今回のテーマはカリウム注射薬!
医療安全の研修会では欠かせない、ハイリスク薬の定番ですね。
カリウム注射薬は使い方を誤れば、命に関わる危険性が高く、取り扱いに細心の注意が払われます。完璧なマニュアルを備えて、定期的に講習会を行うのは、どこの病院でも当たり前ですよね。
にも関わらず、
医療事故は無くならないし、インシデントの報告も後を絶ちません…
もちろん、カリウム注射薬が危ないことをみんな知っています。でも、何が危なくて、どのように対応すべきなのか、知識が曖昧な人は意外と多いのではないでしょうか。
そこで、カリウム注射薬による事故を防ぐために必要な知識と考え方についてまとめたので、共有したいと思います。
以下、3つの内容に分けて解説しますね。
- カリウム注射薬の基本
- 確認すべき!20-40-60-100のルール
- 絶対避けるべき!危険な3つの行動
順番に見ていきましょう。
カリウム注射薬の基本
まずは基本的な情報から。
カリウム注射薬:成分
現在、国内で使用できる成分は3種類あります。
- 塩化カリウム
- L-アスパラギン酸カリウム
- リン酸二カリウム
成分ごとに各社から製剤が販売されています。
塩化カリウム注射液
全部で5製品あります。
製品名 | 含量 | 容量 | 濃度 | 会社 |
---|---|---|---|---|
KCL注10mEqキット「テルモ」 | 10mEq | 10mL | 1mEq/mL | テルモ |
KCL注20mEqキット「テルモ」 | 20mEq | 20mL | 1mEq/mL | テルモ |
KCL補正液1mEq/mL | 20mEq | 20mL | 1mEq/mL | 大塚製薬 |
KCL補正液キット20mEq | 20mEq | 50mL | 0.4mEq/mL | 大塚製薬 |
K.C.L.点滴液15% | 40mEq | 20mL | 2mEq/mL | 丸石製薬 |
アスパラギン酸カリウム注射液
こちらも5製品です。
製品名 | 含量 | 容量 | 濃度 | 会社 |
---|---|---|---|---|
アスパラギン酸カリウム注10mEqキット「テルモ」 | 10mEq | 10mL | 1mEq/mL | テルモ |
アスパラギン酸K点滴静注液10mEq「タイヨー」 | 10mEq | 10mL | 1mEq/mL | タイヨー |
L−アスパラギン酸カリウム点滴静注液10mEq「日新」 | 10mEq | 10mL | 1mEq/mL | 日新 |
アスパラカリウム注10mEq | 10mEq | 10mL | 1mEq/mL | ニプロ |
アスパラ注射液 | K:2.92mEq Mg:3.47mEq | 10mL | K:0.292mEq/mL | ニプロ |
アスパラ注射液はMgの補正も同時にできます。低Mg血症を合併するケースが適応です。
KCLとアスパラギン酸カリウムの違いは?
大きく2つあります。
①血中のK補正はKCLの方が向いている
アスパラギン酸カリウムの方が細胞内に取り込まれやすいためです。塩化カリウムは血中に留まりやすいので、低K血症の補正に適しています。
細胞内取り込みの指標として赤血球(ウサギ、ヒト)内への移行をみると,L-アスパラギン酸カリウムは塩化カリウムより良好である
アスパラカリウム注10mEq インタビューフォームより
②代謝性アルカローシスではKCLの方が良い
アスパラギン酸カリウムは、代謝されて重炭酸イオンを産生し、アルカローシスを悪化させる可能性があるからです。低K血症はアルカローシスに合併することが多いので、基本的にはKCLの方が使い勝手が良いですね。
リン酸二カリウム
製品名 | 含量 | 容量 | 濃度 | 会社 |
---|---|---|---|---|
リン酸2カリウム注20mEqキット「テルモ」 | K:20mEq HPO42-:20mEq | 20mL | K:1mEq/mL HPO42-:1mEq/mL | テルモ |
リン酸2カリウム注はカリウムとリンを同時に補正できる製剤です。しかし、使用する機会はほとんどないと思います。リンの補正はKを含まないリン酸Na補正液0.5mmol/mLで行う方が安全だからです。
カリウム注射薬:剤型
剤型はアンプル製剤とキット製剤、2つに分かれます。
事故を防ぐためにキット製剤の使用が推奨!
