令和5年1月30日に
オスタバロ皮下注が発売されました!
骨粗鬆症の治療薬です。一般名はアバロパラチド、骨吸収を促す作用があります。
・どのような特徴があるのか?
・臨床の位置付けは?
従来のテリパラチド製剤と比較しながら解説&考察します。
オスタバロとテリパラチド製剤の比較
商品名 | オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg | フォルテオ皮下注キット600μg | テリボン皮下注用56.5μg | テリボン皮下注28.2μgオートインジェクター |
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発売 | 2023/1 | 2010/10 | 2011/11 | 2019/12 |
一般名 | アバロパラチド酢酸塩 | テリパラチド | テリパラチド酢酸塩 | テリパラチド酢酸塩 |
投与方法 | 1日1回 | 1日1回 | 週に1回 | 週に2回 |
1回量 | 80μg | 20μg | 56.5μg | 28.2μg |
適応 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 |
投与期間 | 18ヶ月 | 24ヶ月 | 24ヶ月 | 24ヶ月 |
薬価 | ¥16,090/筒 ¥1,149/回 | ¥26,694/キット ¥953.4/回 | ¥9,568/瓶 ¥10,183/瓶、溶解液付 | ¥5,995/キット |
ポイントは8つです。
- 構造
- 作用機序
- 受容体の選択性
- 用法
- 投与期間
- デバイス
- 有効期間
- 使い分け
順番に見ていきます!
オスタバロとテリパラチド製剤の構造
・アバロパラチド…hPTHrPから34 個のアミノ酸配列を切り出したもの(一部改変)
・テリパラチド…hPTHから34 個のアミノ酸配列を切り取ったもの(そのまま)
ポイントは3つです。
相違点…設計のもとになる物質が異なる(hPTHrPとhPTH)
相違点…アミノ酸配列:改変の有無
アバロパラチドはヒト副甲状腺ホルモン関連蛋白質(human Parathyroid hormone-related peptide:hPTHrP)の類縁体です。N末端から34個のアミノ酸配列を切り出し、さらに22番目以降に数ヶ所の改変を加えています。
hPTHrPとはPTH様作用を示す141個のアミノ酸からなるタンパク質です。高カルシウム血症を引き起こす物質として知られています。
アバロパラチド酢酸塩は、34個のアミノ酸残基からなるアバロパラチドの酢酸塩である。アバロパラチ ドはヒト副甲状腺ホルモン関連蛋白質(hPTHrP)類縁体で、hPTHrP のアミノ酸配列の1〜34番目に相当し、そのうち 22、23、25、26、28、29、30、31 及び 34 番目のアミノ酸残基はそれぞれ Glu、Leu、 Glu、Lys、Leu、2-methylAla、Lys、Leu 及び Ala-NH2 に置換されている合成ペプチドである。
オスタバロ皮下注カートリッジ 電子添文
一方で、テリパラチドは遺伝子組み換えヒト副甲状腺ホルモン(hPTH)製剤です。活性があるN末端から34個のアミノ酸配列を切り取り、そのまま製剤化しています。
遺伝子組換えヒト副甲状腺ホルモン(PTH)製剤であり、PTH の活性部分である N 端側 34 個のアミノ酸で構成されている。
フォルテオ皮下注キット インタビューフォーム
最初、私はアバロパラチドもhPTHから作られたものだと思っていましたが、間違いに気づきました。構造を比べると、改変していない箇所(1〜21番目)にも、アミノ酸配列が異なる箇所があったからです。そこで、ヒト副甲状腺ホルモン関連蛋白質(hPTHrP)の存在を知りました^_^。オスタバロとテリパラチドは見比べるとそこそこアミノ酸配列が異なります。設計元が違うからですね。
- アバロパラチド
-
Glu–Leu-Leu-Glu–Lys-Leu-Leu–Aib–Lys–Leu-His-Thr-Ala-NH2
Ala-Val-Ser-Glu-His-Gln-Leu-Leu-His-Asp-Lys-Gly-Lys-Ser-Ile-Gln-Asp-Leu-Arg-Arg-Arg-赤字:副甲状腺ホルモン関連蛋白質(hPTHrP)とアミノ酸配列が違う箇所
- 副甲状腺ホルモン関連蛋白質(N末端1〜36番目)
-
Ala-Val-Ser-Glu-His-Gln-Leu-Leu-His-Asp-Lys-Gly-Lys-Ser-Ile-Gln-Asp-Leu-Arg-Arg-Arg-Phe-Phe-Leu-His-His-Leu-Ile-Ala-Glu-Ile-His-Thr-Ala-Glu-Ile
