タバコは体によくない!
これは周知の事実ですよね。発がん性はもちろん、心筋梗塞や脳卒中、COPD……など、やさまざまな病気を引き起こす危険性があります。
一方で、まだまだ知られていないのが手術への影響です。
喫煙は安全な手術の妨げになります!
もちろん、最近流行っている加熱式タバコも同様です。
周術期における禁煙の啓発に取り組みたい!
そう思ったので今回は、「周術期の喫煙リスク」をテーマに、禁煙啓発のために薬剤師が押さえておきたいポイントをまとめました。
喫煙による周術期の合併症リスク
タバコを吸っている人は手術後どんなリスクがあるのか?
大きく3つです。
①手術後の傷が治りにくくなる
②肺炎を起こしやすくなる
③心血管イベントが起こりやすくなる
①喫煙は創傷の治癒を遅らせ、創部の化膿を起こすリスクがあります。タバコの煙に含まれる一酸化炭素(CO)により組織の血流・酸素不足を招くからです。入院期間の延長に加え、胃がんや大腸がんなど消化管の手術では縫合不全を起こしたり、人工関節の手術では術後感染により、再手術を余儀なくされる場合もあります。
②喫煙は肺炎など呼吸器疾患合併のリスクを増大させます。気管の繊毛運動が弱くなり、痰が出にくくなるからです。肺炎になると抗菌薬治療が開始され離床が進みません。
③喫煙は心血管に対する影響もあります。ニコチンは交感神経の刺激により、血管の収縮、血小板の凝集などを促し、またCOは組織の酸素不足を招くからです。狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを起こす可能性が高まります。
参考までに
2014年の系統的レビューによると、喫煙者では術後の合併症リスクが1.5〜2倍くらい増加することが明らかになっています。
加熱式タバコの安全性
タバコといえば、紙巻きタバコを想像する人も多いと思いますが、今では電子タバコや加熱式タバコといった新世代タバコを吸う人が増えています。
電子タバコと加熱式タバコの違い
電子タバコとは?
リキッド(液体)を加熱して発生した蒸気を吸うタイプのもの
ニコチンやプロピレングリコール、グリセリンなどが含まれる味や香りのする液体が充填されています。日本ではニコチンは医薬品成分のあつかいなので、ニコチン含有リキッドは販売されていません。でも、海外からの個人輸入が認められており、ニコチン入りの電子タバコを吸っている人もいるそうです。
加熱式タバコとは?
タバコの葉を加熱して発生する蒸気を吸うタイプのもの
従来の紙巻きたばこと違って、タバコ葉を燃やさないので煙が発生せず、タールの発生量も少ないのが特徴です。加熱式タバコは加熱する温度(高温、中温、低温)で分類されており、国内ではフィリップモリス(アイコス:IQOS、リル ハイブリッド)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(グロー:glo)、JT(プルーム:Ploom)から各種販売されています。
タバコを吸ったことがない人も、名前くらいは聞いたことがあるかもしれません。同じ加熱式タバコでも機種によって吸った印象が異なる模様で、一番、タバコ感が強いのがアイコス、タバコ感は弱いものの無臭に近いプルームテック、その中間がグローといわれているそうです。
加熱式タバコは販売シェアを拡大中!
紙巻きタバコは減少、加熱式タバコは増加傾向です。JTによれば、日本国内の紙巻タバコ販売数量は、2016年が1738億本、2017年度が1514億本と約13%減少している一方、加熱式タバコの国内市場シェアは、17年度が12%、18年度には20%を超え、32年度には30%を超えると推定されています。
つまり、健康意識の高まりと受動喫煙の危険性から、紙巻きタバコの市場が縮小する中で、加熱式タバコが販売シェアを伸ばしている状況です。
加熱式タバコは紙巻きたばこよりも安全性が高い!?
ここがポイント!
