2つ目のポイントを見ていきましょう。

がん悪液質の治療薬

エドルミズはがん悪液質の治療薬です。

「そもそも、がん悪液質って何?」って感じですよね。私も詳しくは知りませんでした…(^^;)

英語ではcachexia(カヘキシア)といいます。

といっても、???よくわからないし、イメージしにくいですよね。

がん悪液質とは

がん悪液質は代謝異常により、食欲低下と骨格筋の持続的な減少を認める病態のことです。通常の栄養療法では効果が得られず、がん化学療法に対する忍容性やQOLの低下を招きます。

エドルミズの適応は限定的!

  • がん悪液質、2つ目のステージ(悪液質cachexia)
  • 非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がん

上記のように、がん悪液質だからといって全ての方が適応ではありません。使えるステージが決まっているし、がん種も指定されています。対象患者の選択はかなり絞られるわけです。ここがポイント!

がん悪液質についてもう少し詳しく

見ていきながら、エドルミズの対象患者を確認しましょう。

がん悪液質は3つのステージがあります。NSTで活躍してる人はきっと聞いたことあるはずです。

  1. 前悪液質(pre-cachexia)
  2. 悪液質(cachexia)
  3. 不応性悪液質(refractory cachexia)

EPCRCによるがん悪液質のステージ分類より

押さえておきたいのは下記2つのポイントです。

①介入方法の違い
  • 前悪液質・悪液質…早期の治療介入が必要
  • 不応性悪液質…緩和的な治療が主体
②臨床的な特徴の違い
  • 前悪液質…過去6ヶ月間の体重減少≦5%、食欲不振・体重減少
  • 悪液質…経口摂取不良、全身性炎症を伴う
  • 不応性悪液質…悪液質の症状に加えて異化亢進、抗がん剤治療に抵抗性を示す、PS不良(PS3または4)、予測生存期間<3ヶ月

参考文献)日本がんサポーティブケア学会、がん悪液質ハンドブック

上記を踏まえて、エドルミズの対象患者を確認しましょう。

投与の可否は以下の指標をもとに検討します

6ヵ月以内に5%以上の体重減少と食欲不振があり、かつ以下の(1)〜(3)のうち2つ以上を認める患者に使用すること。

(1)疲労又は倦怠感
(2)全身の筋力低下
(3)CRP値0.5mg/dL超、ヘモグロビン値12g/dL未満又はアルブミン値3.2g/dL未満のいずれか1つ以上 

エドルミズ錠、添付文書

上記基準に照らすと

①pre-cachexiaは除外(5%未満の体重減少であるため)、②cachexiaと③refractory cachexiaが対象になります。

しかし、③refractory cachexiaは厳密にいうと適応ではありません。臨床試験においてPS3以上、予測生存期間が3ヶ月以内の患者さんは組み込まれていないからです。もちろん、必要性が高いと判断した場合には使用可ですが、有効性と安全性は評価されておりません…。

「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験で対象とされた患者背景、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと

エドルミズ錠、添付文書

ということで

エドルミズの適応は②cachexia(悪液質)になります

疲労又は倦怠感、全身の筋力低下の基準は?

NCI commom Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)を参考に、投与の必要性を検討します。投与の目安はGrade1以上です。

参照)エドルミズ錠50mgの適正使用に関するお願い

適応がん種も決まっています

切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんなどです。これ以外は適応外になります。

このように、「がん悪液質=エドルミズの投与」にはなりません。適応基準や臨床試験の患者背景をもとに、エドルミズ投与の要否、可否を検討する必要があります。乱用を防ぐための基本的事項ですね。

空腹時投与

続いて3つ目の視点。エドルミズは空腹時投与になります。ここは、服薬アドヒアランスの点で少し心配ですね。

なぜ、食後投与ではないのか?

というと、食事の影響を受けるからです。食後投与では効果が減弱する可能性があります。空腹時投与と食後投与を比較した場合のCmaxとAUCは下記です。

Cmaxの比較
空腹時投与
1.0とした場合
食後2時間後投与
0.31倍
AUCの比較
空腹時投与
1.0とした場合
食後2時間後投与
0.49倍

上図のようにエドルミズは食事の影響をかなり受けます。適正使用の観点から押さえておきたいのは下記2点です。

  1. 空腹時投与(食事の1時間前投与はOK)
  2. 服薬アドヒアランスの評価が不可欠!

①服薬時点は起床時が無難だと思います

朝食の1時間前までに飲んで頂くかたちです。ただし、ビスホスホネート製剤など単独・空腹時投与の薬剤がある場合は除きます。同時服用を避けなければならず、服薬タイミングの変更や調節が必要だからです。ややこしいですね。

②投与前に正しく服用できるかの評価が欠かせません

認知機能の低下や服薬アドヒアランスが悪い人では飲み忘れのリスクがあるし、自己判断による服薬時点の変更は効果減弱につながるからです。

こうして見ると、エドルミズはアドヒアランスが悪い人には使いにくいかも知れません。空腹時投与がネックですね。

相互作用に注意

続いて4つ目の視点。エドルミズは併用薬のチェックが欠かせません。薬物代謝酵素CYP3A4による代謝を受けるからです。ここはかなり気をつけたいポイント!