- テリパラチド
-
Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met-His-Asn-Leu-Gly-Lys-His-Leu-Asn-Ser-Met-Glu-Arg-Val-Glu-Trp-Leu-Arg-Lys-Lys-Leu-Gln-Asp-Val-His-Asn-Phe
テリパラチドと副甲状腺ホルモンを比較するとN末端1〜34番目は同じでした
- 副甲状腺ホルモン(N末端1〜34番目)
-
Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met-His-Asn-Leu-Gly-Lys-His-Leu-Asn-Ser-Met-Glu-Arg-Val-Glu-Trp-Leu-Arg-Lys-Lys-Leu-Gln-Asp-Val-His-Asn-Phe
オスタバロとテリパラチドの作用機序
骨粗鬆症薬の作用機序による分類
Ca補給 | 骨吸収 | 骨形成 | 骨吸収 | 骨形成
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ビタミンD3製剤 カルシウム製剤 | ビスホスホネート製剤 カルシトニン SERM 抗RANKL抗体製剤 | テリパラチド アバロパラチド | 抗スクレロスチン製剤 |
アバラパラチドやテリパラチドは骨形成促進剤に分類されます。作用点はPTH1受容体です。結合により骨芽細胞の増殖・分化を刺激し、骨石灰化と骨形成を促します。一方で、破骨細胞の分化・誘導により、骨吸収を促す作用もあります。
ここで矛盾を感じますよね
骨形成と骨吸収だと薬効が相殺されてしまうのではないか?
でも、大丈夫です。理由はアバラパラチドやテリパラチドの間欠投与では骨形成の作用が上回るからです。一時的な骨吸収作用により、持続的な骨形成作用が得られるという理解になります(ここがポイント!)
PTH/PTHrP製剤は投与方法が大事なわけです。持続投与だと、骨吸収が優位になってしまうと考えられます。
オスタバロとテリパラチド:受容体への選択性
・アバロパラチド…RG型
・テリパラチド…RG型 R0型
PTH/PTHrP受容体には①RG型と②R0型があります。オスタバロはテリパラチドよりも①RG型への親和性が高いのが特徴です。
RG型の結合は骨形成に有利に働きます。シグナルの伝達が短時間であり、骨吸収よりも骨形成作用が強くなるからです。一方で、R0型の方は持続的なシグナル形成により、骨吸収が強まります。
つまり、アバロパラチドはテリパラチドよりも骨形成を促す作用が強いと考えられるわけです。
オスタバロとテリパラチド製剤の用法
製剤 | 1 | day2 | day3 | day4 | day5 | day6 | day7 | day8 | day
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オスタバロ | ||||||||
フォルテオ | ||||||||
テリボン56.5 | ||||||||
テリボン28.2 |
オスタバロはdaily製剤です。1日1回時間を決めて投与します。
オスタバロ:投与忘れ時の対応
- 毎日朝に注射してしていたのですが、夕方になって注射するのを忘れていたことに気づきました。どうしたら良いでしょうか
-
その日のうちに気づいた場合は、注射してください。1日1回であれば、どの時間帯に注射しても大丈夫です。
一方で、テリパラチド製剤の投与方法は3パターン(①daily②twice a week③weekly)です。患者さんのアドヒアランスや生活スタイルに合わせて選択できます。フォルテオはオスタバロと同様ですね。
当院では自己注射可能な人は、テリボンオートインジェクターを、難しい人は週1回製剤を選択することがほとんどで、フォルテオの新規処方は減っています。daily製剤は患者さんの負担も大きいですからね。
オスタバロは毎日投与です。この点、注射手技と管理の負担が少ないテリボンオートインジェクターがある中で、使用患者が増えるのか気になりますよね。
オスタバロとテリパラチド製剤の投与期間
現時点でオスタバロは18ヶ月しか投与できません。国内臨床試験において18ヶ月を超えた場合の安全性が確認されていないからです。ちなみに、米国では、テリパラチドと安全性が同等と判断され、同様に24ヶ月と設定されています。今後は、日本でも延長されそうですね。
オスタバロとテリパラチド製剤のデバイス