加熱式タバコが安全である科学的根拠はありません
呼吸器学会の提言は
1. 加熱式タバコや電子タバコが紙巻タバコよりも健康リスクが低いという証拠はなく、いかなる目的であってもその喫煙や使用は推奨されない。
2. 加熱式タバコの喫煙や電子タバコの使用の際には紙巻タバコと同様な二次曝露対策が必要である
加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解と提言(改定 2019-12-11)
このように、加熱式タバコ、電子タバコの使用は健康への悪影響、受動喫煙に伴う健康被害の可能性から推奨されていません。
にも関わらず、
「煙が出ない、受動喫煙の危険が低い、健康被害が少ない」という誤ったイメージが先行しています。不適切な宣伝や広告などの影響もあって、あたかも加熱式タバコが安全であると誤解している人も多いです。
手術前は加熱式タバコも禁煙するべき!
日本麻酔科学会の提言は
・現状においては、非燃焼・加熱式タバコ(Heat-not-burn-tobacco)が従来のタバコよりも健康に与える影響が少ないという科学的証拠はなく、従来のタバコと同様に周術期の使用を控えるよう指導すべきである
日本麻酔科学会周術期禁煙ガイドラインの追記について
加熱式タバコと従来の紙巻きたばこ、どちらも手術前の禁煙を指導するべきとしています。
加熱式タバコだし、大丈夫でしょ?
紙巻きたばこをやめて、加熱式タバコに変えようかな?
と、術前の禁煙指導で患者さんから言われることがありますが、その考えは間違っているわけです。こうした誤解に対して、薬剤師は正しい知識をもって情報を発信し禁煙の啓発に努めなければならないと思います。
手術前に禁煙するタイミング
手術前に禁煙が必要だとして、いつまでに止めるべきなのか?
手術が決まった時点で速やかにです!
予定手術では少なくとも4週間前から禁煙することが推奨されています。
予定手術では,術前 4 週間以上の禁煙期間を持つことを強く推奨する。(1B)
日本麻酔科学会 周術期禁煙、プラクティカルガイド
手術までに4週間なければどうすればいいのか?
・術前の禁煙期間は長いほどよいが、短い禁煙期間でも合併症発生率は増加せず、 術前禁煙はいつから始めてもよい。(推奨度 A)
日本麻酔科学会 周術期禁煙ガイドライン
・術前の禁煙期間を長くするために手術を延期する必要はない。(推奨度A)
短期間であっても禁煙を行う意義はあります。ニコチンや一酸化炭素は速やかに血中から消失し、呼吸機能の改善、バイタルの正常化等の効果が期待できるからです。また、禁煙期間を長くするために手術の延期も必要ありません。
薬剤師も術前介入で禁煙の啓発を!
手術前に禁煙指導を行なっていますか?
薬剤師がやっているイメージはあまりないですよね。
もちろん、術中や術後の出血リスクを回避するために、抗凝固薬や抗血小板薬の服薬状況を確認している薬剤師は増えています。
しかしながら、禁煙指導まで行なっている薬剤師は意外と少ないのではないでしょうか?
手術後の合併症は、入院期間を延長するだけでなく、合併症の種類や重症度によっては命に関わる場合もあるので、周術期を安全に過ごしてもらうためにも、手術前の禁煙は不可欠です。
最近では職種間、他科連携による医療チームで、周術期の禁煙を勧める取り組みが盛んなので、薬剤師も周術期の喫煙リスクを理解し、安全管理に努めることが求められています。
これは、日本麻酔科学会の啓発ポスターです。
「禁煙は術前準備の第一歩」
手術後の合併症を防ぎ、早期回復を目指すというメッセージが込められています。まずは、周術期の喫煙リスクを意識するが大切ですね。
まとめ
本記事のポイント
- 喫煙は周術期の合併症のリスクを増加させる!
- 手術後の傷の治りが悪くなったり、肺炎や手術部位感染などのリスクがある
- 禁煙のタイミングは、手術が決定した時点、できる限り早く!
- 見た目がオシャレな加熱式タバコが販売シェアを拡大中!
- 加熱式タバコが安全であるいう科学的根拠は今のところない。にもかかわらず、誤解している人が多い
- 禁煙は術前準備の第一歩。早期回復のために医師、看護師、栄養士など医療チームの中で薬剤師も積極的に関わろう
今回は、「周術期の喫煙リスク」をテーマに、禁煙の啓発を進めるために薬剤師が押さえておきたいポイントを解説しました。
「薬剤師も禁煙の啓発を!」ですね。