2020年7月16日に待望の薬剤師ドラマ
「アンサング・シンデレラ〜病院薬剤師の処方箋〜」
第一話が放送されました。平均世帯視聴率はなんと10.2%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)と好調なスタートでした。
率直な感想は以下のツイートとおりです。
石原さとみ演じる病院薬剤師、葵みどりの活躍ぶりに、病棟薬剤師のスキルアップの重要性をすごく感じました。
「カッコよすぎーー!」
「自分もあんな風になりたいーー!」
と、歓喜の声を上げた薬剤師、薬学生も多かったのではないでしょうか?作者も同じ病院薬剤師として、刺激をもらいました。
もちろん、現実との乖離もあります。薬剤師が行う心臓マッサージはかなり衝撃でしたよね。もちろん、やってる病院もあるはずだけど…。ほかにも、「薬剤師がそこまでやるの?」と疑問を感じる部分もありました。まあ、ドラマなんで…(^_^*)
でも、現実はどうであれ、
「病院薬剤師はもっとこうあるべきだ!」と心が熱くなる内容だったと思います。
今回は、ドラマ第一話から「病院薬剤師のスキルアップに必要なことは何か?」を考察しました。参考になれば嬉しいです。
大きく2つあります。
- 問題志向型の仕事スタイル
- 患者さんに寄り添う行動力
順番に見ていきますね。
問題志向型の仕事スタイル
問題点の抽出→処方提案
薬剤師は処方箋から薬物療法の問題点を見つけて、解決するのが仕事です。単に処方箋に書いてあるとおりに棚から薬を集めて袋に詰めるだけではありません。(世間からは袋詰め職人というイメージが一部あるようですが…)
まずは、処方箋を見てどれだけ問題点をピックアップできるかが重要です。
ドラマでは、妊娠後期の患者さんにロキソプロフェンが処方されたのを見て、胎児の動脈管閉鎖のリスクに気づき、疑義照会によりアセトアミノフェンへの変更を行なっています。
もし、妊娠後期にNSAIDsがダメなことを知らなければ、大変な事態を招いたかも知れません。仮に知っていても、リスクを抽出できなければ知識がないのと同じですよね。
次に、リスクを回避するための処方提案が大事です。問題点を見つけて解決するところまでが薬剤師の仕事ですからね。
問題解決事例:第一話から
第一話だけでも、薬物療法の問題点を解決する場面がいくつか登場しました。
アナフィラキシーショックにグルカゴン注
- 通常はアドレナリンを使用
- α1:血管収縮、β1:心収縮力増加(陽性変力)と心拍数増加(陽性変時)、β2:気管支平滑筋弛緩
- β遮断薬投与中の患者ではアドレナリンの効果が期待できない
- その場合、グルカゴンが代替薬
- 1〜5 mg(20〜30μg/kg)を経静脈的に5分以上かけて投与、以降は5〜15μg/分で投与
※重篤副作用疾患別対応マニュアル アナフィラキシー平成20年3月
蜂に刺され救急搬送された患者さんのポケットに入っていたビソプロロールを発見、グルカゴンの提案により命を救ったドラマの導入シーンでした。「アドレナリンが効かない、もしかしてβブロッカーを飲んでる可能性は?」の思考が問題解決の糸口になったわけです。
ランソプラゾールは分3ではなく分1で
- プロトンポンプ阻害薬
- 分1投与が基本
- ヘリコバクター・ピロリの除菌補助は分2
用法用量の間違いは単なるオーダーミスも含めて多い印象ですね。ランソプラゾール3錠分3は安全性の面で問題です(ドラマでは食堂で行われた産婦人科医との疑義照会のやりとりが面白かった…ですね)
妊娠後期の頭痛にロキソプロフェンは禁忌
- NSAIDsのプロスタグランジン阻害作用→胎児の動脈管を収縮
- 胎児に心不全、死亡の可能性あり
- 経口又は注射、坐薬NSAIDsは妊娠後期は禁忌
- ケトプロフェン含有の外用剤も禁忌となった
- 比較的安全性が高いアセトアミノフェン用いる
先述した疑義照会事例ですね。(作者は今までに経験はありません。「妊婦さんに使える痛み止めは?」という医師からの相談にときどき使っている知識です)
HELLP(ヘルプ)症候群にマグセント
- Hemolytic Elevated Liver enzymes Low Platlet:HELLPの略
- 妊娠中や分娩後に起こる、下記3症候を呈する多臓器障害
- ①溶血(hemolysis)②肝酵素の上昇(elevated liver-enzymes)③血小板減少(low platelet)
- 特徴的な症状は上腹部痛・心窩部痛、嘔気・嘔吐、妊娠高血圧に伴う頭痛など
- マグセント注(硫酸マグネシウム)は子癇発作の予防に用いる
※妊娠高血圧症候群の診療指針2015参照
アセトアミノフェンが効かない頭痛+検査値(肝機能酵素の異常等)から、HELLP症候群を疑って、患者さんを前に医師にマグセント注を提案する場面は衝撃を受けましたね笑。産婦人科がない病院の薬剤師は、知らない人が多いのでは?作者も知りませんでした。
葵みどり=問題志向型の薬剤師
葵みどりは問題志向型の薬剤師だといえます。薬物療法の問題点がパッと浮かび、患者さんのために最適な解決方法を医師に提案できる力があるからです。
「葵みどりは患者のためになるなら医師に対しても提案をする薬剤師」
薬剤部副部長の瀬野章吾(田中 圭)のセリフが表しているとおりですね。
問題解決能力を高める方法
じゃあ、問題志向型の薬剤師になるためにはどうすればいいのか?