併用禁忌と併用注意は以下のとおりです。

併用禁忌
併用注意
  • クラリスロマイシン(クラリシッド)
  • インジナビル(クリキシバン)
  • イトラコナゾール(イトリゾール)
  • ネルフィナビル(ビラセプト)
  • サキナビル(インビラーゼ)
  • テラプレビル(テラビック)
  • ボリコナゾール(ブイフェンド)
  • リトナビル含有製剤(ノービア)
  • コビシスタット含有製剤(スタリビルド)
  • 中程度のCYP3A4阻害剤(エリスロマイシン、ジルチアゼム、ホスアンプレナビル、イマチニブ等)
  • グレープフルーツジュース
  • CYP3A4誘導剤(カルバマゼピン、リファンピシン、フェニトイン、セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort:セント・ジョーンズ・ワート)含有食品等)

投与前の併用薬チェックを!

CYP3A4の相互作用が多く、上記のように多くの薬剤や食品との併用が問題になります。エドルミズを使いたい!と思っても、併用禁忌の場合は投与できないケースがあるし、併用注意であっても投与中は副作用の懸念があるわけです。

エドルミズは相互作用に注目すると、やや使いにくい印象を受けます。投与前に併用薬の聞き取りや飲み合わせのチェックが欠かせない薬剤ですね。気をつけましょう^_^

Naチャネル阻害作用

5つ目の視点です。実はエドルミズには心臓の働きを抑える作用があります。

まさか、そんな働きがあるとは?!驚きですよね。

機序はNaチャネルの遮断です。ちょうど抗不整脈薬(I群)に似た作用があります。

①心血管イベントと②心電図異常に関連する副作用の頻度は下記です

①心血管イベントに関連の副作用
エドルミズ群
6.0%(5/83例)
プラセボ群
0%(0/90例)

※症状は「末梢性の浮腫」及び「浮腫」、重篤なものはなく、投与中止例もなし

②心電図異常に関連する副作用
エドルミズ群
9.6%(8/83例)
プラセボ群
2.2%(2/90例)

※有害事象は「第一度房室ブロック」「意識消失」「頻脈」「動機」など。ほとんどがGrade2以下であったが、意識消失(1例)はGrade3で投与中止

参考文献)国内第II相試験(ONO-7643-04)、エドルミズ錠 審議結果報告書

頻度はそこそこ高めですね。エドルミズの心機能に対する影響、適正使用の観点から押さえておきたいのは下記3点です。

  1. 禁忌と慎重投与がある
  2. 投与前チェックと投与中モニタリング
  3. 併用薬に注意!

①心機能抑制に関する禁忌と慎重投与は下記です

禁忌
慎重投与
  • うっ血性心不全のある患者
  • 心筋梗塞又は狭心症のある患者
  • 高度の刺激伝導系障害(完全房室ブロック等)のある患者
  • 基礎心疾患(弁膜症、心筋症等)のある患者
  • 心筋梗塞又は狭心症の既往のある患者
  • 刺激伝導系障害(房室ブロック、洞房ブロック、脚ブロック等)のある患者
  • QT間隔延長のおそれ又はその既往歴のある患者
  • 電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症、低カルシウム血症)のある患者

禁忌は見逃さないように、慎重投与の場合はより注意深く心機能のフォローが必要になります。

②投与前と投与中は心機能や電解質等のチェックが欠かせません

添付文書においても注意喚起がされています。

本剤の投与開始前及び投与期間中は、心電図、脈拍、血圧、心胸比、電解質等を定期的に測定し、異常が認められた場合には、投与を中止するなど適切な処置を行うこと。なお、本剤投与初期には特に注意すること。

エドルミズ錠、添付文書

③併用薬も合わせて確認しなければなりません

先程はCYPとの相互作用についてまとめましたが、それとは別にNaチャネル遮断作用に起因するものもあります。

  • 抗不整脈薬(ピルシカイニド塩酸塩水和物等)
  • β遮断剤(アテノロール等)
  • 心毒性を有する抗悪性腫瘍剤(アントラサイクリン系薬剤等)
  • QT間隔延長を起こすことが知られている薬剤(イミプラミン、ピモジド等)

※エドルミズ錠、添付文書

こうしてみると、エドルミズはグレリン作用に隠れたNaチャネル遮断作用がなかなかの曲者だと思います。特に循環器疾患を抱えた人には使いにくい印象ですね。

肝代謝型

続いて6つ目の視点ですね。先述のようにエドルミズは肝臓でCYPにより代謝を受けます。腎からの未変化体排泄率は約1%、投与量のほとんどが糞中に排泄される肝代謝型の薬剤です。

尿中
糞中
  • 未変化体…1%
  • 代謝物M12…6〜7%
  • 未変化体…87〜89%、
  • その他の代謝物…数%

※マスバランス試験(エドルミズ錠、インタビューフォーム)

①肝機能障害に関する有害事象と②副作用の頻度は下記のとおりです

①肝機能障害に関連の有害事象
エドルミズ群
10.8%(9/83例)
プラセボ群
4.4%(4/90例)
②肝機能障害に関連の副作用
エドルミズ群
3.6%(3/83例)
プラセボ群
1.1%(1/90例)