アンプル製剤と異なり、直接静脈内投与ができない製剤上の工夫がされているからです。物理的にヒューマンエラーを防ぐ仕組みですね。
製剤写真)KCL注10mEqキット「テルモ」
特に、混注専用プラスチック針付きのプレフィルド製剤は医療安全の観点から優れています。付属の専用針のみに接続可能であり、三方活栓や他の注射針に接続できないからです。もし仮に、輸液バッグ以外に接続できたとしても薬液注入孔が針先にないため注入することができません。
静注したくても物理的にできない!事故を防ぎたいという熱い思いが形になったのがプレフィルドシリンジ製剤だといえます。
カリウム注射薬:色調
黄色か無色透明かの違いがあります。
黄色はリン酸リボフラビンの色です。ビタミンB2ですね。
着色がされているのは、混注後に均一に希釈された状態であるかを容易に確認するためです。
「カリウム注射薬は黄色の液体」という思い込みには気をつけなければなりません。K注射薬は黄色だけでなく、無色透明のものもあるからです。色による認識は薬品の取り違えリスクがあるので注意しましょう。
ちなみに、カリウム注射薬は高カロリー輸液のように遮光袋をかぶせて投与する必要がありません。ビタミンB2は着色のために添加されており、栄養素として補給しているわけではないからです。
確認すべき!20-40-60-100のルール
ここからは、カリウム注射薬の処方に際して注意すべき点について確認します。
大きく3つです。
- 投与速度
- 希釈濃度
- 1日投与量
投与速度
投与速度の上限が決まっています。
基準①…20mEq/hr以下
ゆっくり静脈内に投与し,投与速度はカリウムイオンとして20mEq/hrを超えないこと.
KCL注10mEqキット「テルモ」添付文書より
Kの急速投与は避けなければなりません
急激な血清カリウム値の上昇を招き、致死性の不整脈や心停止の危険性があるからです。20mEq/hr以下の投与速度を遵守する必要があります。
もちろん、安全性を考えると投与速度はできるだけ低い方が望ましいです。
また、投与速度を遵守するために、輸液ポンプを用いるのが原則です。ちなみにシリンジポンプの使用は推奨されていません。アンプル製剤の使用により間違った投与方法が選択される可能性があるからです。
希釈濃度
カリウム注射薬は必ず希釈後に投与します。希釈濃度は投与経路の違いにより分けて考えるのが一般的です。
- 末梢静脈からの投与
- 中心静脈からの投与
順番に解説しますね。
末梢静脈からの投与
基準②…40mEq/L以下
本剤は電解質の補正用製剤であるため,必ず希釈して使用すること (カリウムイオン濃度として40mEq/L以下に必ず希釈し,十分に混和した後に投与すること).
KCL注10mEqキット「テルモ」添付文書より
希釈濃度の上限は決まっています
高濃度のカリウム注射薬は、激しい血管痛や静脈炎を引き起こす可能性が高く、急な血清K濃度の上昇により不整脈や心停止につながる恐れもあるからです。
じゃあ、希釈濃度40mEq/Lの輸液ってどのようなものか?具体例を以下に示します。
- 生理食塩液500mL+KCL注20mEq/20mL=38.4mEq/L
- ソリタ-T3号輸液500mL+KCL注10mEq/10mL=39.2mEq/L
Kフリーの500mL輸液なら、Kは20mEqまで混注可能です。たとえば生食やブドウ糖、1号輸液などの場合ですね。一方で、Kを含む輸液の場合は、投与できるカリウム量が変わります。上の例でいくと、ソリタ-T3号輸液は10mEq追加可能です。既に500mLあたり10mEqのKを含んでいるからですね。
中心静脈からの投与
中心静脈からなら、40mEq/Lを超えて投与できます。血流量が多く、投与後速やかな希釈により、血管痛が問題になりにくいからです。
基準③…60mEq/L以下(中心静脈)
添付文書には中心静脈から投与する場合の希釈濃度について記載がありませんが、60mEq程度を基準とするのが一般的です。(PEN静脈経腸栄養ニューズ2010年5月号)
末梢静脈からのカリウム補正には限界があります
投与量の増加により、水分負荷が大きくなり、心不全や腎不全など合併された人では病態の悪化が懸念されるからです。また、緊急補正時には低濃度だと十分な効果が期待できません。
高濃度によるカリウム補正が必要な場合には、60mEq/Lを超えない範囲で投与可能な中心静脈を選択します。
1日投与量
1日に投与できるカリウム量は決められています。
基準④…100mEq/day
カリウムイオンとしての投与量は1日100mEqを超えないこと.
KCL注10mEqキット「テルモ」添付文書より
カリウムは1日100mEqを超えて投与できません。生体で処理(排泄)できる量に限界があるからです。Kの供給と排泄は以下のように釣り合いがとれています。
- 食事による摂取…80〜100mEq/日
- 便への排泄…8〜10mEq/日
- 尿への排泄…72〜90mEq/日
参考文献)レジデントノート Vol.18 2016
絶対やめて!危険な3つの行為
ここからは、カリウム注射薬を安全に使用するための禁止事項について解説します。大きく3つです。
- 急速静脈投与
- 投与中の輸液に加注
- プレフィルドシリンジから薬液の抜き取り
急速静脈内投与
これはカリウム注射薬で一番やってはいけないこと!