商品名 | オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg | フォルテオ皮下注キット600μg | テリボン皮下注用56.5μg | テリボン皮下注28.2μgオートインジェクター |
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デバイス | 電動式注入器 | ペン型注入器 | バイアル | オートインジェクター |
保存 | 冷所 | 冷所 | 冷所 | 冷所 |
自己注射 | ||||
針の取り付け | 必要 | 必要 | 不要 | |
薬液の充填 | 必要 | 不要 | 不要 | |
機能 | お知らせ表示 ・投与履歴 ・累計投与回数 ・カートリッジの交換 アラート通知 ・冷所保管忘れ | |||
在宅自己注射指導管理料 | ||||
注入器加算 |
ポイントは3つです。
オスタバロは操作が簡便、治療・管理サポート機能に優れる
オスタバロの電動注入器は注入器加算の対象
。フォルテオやテリボンオートインジェクターと同じですね。違いは電動式のデバイスである点。リモコンのような形をしています。そこに、カートリッジと針を取り付けて使用するかたちです。最後に注射ボタンを押すと薬液が自動注入されます。初めて聞いた時に、凄い!と思いました。 オスタバロは自己注射の製剤です
。①カートリッジの取り付け(初回のみ) オスタバロは操作手順がシンプルです ②針の装着 ③注射ボタンを押すだけ。ディスプレイに表示される手順にしたがって、操作を行うサポート機能も充実しています。服薬アドヒアランスと治療継続率の向上を目指して開発されただけありますね。
ただし、カートリッジと針の取り付けが必要です。フォルテオやテリボンオートインジェクターに比べて準備に時間と手間がかかります。ここは残念な部分です。操作手順だけでいうなら、オートインジェクターが1番簡便だと思います。
参考記事
あと、ディスプレイを使った治療・管理のサポートが充実しています。ここはオスタバロの強みです。以下のように投与履歴(日・月表示)、累計回数を表示できます。中でも投与回数の記録は、18ヶ月を超えた過剰投与を防げる点で有用な機能だと思いました。他には、室温に置いたままの時に、アラームで知らせてくれます。ただ、持ち運びの際には通知をオフにする必要があるそうで、設定を変更しなければなりません。面倒ですね…。
。かかる費用は在宅自己注射指導管理料の注入器加算300点でまかなうかたちです。ここは薬液とデバイスが一体化された他の製剤と大きく異なる部分ですね。メーカーによると、デバイス本体の仕入れ値は3000円以内に収まるそうです。 オスタバロのデバイスは処方機関で購入・準備します
オスタバロの有効性(テリパラチドと比較)
オスタバロは
・プラセボに比べて、新規椎体骨折の発生率を抑制できる(テリパラチドも同様)
・プラセボ、テリパラチドに比べて、大腿骨近位部・頚部、腰椎の骨密度を増加させる
・18ヶ月投与後にBP製剤に切り替えても、新規椎体骨折の発生予防効果が持続する
- 対象…骨折の危険性が高い閉経後骨粗鬆症患者2463例
- 介入…オスタバロ80μg1日1回皮下
- 比較…プラセボ1日1回皮下
テリパラチド20μgを1日1回皮下(非盲検)
主要評価項目…新規椎体骨折の発生率(18ヶ月まで)
アバロパラチド vs プラセボ 相対リスク0.14(0.05-0.39)p< 0.001
テリパラチド vs プラセボ 相対リスク0.20(0.08-0.47)p< 0.001
プラセボに比べて、新規椎体骨折の発生リスクを抑制した(テリパラチドも同様の結果でした)
オスタバロは副次評価項目…骨密度の変化率(18ヶ月まで)
大腿骨近位部と大腿骨頚部、腰椎のBMDを有意に増加
(6,12,18ヶ月の時点)p< 0.001
大腿骨近位部と大腿骨頚部のBMDを有意に増加
(6,12,18ヶ月の時点)p< 0.001
腰椎のBMDを有意に増加
(6,12ヶ月の時点)p< 0.001
- 対象…骨折の危険性が高い閉経後骨粗鬆症
ACTIVE試験で18 ヵ月間の投与を完了した1133例(プラセボ群 580 例、本剤群 553 例) - 介入…アバロパラチド終了後、アレンドロネート70mgを週に1回皮下投与
- 比較…プラセボ終了後、アレンドロネート70mgを週に1回皮下投与
主要評価項目…新規椎体骨折の発生率
新規椎体骨折の発生リスクを抑制した
オスタバロ/アレンドロネート群(ABL/ALN)はプラセボ/アレンドロネート群(PBO/ALN)に比べて、ABL投与開始から43週までにオスタバロの位置付け(テリパラチド製剤との使い分け)
オスタバロはどのような場面で選択したらいいのか?
