カムザイオスカプセルの特徴「読み解く5つのポイント」

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今回のテーマはカムザイオスカプセル!一般名はマバカムテン、閉塞性肥大型心筋症の治療薬です。選択的心筋ミオシン阻害剤というニュークラスの薬剤ですね。どのような特徴があるのか?まとめたので共有します。

目次

カムザイオスカプセルの基本情報

製品名カムザイオスカプセル
発売2025年5月21日
一般名マバカムテン
規格カプセル1mg、2.5mg、5mg
作用機序選択的心筋ミオシン阻害剤
適応閉塞性肥大型心筋症
用法用量通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減する。ただし、最大投与量は1回15mgとする。
禁忌①本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
②妊婦又は妊娠している可能性のある女性
③イトラコナゾール、クラリスロマイシン含有製剤、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビル フマル酸、ロナファルニブ、ジョサマイシン、ミフェプリストン・ミソプロストールを投与中の患者
④重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者
薬価1mg:7204.00円
2.5mg:7264.80円
5mg:7410.50円
カムザイオスカプセル、電子添文等より作成

カムザイオスカプセルの適応

カムザイオスは閉塞性肥大型心筋症の治療薬です

閉塞性肥大型心筋症とは

心筋症とは何か?ガイドラインによると「心機能障害を伴う心筋疾患」と定義されており、病型の違いから、大きく4つに分類されています。肥大型心筋症とは、心筋のミオシンとアクチンの過剰な架橋形成により、心筋の過収縮、左室肥大が生じる疾患です。中でも左室流出路に狭窄を有する場合に閉塞性肥大型心筋症(カムザイオスの適応)といいます。

心筋症診療ガイドライン2018年改訂版

閉塞性肥大型心筋症患者においては、安静時または労作時の息切れ、倦怠感、失神等の自覚症状が出現し、進行すると、心機能低下により心房細動に伴う心不全、血栓塞栓性脳卒中のリスクが上がります。

閉塞性肥大型心筋症の治療

以下のように、薬物療法ではβ遮断薬が第一選択です。陰性変力作用と陰性変時作用により、左室内の圧較差を軽減し、特に労作時に有効性が高いとされています。カルシウム拮抗薬(主にベラパミル)はβ遮断薬が何らかの理由で使用できない時の選択肢です。同様に陰性変力・変時作用による効果が期待されます。クラスIa抗不整脈薬は、特に安静時の症状改善が強いと考えられています。

心筋症診療ガイドライン2018年改訂版
心筋症診療ガイドライン2018年改訂版

カムザイオスカプセルの登場により、ガイドラインの位置付けがどうなるのか注目ですね。

カムザイオスカプセルの作用機序

カムザイオスは選択的心筋ミオシン阻害薬です

簡単に言うと、カムザイオスは心筋の過剰な収縮を阻害します。(それによって息切れや倦怠感等の自覚症状を改善、心房細動に伴う心不全や血栓塞栓症のリスクを下げる)

心筋の過剰な収縮を阻害するという部分、どうやって阻害するのか?というと

収縮に必要なATPの加水分解サイクルを妨げるのが機序です。筋肉の構成単位であるミオシンとアクチンの滑り込み(収縮)にはATPの分解から生じるエネルギーが必要であり、そのエネルギーの消費にかかる部分を阻害します。

より具体的には

・ミオシンヘッドからのPi放出抑制(Piの放出によりアクチンと強く結合する)
・SPX状態< DRX状態の緩和(ATP活性が高いDRX状態を低下させて過剰収縮を抑える)

カムザイオスカプセル 適正使用ガイド
カムザイオスカプセル 適正使用ガイド

カムザイオスカプセルは心筋のミオシン阻害剤です。従来の治療薬と違って、病態に直接作用し、血行動態を改善できるのが強みですね。

カムザイオスの有効性

マバカムテンの投与により下記項目の改善が認められます。
海外第3相臨床試験:EXPLORER-HCM

左室流出路圧較差
NYHAクラス
peak VO2

海外第3相臨床試験:EXPLORER-HCM
  • 対象…他の薬物療法実施中のoHCM患者251名
  • 方法…マバカムテン投与(1回5mg・1日1回から開始、最大15mgまで増量)
  • 比較…プラセボ
  • 結果…主要評価項目:投与30週後における臨床的奏効(「pVO2の1.5mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類のⅠ度以上の改善」又は「pVO2の3.0mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類の悪化なし」のいずれかを満たす)割合

結果は以下のとおり

マブカムテン投与群はプラセボ群に比べて、有意な臨床的奏功の割合を認めました(マブカムテン群36.6%、プラセボ群17.2%)

マバカムテン群プラセボ群
副作用発現頻度15.4%14.1%
浮動性めまい4.1%2.3%
頭痛3.3%1.6%
心房細動1.6%1.6%
不眠症1.6%0%
呼吸困難1.6%0.8%
左室流出路圧較差とは?