※症状は「γ-GTP 増加」「肝機能異常」など。重症度はいずれもGrade2 以下で、重篤な副作用や投与中止に至った副作用はなし

参考文献)国内第II相試験(ONO-7643-04)エドルミズ錠 審議結果報告書

エドルミズの肝機能に対する影響、適正使用の観点から押さえておきたいのは下記3点です。

  1. 腎機能による投与量調節が不要
  2. 肝機能障害は禁忌(Child-Pugh分類B以上)
  3. 定期的な肝機能チェック

①腎機能障害がある人にも通常量投与できます

エドルミズは尿中未変化体排泄率が1%と低く腎機能低下の影響を受けにくいからです。ここはメリットですね。

一方で、②肝機能障害がある人には要注意

血中濃度上昇に伴い、副作用のリスクが高まる可能性があるからです。Child-Pugh分類B以上は禁忌、Aは慎重投与です。結構厳しい設定ですね。

禁忌)中等度以上の肝機能障害(Child-Pugh分類B及びC)のある患者

エドルミズ錠、添付文書

また、③投与前と投与中の肝機能チェックも欠かせません。

肝機能障害があらわれることがあるので、本剤の投与開始前及び投与期間中は定期的に肝機能検査を行うこと

エドルミズ錠、添付文書

こうして見ると、エドルミズは腎機能障害がある人にも使いやすい一方で、肝機能障害のある人には注意です。特にChild-Pugh分類B以上が禁忌である点は押さえておきましょう。

高血糖のリスク

最後に7つ目の視点。エドルミズは高血糖を起こす可能性があります。なぜ起こるのか?理由は大きく2つあります。

  1. 食欲増進による摂取量の増加
  2. インスリン分泌抑制(グレリン様作用の一つ)

①はもともと耐糖能異常のある方で問題になります。糖質の摂取量が増えた結果ですね。一方で②は記事を書くにあたって知りました。グレリン自体がインスリンの分泌を抑制し、高血糖を引き起こすことが報告されています。参考文献)J. Clin. Endocrinol. Metab. 86, 5083-5086.

血糖上昇に関連する有害事象と副作用の頻度は以下のとおりです

血糖上昇に関連の有害事象
エドルミズ群
16.9%(14/83例)
プラセボ群
6.7%(6/90例)
血糖上昇に関連の副作用
エドルミズ群
12.0%(10/83例)
プラセボ群
3.3%(3/90例)

※症状は「糖尿病」「高血糖」「グリコヘモグロビン増加」「耐糖能障害」等。重症度はほとんどがグレード2以下。意識消失、高血糖、耐糖能障害はグレード3(各1例)、意識消失は重大な副作用で投与中止

参考文献)国内第II相試験(ONO-7643-04)エドルミズ錠、審議結果報告書

エドルミズの血糖値に対する影響、適正使用の観点から押さえておきたいのは下記2点です。

  1. 糖尿病患者は慎重投与
  2. 投与中はモニタリングが必要

①糖尿病の方は慎重投与です。

投与前にDMの有無について確認が必要ですね。

慎重投与)糖尿病患者〔血糖値を上昇させることがある。〕

エドルミズ錠 添付文書

また②投与中は定期的な検査(尿糖と血糖)が欠かせません

血糖値の上昇が見られた場合には、中止またはインスリン、経口血糖降下薬等による対応が必要です。合わせて自覚症状(口渇や頻尿)の聞き取りも大切ですね。

高血糖があらわれることがあるので、本剤の投与開始前及び投与期間中は定期的に血糖値や尿糖の測定を行うこと。

エドルミズ錠 添付文書

このように、エドルミズはグレリン様作用(インスリン分泌抑制)により、血糖値が上がる可能性があります。特に糖尿病の患者さんでは注意が必要ですね。

まとめ

今回はエドルミズの特徴について、適正使用の観点を加えながら解説しました。ポイントは以下のとおりです。

  1. グレリン様作用…食欲増進+筋タンパク合成
  2. がん悪液質の治療薬…cachexiaに限定、がん種の縛りもあり
  3. 空腹時投与…食後では効果減弱、投与前にアドヒアランスの評価を!
  4. 相互作用に注意!…CYP3A4で代謝
  5. Naチャネル遮断作用あり…循環器疾患のある人は注意!心機能の評価、モニタリングを!
  6. 肝代謝型…Child-Pugh分類B以上は禁忌!
  7. 高血糖のリスク…DM患者は注意!投与中は血糖と尿糖の確認を!

エドルミズは今までにない画期的な薬です!

グレリン様作用によりがん悪液質を改善する効果が期待できます。

一方で、投与に際して注意すべき点は少なくありません

適正使用の観点から、対象者を絞り込み、安全に使うことが求められています。ここが本記事で一番伝えたい部分です!

記事を書き終えて、投与前のチェックや投与後のモニタリング等、薬剤師の果たす役割が大きいと感じました。適正使用を進めるべく、薬物治療に積極的に関わっていきましょう♪

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