大きく2つあります。
- 薬の知識を日々アップデートする
- 疑義を逃さない姿勢
薬の知識を日々アップデートする!
中華料理店で本を読みながら注文を待つ葵みどりの姿が印象的でした。仕事が終わってからも勉強なんですよね。めちゃくちゃ共感できる部分でした。仕事帰りや日曜祝日の研修会、薬剤師の参加率が結構高いのも納得ですよね。
とはいえ、「薬剤師の勉強は、すぐに役に立たない」ことが多いと思います。
「明日はきっと◯◯という薬が処方されるから、使い方を押さえておこう」なんてことは普通できないからです。
患者さんの病態に合わせて複数の診療科からさまざまな薬が処方されることを考えると、ピンポイントで効率よく勉強することはほぼ不可能といえるでしょう。
「すぐに役立つかわからないけど、いつか来る出番に備えて」
幅広く勉強することが大切だと思います。ちょっとしたスキマに参考書を広げて知識をアップデートする、日々の積み重ねが問題解決能力を養ってくれるのです。
目立たないところでコツコツ勉強するのは、薬剤師あるあるですね。
疑義を見逃さない姿勢!
処方箋から問題点を見つける努力が大事です。
「調剤室は戦場」という言葉に共感を持った人も多いはずです。西野七瀬が演じる新人薬剤師相原くるみを歓迎する場面でも、誰も手を止めずに調剤業務をこなすシーンがありました。拍手の代わりに足踏みで歓迎する演出は面白かったですね(^_^)
とにかく、調剤業務は忙しいです。
だから、処方箋どおりに正確に調剤を行うだけで手一杯になり、疑義を見逃すことも少なくありません。せっかく問題解決に必要な知識があっても、問題に気づかなければ役に立つことはないのです。
- 限られた時間内に正確かつスピーディに調剤を行う
- 処方の問題点に対するアンテナの感度を高める
問題志向型の薬剤師には上記2つの行動を両立することが求められています。
なんとしても薬物療法の問題点を見つけてやる、見逃さないという気持ちを持って処方箋に目を通す。この姿勢、努力が大切ですね。
第一話だけでも、病院薬剤師葵みどりの問題解決能力の高さに刺激を受けました。
患者さんに寄り添う行動力
スキルアップに必要なこと2つ目です。病院薬剤師は入院患者さんの薬物療法をサポートする役割があります。
ドラマでも、毎日のように服薬指導や服薬確認のために患者さんのもとを訪れるシーンが多かったです。1型糖尿病の患者さんにインスリン治療と向き合うよう説得する姿にも感動しましたよね。
病院薬剤師はもっと患者さんのもとへ足を運び、薬学的ケアを充実させる必要があると感じました。
というのも、自分も含めてカルテだけで情報収集を済ませたり、経過観察を行う人が多い印象があるからです。会いに行こうと思えばいつでも患者さんの様子を伺いに行ける環境なのにもったいないですね。
たとえば、薬疹が出たときや副作用が起こったとき。状況の把握はカルテだけで済ませ、調剤室からすぐに患者さんのもとへ駆けつける薬剤師は少ないと感じています。
「もっと患者さんの薬物療法に寄り添う」
ためにも、病棟業務を中心とした仕事のあり方に変えないとマズイと思いました。今よりも患者さんと接点が増えたら、もっと多くの問題点に気づくだろうし、薬に対する不安も取り除くことができるはず。それに多くの学びからスキルアップも可能ですよね。
病棟を走り回る葵みどりの姿を見て、患者さんに寄り添う薬剤師になるべきと強く感じました。
といっても、調剤業務は減るわけではありませんので、業務の効率化や見直しにより、病棟業務に割く時間の確保が必要だと思います。まずは意識改革ですかね。
まとめ
今回は「アンサング・シンデレラ」〜病院薬剤師の処方箋〜、第一話から「病院薬剤師に求められることは何か」を考察しました。
問題志向型の仕事スタイル
患者さんに寄り添う行動力
この2つは病院薬剤師にとって歯車の関係で、片方だけでは役に立ちません。
なぜなら、いくら問題解決能力に長けていても、患者さん不在では生かしきれないし、「患者さんのため患者さんのため」と病棟内を走り回っても、知識不足では何の役にも立たないからです。
両輪がスムーズに廻ってこそ、葵みどりのように病棟で活躍できる薬剤師になれると思います。第二話以降も活躍に期待ですね。