左心室から大動脈への血液の流出路における圧力差のこと。この圧較差が大きい場合、左室流出路狭窄が疑われます。一般的に、安静時の圧力差が30mmHg以上の場合、左室流出路狭窄と診断されます

Peak VO2は何か?
  • 最大酸素摂取量の略:「V=Volume(量)」「O₂(酸素)」
  • これ以上運動ができない(ピーク)時における最大の酸素摂取量
  • 単位はmL/kg/分、1分間に体重1kgあたり取り込める酸素の量
  • Peak VO2が高い=運動能力が高い、心肺機能が高い
  • 運動負荷試験で測定(トレッドミルやエアロバイクで運動中に呼吸の酸素量から求める)
NYHAクラスとは?
心不全診療ガイドライン2025年改訂版

カムザイオスの適応は、NYHA心機能分類Ⅱ度又はⅢ度の方です。海外第3相臨床試験(EXPLORER-HCM試験)、国内第3相臨床試験(HORIZON-HCM試験)

NYHA心機能分類Ⅳ度の患者における有効性及び安全性は確立していない。

カムザイオスカプセル 電子添文
カムザイオスの臨床の位置付けは?

マバカムテンの適正使用に関するステートメントによると、まずは従来通りβ遮断薬、続いてカルシウム拮抗薬を選択し、効果が十分得られない時の選択肢の一つです。第一選択ではない点は留意しておきたいですね。

マバカムテンの適正使用に関するステートメント第1版2025年

カムザイオスカプセルの対象患者は?

左室流出路に狭窄を有する①閉塞性肥大型心筋症が適応です。その中で②NYHA心機能分類Ⅱ度又はⅢ度(身体動作で症状+)、③前治療・併用薬としてβ遮断薬やカルシウム拮抗薬のいずれの投与があり、④左室駆出率(LVEF)55%以上の方です。
EXPLORER-HCM試験

  1. 症候性の閉塞性肥大型心筋症患者に投与すること。
  2. 「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、併用薬、左室駆出率等)を十分理解した上で、最新のガイドライン等を参照し、適応患者を選択すること。
カムザイオスカプセル 電子添文

カムザイオスの投与方法

カムザイオス
規格3規格
(1mg・2.5mg・5mg)
開始用量2.5mg
最大投与量15mg
用量調節5段階
(1段階ごとに用量を調節)
減量基準①心エコー検査にて
減量基準②
CYP阻害薬の開始・増量
本剤投与中に強い若しくは中程度のCYP2C19阻害剤、又は中程度若しくは弱いCYP3A4阻害剤の投与を開始又は増量する場合は用量を1段階減量(1mgを投与中の場合は休薬)し、4週間後にLVEFを確認すること。
減量基準③CYP誘導薬の中止・減量
本剤投与中に強い若しくは中程度のCYP2C19誘導剤、又は強い、中程度若しくは弱いCYP3A4誘導剤の投与を中止又は減量する場合は用量を1段階減量(1mgを投与中の場合は休薬)し、4週間後にLVEFを確認すること。
休薬・中止基準心エコー検査にて
カムザイオスカプセル 電子添文より作成

押さえておきたいポイントは3つです。

カムザイオス(国内承認)は海外用量と異なります。国内は開始量が2.5mg、米国は5mgです。なぜなのか?というと、日本人はCYP2C19の代謝活性が低い割合が多く、また低体重(海外臨床試験と比較)であり、血中濃度増加に伴う副作用のリスクがあるからです。安全性を考慮して、開始用量は半量に設定されています。欧州ではCYP2C19の遺伝子多型に合わせて開始量を選択するかたちです。

国内米国欧州
CYP2C19poor metabolizer
欧州
CYP2C19intermediate,normal,rapid,ultra-rapid metabolizer
開始2.5mg5mg2.5mg5mg
用量調節2.5mg・5mg・10mg・15mg2.5mg・5mg・10mg・15mg2.5mg・5mg2.5mg・5mg・10mg・15mg
最大15mg15mg5mg15mg
カムザイオスカプセル インタビューフォーム

カムザイオスは心エコーの結果をもとに用量調節を行います。具体的にはバルサルバLVOT圧較差とLVEFの値によって、上表のように投与量の増量・維持・休薬等を判断します。

バルサルバLVOT圧較差とは?

