今回のテーマはアセリオ静注液!
解熱鎮痛薬アセトアミノフェンの注射製剤です。国内では2017年2月に発売されました。
最近、アセリオを使用するケースが増えています。とくに手術後の疼痛管理や緩和ケア領域の場面です。経口投与できない時に有用ですね。
一方で、
経口薬と違って注意すべき点もいくつかあります
今回は、アセリオ静注液を投与する前にチェックすべきポイントをまとめました。
アセリオの基本情報(カロナールと比較)

まずは、基本情報を確認します。
内服薬カロナール錠との比較は下記です。※紙面の関係で、小児の適応と用法用量は省略
製品名 | アセリオ静注液 | カロナール錠 |
---|---|---|
一般名 | アセトアミノフェン | アセトアミノフェン |
規格 | 1000mg | 200mg 300mg 500mg |
適応症 | ①疼痛 ②発熱 ※経口製剤及び坐剤の投与 が困難な場合 | ①下記疾患の鎮痛 …頭痛、耳痛、症候性神経痛、 腰痛症、筋肉痛、打撲痛、捻挫痛、 月経痛、分娩後痛、がんによる疼痛、 歯痛、歯科治療後の疼痛、変形性関節症 ②下記疾患の解熱・鎮痛 …急性上気道炎 |
用法用量 | ①1回300〜1000mg (1日最大4000mg) ※体重50kg未満は制限あり ②1回300〜500mg (1日最大1500mg) ※原則1日2回 | ①1回300〜1000mg (1日最大4000mg) ②1回300〜500mg (1日最大1500mg) |
薬価 | ¥320/袋 | 200mg…¥6.2/錠 300mg…¥7.2/錠 500mg…¥8.2/錠 |
薬価は2021年12月時点です。
ポイントを簡単に押さえておきます。
使用できる疾患は
同じです。解熱鎮痛目的で使用します。アセリオ静注液はカロナール錠が使えない時の代替薬という位置付けです。
用法用量も大きく変わりません
疼痛と発熱でそれぞれ用量設定があり、疼痛の方が用量が多めです。アセリオの方は低体重の患者さんに使用する際に投与量制限(疼痛のみ)があります。
薬価は
アセリオ静注液の方が高いです。投与量あたりで比較すると約18倍、割高ですね。
アセリオ投与前のチェックポイント

ここからは、アセリオ投与前に注意すべきポイントを見ていきます。
大きく5つです。
- 使用場面(経口または直腸投与困難時)
- 投与時間(15分かけて投与)
- 低体重患者(疼痛の場合は別途用量設定あり)
- うっかりドーピング
- 過量投与に注意(アセトアミノフェンを含む製剤)
順番に解説します。
使用場面(経口または直腸投与困難時)
まず1つ目。
アセリオ静注液は第一選択ではありません
カロナール錠や坐剤が使用できない時の代替薬という位置付けだからです。添付文書にも注意書きが明記されています。
(効能又は効果に関連する使用上の注意)
経口製剤及び坐剤の投与が困難で,静注剤による緊急の治療が必要である場合等,静注剤の投与が臨床的に妥当である場合に本剤の使用を考慮すること.経口製剤又は坐剤の投与が可能になれば速やかに投与を中止し,経口製剤又は坐剤の投与に切り替えること.
アセリオ静注液
もともとは、内服製剤と同様の適応症で申請されましたが、静脈注射製剤の乱用を懸念して、注意書きが追加された経緯があります。以下のように効能効果も条件付きである点は押さえておきましょう。
(効能又は効果)
経口製剤及び坐剤の投与が困難な場合における疼痛及び発熱
アセリオ静注液 添付文書
アセリオを使用する場面は?
では、どのような場面で選択するのか?
アセトアミノフェンの内服や坐剤などが使用できない時です。たとえば、以下のようなケースが想定されます。
- 悪心・嘔吐がある人
- 嚥下機能が低下した人
- 意識レベルが低下した人
- 手術直後の患者
- 消化管が使用できない場合(直腸炎など)
静注製剤であるアセリオの登場により、従来の剤型で対応できなかったケースがカバーできるようになりました。
静注製剤の安易な使用を避ける理由は?
投与に際して以下の合併症のリスクが懸念されるからです。
- 静脈炎
- 血管外漏出
- 神経損傷…など
加えて、穿刺に伴う痛みも患者さんには辛いものです。そのため、安全性を考えて経口投与や坐剤の方を優先して使用するわけですね。
あと、薬価が高いのも考えものです。患者負担はもちろん医療費の増大につながります。
投与速度(15分かけて投与)
続いて2つ目の注意点。
アセリオ静注液は15分かけて投与します
発熱時、疼痛時
どちらも投与速度は同じです。投与量が少なくても多くても、関係ありません。
(用法及び用量)
下記のとおり本剤を15分かけて静脈内投与すること.
アセリオ静注液 添付文書
発熱時の投与量は300〜500mgなので、100mLから50〜70mLを抜きとって15分で投与するかたちです。
15分以上ではない!
投与速度の誤解は少なくありません。現場では「アセリオ静注液1000mgを30分かけて投与」という指示をよく見かけるからです。「急速に投与すると副作用が心配」という心理が働くのかも知れないですね。
15分かけて投与する理由
なぜ、アセリオは15分で投与するのか?
期待した効果を得るためです。アセリオの薬理作用は、中枢神経を介したもので、血中から脳脊髄液中へ薬剤を移行させるべく(濃度勾配をつけるため)、十分に血中濃度を上昇させる必要があります。
30分とか1時間とかの投与速度だと、血中濃度が下がり、十分な効果が得られない可能性があるわけです。
参考までに
アセリオ1000mg15分投与とアセトアミノフェン錠1000mg経口投与がほぼ同じ薬物動態を示します。(Cmaxはアセリオの方が約2倍高い)