静脈内への直接投与、点滴ルート側管からの静注は不可です!
急速静注は先に述べたとおり、不整脈や心停止につながる危険があります。絶対に急速静注(ボーラス投与、ワンショット)を行ってはいけません。いかなる場合においてもです。例外はないことを肝に銘じておきましょう。
過去のインシデントや事故報告を見ると、静脈内投与が禁止であることの知識不足に加えて、誤った指示に対する確認不足が原因に挙げられています。
医師に急ぐように言われ、ワンショット静注で良いと思いこんだり(看護師)、投与方法の指示がないのにICUで別に指示があると思い込み疑義照会を怠ったり(薬剤師)、疑義の内容を正しく伝えず、オーダーどおりで良いかだけを医師に確認したり(看護師)…など。もちろん、誤った指示を出した医師にも問題がありますが…。
カリウム注射薬はハイリスク薬の代表!
「たぶん、大丈夫だろう」という都合の良い解釈が事故につながります。
投与中の輸液に加注
これはときどきやってしまいがちですが、
投与中の輸液へのカリウム注射液の加注は行ってはいけません!
以下2つの理由から禁止事項に当たるからです。
理由①希釈不良の問題
投与中の輸液への混注は希釈が不十分となる可能性があります。輸液セットが穿刺された状態で、加注と混和を確実に行うのは難易度が高いからです。
カリウムの基準濃度を超えた溶液を投与する危険性があります。
リボフラビンで着色されているとはいえ限界があるし、それに無色透明の製剤もありますからね。
理由②希釈濃度の問題
投与中の輸液への混注は希釈濃度の基準を逸脱する可能性があります。
たとえば、生食500mLにKCL20mEq(20mL)を混注すると、上述のように希釈濃度は38.4mEq/Lです。問題ありませんね。
一方で、生食500mL投与中にカリウム加注の指示が出たとします。中身がだいたい350mL(正確に計量できない)の時に、20mEqのKCLを混注すると、希釈濃度は54.1mEq/mLと基準を超えてしまうのです。
血管痛や静脈炎、不整脈等のリスクが高まるので、投与中の輸液へカリウム製剤の加注は避けなければなりません。
では、十分に混和、希釈濃度の基準もクリアできる場合は行ってもいいのか?
というと良くありません。ケースバイケースの手順は事故のもとだからです。
プレフィルドシリンジから薬液を抜き取る
まさか、そんなことする!?という感じですけど、実際にあるようです。
プレフィルドシリンジから、薬液を抜き取る行為は絶対ダメです!
せっかくの事故防止対策が無意味になってしまうからです。
ところで、なぜ抜き取るのでしょうか?
大きく2つの場面が考えられます。
理由①点滴静注ではない投与方法を行う
たとえば、医師が「静注」と誤った指示を出した場合です。疑いがなければ、なんとか薬液を抜き取る方法を考え、行き着くのがプレフィルドシリンジから薬液を抜き取る行為です。
抜き取ってしまえば、後は指示(誤った方法)通りに投与できてしまいます。
理由②端数指示の場合
たとえば、KCL注10mEqキット10mLで考えてみましょう。全量を投与する場合には1キットのオーダーですが、半量使う場合には、0.5キットで処方がされます。
アンプルから5mLを抜き取る要領で、同じようにプレフィルド製剤から5mLを抜き取ってしまうわけです。普通はありませんけどね…。シリンジに抜き取った後は、簡単に静注できてしまいます。
そうならないためには、「注入後に端数を廃棄する」というルール作りはもちろん、端数が出ないように処方することも大切です。
参考文献)医療事故情報収集等事業 第40回報告書(平成26年10月〜12月)、PMDA医療安全情報カリウム(K)製剤の誤投与について2010年9月
まとめ
今回はカリウム注射薬を安全に使用するためのポイントを解説しました。
記事を書きながら思ったのは、マニュアルを遵守することの難しさ。決めるのは簡単だけど、実践することが本当に大変!
多忙な業務の中では
少しくらい基準を超えても大丈夫だろう
医師が間違うわけないはずだし、きっと問題ないでしょ
という、都合のいい解釈が生まれやすいからです。新人、ベテランに関係なく、誰もが日常的に経験することだと思います。
カリウムはハイリスク薬の中でNO.1に君臨する薬剤です。マニュアルを熟知することに加え、「決められたことを例外なく実行する強い意志」が必要だと感じました。