バルサルバ負荷後の左室流出路圧較差のこと。バルサルバ手技とは最大吸気時に鼻と口を閉じたまま腹圧をかけ、息を止めて10秒間ほど続けてもらった状態で心エコーを行う方法です。

CAMZYOS(mavacamten) capsules 適正使用情報、メーカーHP

ちなみに、増量のタイミングは投与開始12週後です。初めの検査を行う投与開始4週後は、「維持」と「減量」、又は「休薬(LVEF50%未満)」しか選択できません。

カムザイオスは併用薬によっても投与量調節が必要です。ここはかなり煩雑ですね。具体的にはCYP3A4やCYP2C19を基質とする薬剤を開始したり、減量する場合には用量調節が必要になるケースがあります。後述します。

カムザイオス投与時の注意すべき点

心不全のリスク
  • カムザイオスは心筋の収縮を妨げるミオシン阻害薬です。収縮機能障害によりLVEF低下に伴う心不全を引き起こす可能性があります。
  • 参考:LVEF50%未満の低下を認めた割合は?
    カムザイオス5.7%(7/123)プラセボ1.6%(2/128)EXPLORER-HCM試験
  • カムザイオスは投与前・投与中に心エコー検査が必須です。心不全のリスクを考慮して投与量の調節、休薬、中止を判断します。
  • カムザイオスはRMPの重要な特定されたリスクに心不全が設定されています。

早期発見のために、「息が切れる、呼吸が苦しい、胸が痛い、疲労感、動悸、足のむくみ等」心不全の自覚症状についての説明も必要ですね。

カムザイオスカプセルに係る医薬品リスク管理計画書

相互作用に注意
  • カムザイオスはCYP3A4とCYP2C19の阻害薬・誘導薬との併用に注意が必要です。
  • 併用禁忌あり強力にCYP3A4を阻害する薬剤
    イトラコナゾール、クラリスロマイシン含有製剤、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビル フマル酸、ロナファルニブ、ジョサマイシン、ミフェプリストン・ミソプロストールを投与中の患者
  • 併用注意ありCYP2C19・CYP3A4の阻害剤を開始する時(下表参照)
  • 併用注意ありCYP2C19・CYP3A4の誘導剤を中止又は減量する時(下表参照)
  • 併用注意ありβ遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、クラスⅠA抗不整脈薬
開始される阻害剤CYP2C19CYP3A4
強い1段階の減量考慮
4週後のLVEF確認
禁忌
中程度1段階の減量考慮
4週後のLVEF確認
1段階の減量考慮
4週後のLVEF確認
弱い1段階の減量考慮1段階の減量考慮
4週後のLVEF確認
1mg投与中の場合は休薬する
中止又は減量される誘導剤CYP2C19CYP3A4
強い1段階の減量考慮
4週後のLVEF確認
1段階の減量考慮
4週後のLVEF確認
中程度1段階の減量考慮
4週後のLVEF確認
1段階の減量考慮
4週後のLVEF確認
弱い1段階の減量考慮
4週後のLVEF確認
1mg投与中の場合は休薬する

カムザイオスの相互作用は種類が多く、対応も煩雑です。特にグレープフルーツジュースとの併用で、用量調節が必要なケースもある点は押さえておきたいですね。

参考資料:CYP3A4/CYP2C19阻害剤及び誘導剤の例

カムザイオスカプセル 適正使用ガイド

妊婦さんへの投与

カムザイオスは妊婦さん、妊娠の可能性のある女性は服用できません禁忌。動物実験において、臨床最大曝露量と同程度の曝露量で胚致死作用及び催奇形性が認められているからです。また、妊娠する可能性のある女性には、避妊期間(投与中と投与終了後4ヶ月)の説明も必要です。

妊娠する可能性のある女性には、本剤投与中及び最終投与後4ヵ月間において避妊する必要性及び適切な避妊法について説明すること

カムザイオスカプセル 電子添文

カムザイオスは患者さん説明用のパンフレットがあります。

カムザイオスカプセルを服用される患者さんへ

肝機能障害患者への投与

カムザイオスは重度の肝機能障害患者には投与できません禁忌。肝代謝の薬剤であり、血中濃度上昇に伴う副作用のリスクが懸念されるからです。Child-Pugh分類Cへの臨床試験は実施されておらず、有効性と安全性が検証されていません。

禁忌)重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者

カムザイオスカプセル 電子添文
施設要件あり

カムザイオスは以下のように施設要件が定められています。

カムザイオスカプセル 適正使用ガイド

マバカムテンの適正使用に関するステートメント第1版2025年にも、施設要件、医師要件が明記されています。基本的には循環器疾患を専門的にみる病院が処方を開始し、維持用量が決定した段階で、必要に応じて地域の医療機関と緊密に連携しながら処方を継続する薬剤という理解ですね。

まとめ

今回はカムザイオスカプセルの特徴についてまとめました。新機序の心筋ミオシン阻害薬であり、病態に直接作用し、血行動態を改善できます(従来薬との違い)。一方で、心不全のリスクには注意が必要です。定期的に心エコー検査を実施し、投与量の調節(休薬も含めて)を行わなければなりません。又、相互作用にも特段注意が必要ですね。カムザイオスの発売により、閉塞性肥大型心筋症における選択肢が広がります。本記事が知識の整理にお役立て頂けたら幸いです!

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