心不全の方はどうするの?
投与速度は15分と変わりません。輸液の場合だと、心臓の負担を軽くするために投与速度を30分や1時間に変更すればよいかと思いがちですが、アセリオの場合はそうではありません。短時間で投与すると循環動態に大きな影響を及ぼす場合には投与を避けるべきとされています。
(用法及び用量に関連する使用上の注意)
本剤の投与に際しては,投与速度を厳守すること。(省略)なお,本剤の投与速度及び投与量により,循環動態に影響を及ぼすことが明らかに予想される患者には投与しないこと.
アセリオ静注液、添付文書
低体重患者(疼痛の場合、用量設定あり)
続いて3つ目の注意点。
アセリオ静注液は疼痛の場合、別に用量設定があります
アセリオは50kg未満の患者さんに疼痛で使用する場合には、15mg/kg/日の投与量設定があります。AUCとCmaxは体重当たりの投与量に相関があり、低体重患者では相対的に過量投与になる可能性があるためです。
50kg未満の患者への投与量は海外用量に準じて15mg/kgの制限が設定されました。
成人の疼痛…1回300〜1000mg(1日最大4000mg)
※体重50kg未満…15mg/kg/回(1日MAX60mg/kg)
アセリオ静注液 添付文書
ちなみに、内服薬であるカロナール錠は低体重患者に対する投与量制限がありません。
うっかりドーピングに注意!