以下、考察しました。
オスタバロの使いどころは大きく2つ!
- 骨折リスクが高い場合
- テリパラチド製剤が導入しにくい場合
①オスタバロは、特に骨折の危険性が高い症例に有用だと考えられます。プラセボに対する新規椎体骨折のリスク低下に加えて、テリパラチドよりも骨密度の増加が認められているからです。RG型受容体に対する選択性の高さから、より強力な骨石灰化と骨形成が期待できます。投与期間は現時点で18ヶ月ですが、アレンドロネートへの切り替えにより、長期にわたり新規椎体骨折のリスクを抑制できる点も強みです。
②オスタバロはテリパラチド製剤の導入が困難な症例に有用だと考えられます。電動式注入器により、アドヒアランスや継続率の向上が期待できるからです。手順を覚えなくても、液晶に表示される操作ガイドを見ながら、準備、注射、後片付けまで行えます。あとサポート機能も魅力です。特に投与歴の自動記録は医療スタッフが使用状況を確認できるし、患者さんもノートに記入する手間が省けます。
一方で、オスタバロが向いていないケースもあると思います。
テリパラチド製剤が優先されるケース
- 自己注射できない人
テリボン皮下注56.5μg一択ですね。
ご家族の協力が得られる場合は、オスタバロの選択が可能かも。 - 毎日注射が嫌な人
テリボンの出番です。週1または週2回の製剤を選択できます。 - 機械音痴な人
他剤を選択ですね。意外に、このケースは多いと思います。カートリッジの取り付けと交換、針の装着と脱着、エラー表示の対応等、機械の取り扱いに拒否感を示す人もいそうです。ご高齢の方はかえって導入が難しい可能性もあるかも知れません。
まとめ
今回はオスタバロ皮下注の特徴について、従来のテリパラチド製剤と比較しながら解説&考察しました。
本記事のポイント
商品名 | オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg | フォルテオ皮下注キット600μg | テリボン皮下注用56.5μg | テリボン皮下注28.2μgオートインジェクター |
---|---|---|---|---|
一般名 | アバロパラチド | テリパラチド | テリパラチド酢酸塩 | テリパラチド酢酸塩 |
構造 | hPTHrP | hPTH | hPTH | hPTH |
薬効分類 | 骨形成促進剤 | 骨形成促進剤 | 骨形成促進剤 | 骨形成促進剤 |
受容体選択性 | RG型 | R0型RG型 | R0型RG型 | R0型RG型 | R0型
適応 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 |
投与方法 | 1日1回 | 1日1回 | 週に1回 | 週に2回 |
1回量 | 80μg | 20μg | 56.5μg | 28.2μg |
投与期間 | 18ヶ月 | 24ヶ月 | 24ヶ月 | 24ヶ月 |
デバイス | 電動式注入器 | ペン型注入器 | バイアル | オートインジェクター |
自己注射 | ||||
針の取り付け | 必要 | 必要 | 不要 | |
薬液の装着 | 必要 | 不要 | 不要 | |
在宅自己注射指導管理料 | ||||
注入器加算 | ||||
薬価 | ¥16,090/筒 ¥1,149/回 | ¥26,694/キット ¥953.4/回 | ¥9,568/瓶 ¥10,183/瓶、溶解液付 | ¥5,995/キット |
オスタバロの使用動向はどうなるのか?注目していきたいと思います!