続いて4つ目の注意点。
アセリオ静注液はドーピング禁止薬物のマンニトール(添加物)を含みます
マンニトールとは
糖アルコールの一種で、浸透圧性の利尿作用がある物質です。世界アンチ•ドーピング機構(WADA)が作成する禁止表2022にマンニトール(静脈内投与)が記載されています。
S5.利尿薬および隠蔽薬
世界アンチ・ドーピング規定 2022年禁止表国際基準
・以下の利尿薬と隠蔽薬、および類似の化学構造又は類似の生物学的効果を有する物質は禁止される。
・以下の物質が禁止されるが、これらに限定するものではない
・デスモプレシン;プロベネシド;血漿増量物質 [アルブミン、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、マンニトールのいずれも静脈内投与 等]
アセリオ1袋100mL中に下記成分を含みます。
有効成分…アセトアミノフェン1000mg
添加物…D-マンニトール3850mg
アセリオ静注液 添付文書
マンニトールの静脈内投与は競技会時だけでなく競技会外の使用も不可です。マンニトールを添加物として含み静脈投与するアセリオもドーピング規定の対象になります。
なぜ、禁止されているのか?
理由は、ドーピングを隠蔽するためです。マンニトールは血漿増量剤、利尿剤として働くので、禁止物質を希釈または排出する効果があります。
まさか、という感じですよね!アセリオにドーピング禁止成分が含まれているなんて普通思いません。もちろん、スポーツファーマシストは知っていますが、薬剤師でも意外と知らない人が多いと思います。私も最近まで知りませんでした。
トップアスリートや競技者、スポーツ選手等は注意!
アセリオは周術期の疼痛管理に使用するケースが想定されます。例えばトレーニング中の予期せぬ怪我で手術治療を行う場合です。
経口投与が困難な状態では、発熱や疼痛に対してアセリオが選択肢に上がります。
主成分ではないにせよ、添加物としてマンニトールを含有しているのでうっかりドーピングに注意が必要です。
投与は避けるべき!
添加物であり含有量も少ないとはいえ、禁止薬として記載されている以上、大会成績の失効や参加資格の停止など万が一の事態に備えて投与は避けるべきだと思います。
代替薬はNSAIDsの注射(可能であれば坐薬)などです。薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック2021が参考になります。
禁止薬だけでなく、使用可能薬を検索できるし、ドーピングについて聞かれた時の対応がフローチャートで示されていて、すごくわかりやすいです。
必要性が高い、または気づかずに使用した場合は?
TUE申請が必要です。治療使用特例(Therapeutic Use Exemptions:TUE)のこと。競技者が病気や怪我など治療のために禁止物質を使用したり、禁止方法を行うための手続きです。
ただし、条件が厳しくて申請をしても必ず認められるわけではありません。
- 使用しないと健康に危害が及ぶ
- ほかに代替治療がない状況である
- 健康を取り戻す以上に競技力を向上させない
- ドーピングの副作用に対する治療ではない
…などの条件つきです。詳細はJADAのホームページをご参考ください。
過量投与に注意(アセトアミノフェンを含む製剤)
最後の注意点です。
アセリオ静注液は他のアセトアミノフェン製剤との過量投与に注意です
添付文書には肝障害のリスクから、以下の記載があります。
(重要な基本的注意)
本剤とアセトアミノフェンを含む他の薬剤(一般用医薬品を含む)との併用により,アセトアミノフェンの過量投与による重篤な肝障害が発現するおそれがあることから,特に総合感冒剤や解熱鎮痛剤等の配合剤を併用する場合は,アセトアミノフェンが含まれていないか確認し,含まれている場合は併用を避けること.
アセリオ静注液 添付文書
「本剤とアセトアミノフェンを含む他の薬剤との併用?」
アセリオはほかのアセトアミノフェン製剤と併用することはないはず!?ですよね。なぜなら、静注製剤は経口投与や直腸内投与ができない患者さんが対象だからです。
でも、実際には併用されるケースが少なからずあることが想定されていて、併用薬のチェックが必要になります。
4000mgを超えると禁忌!
アセリオであれば1回1000mgを1日4回投与するのが限度です。意図して超えることは滅多にありません。よくあるのは知らずに過量投与になるケースです。
たとえば、手術後やがん性疼痛に鎮痛目的でMAX量を使用しながら、発熱に対して対症指示でアセリオを投与するとかですね。
アセリオは高用量で使用されることが多いので、投与前に1日量のチェックが欠かせません。対症指示(入院中の症状に対して医師があらかじめ出している指示)の確認も忘れないようにしたいですね。
1500mgを超える場合には、定期的な肝機能チェックを!
添付文書には以下の記載があります。
(重要な基本的注意)
1日総量1500mgを超す高用量で長期投与する場合には定期的に肝機能検査を行い,患者の状態を十分に観察すること.
アセリオ静注液 添付文書
アセリオを疼痛管理で使用する場合は、軽く1500mgの基準を超えることが多いので、肝機能のチェック、副作用のモニタリングが欠かせないですね。
アセトアミノフェン配合剤の見落としに注意!
併用薬の確認の際、カロナールはわかりやすいけど、配合剤の存在は見落としやすいです。
トラムセットやPL配合顆粒、SG配合顆粒とかですね。また、ジェネリックもあるのでややこしいです。トアラセットは連想しやすいけど…。
配合剤の含有量は以下のとおりです。
- トラムセット配合錠…1錠あたり325mg
- PL配合顆粒…1gあたり150mg
- ピーエイ配合錠…1錠あたり75mg
- SG配合顆粒…1gあたり250mg
- カフコデN配合錠…1錠あたり100mg
各製剤ごとに含有量がまちまちなので、覚えるのが大変。その都度、添付文書を見て確認ですね。実際には、これに市販薬のチェックも必要になります。ケースは少ないにせよ、盲点なので気をつけたいです。
1日総量を求めたら、以下の基準にしたがって対応します。
- 1500mgまではOK
- 1501〜4000mgまでは肝機能障害に注意!
- 4000mgを超えると禁忌!
まとめ

アセリオ投与前にチェックすべきポイントは、以下のとおりです。
- 経口投与や直腸内投与ができない状況かどうか
- 投与速度は15分となっているか(15分以上ではない)
- 低体重の患者さんに疼痛で使用する場合15mg/kg以下になっているか
- 添加物にドーピング禁止物質であるマンニトールを含有、競技者やスポーツ選手は注意!
- ほかのアセトアミノフェン製剤との併用に注意(1500mg超えと長期投与は、肝機能モニタリングが必要!)
今回はアセトアミノフェンの静注製剤であるアセリオについて、投与前に注意すべき5つのポイントを解説しました。日常業務にお役立ていただけたらうれしいです♪