ザバクサとゾシンの違い【6つのポイント】

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今回のテーマは

ザバクサゾシンの違い!

どちらも、βラクタマーゼ阻害剤タゾバクタムを配合した抗菌薬です。広域スペクトルを生かしてよく似た場面で使われます。

では、ザバクサとゾシンは何が違うのか?
気になりますよね。

今回は、両薬剤の違いについて調べたので共有したいと思います。

目次

ザバクサとゾシンの比較表

まずは基本情報の比較から。

ザバクサゾシン
販売開始年月2019年6月2008年10月
一般名タゾバクタム/セフトロザンタゾバクタム/ピペラシリン
略号TAZ/CTLZTAZ/PIPC
規格ザバクサ配合点滴静注1.5g
(TAZ0.5g・CTLZ1g)
ゾシン点滴静注4.5g
(TAZ0.5g・PIPC4g)
ゾシン点滴静注2.25g
(TAZ0.25g・PIPC2g)
ゾシン配合点滴静注用バッグ4.5g
適応菌種レンサ球菌属、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、インフルエンザ菌、緑膿菌ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、プロビデンシア属、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター属、ペプトストレプトコッカス属、クロストリジウム属(クロストリジウム・ディフィシルを除く)、バクテロイデス属、プレボテラ属
適応①膀胱炎、腎盂腎炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、肝膿瘍
②敗血症、肺炎
①敗血症、肺炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、胆管炎、
②深在性皮膚感染症、びらん・潰瘍の二次感染
③腎盂腎炎、複雑性膀胱炎
④発熱性好中球減少症
投与方法
1回1.5gを1日3回
※腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、肝膿瘍ではMNZ併用


1回3gを1日3回
①②
1回4.5gを1日3回
(肺炎1日4回まで増量可)

1回4.5gを1日2回
(1日3回まで増量可)

1回4.5gを1日4回
各電子添文より作成

\まずは共通点を確認しておきます!/

大きく3つです

ザバクサとゾシンの共通点
  1. β-ラクタマーゼ阻害剤の配合剤
  2. 腎機能に応じた投与設計
  3. PK-PDパラメータ
共通点
β-ラクタマーゼ阻害剤の配合剤

ザバクサとゾシンはタゾバクタム(TAZ)の配合剤です。

・ザバクサ…タゾバクタム/セフトロザン
・ゾシン…タゾバクタム/ピペラシリン

TAZ配合の目的は?

抗菌スペクトルの拡大です。細菌が産生するβラクタマーゼはβラクタム環(ペニシリンやセフェム系薬の構造)のペプチド結合を切断し、抗菌薬を失活させる働きがあります。TAZはβラクタマーゼの阻害剤です。セフトロザンとピペラシリンが分解されるのを防ぎ、抗菌活性を維持する効果が期待できます。

βラクタマーゼ阻害薬は大きく3種類あります!

代表的な配合薬剤は下記の通りです。

種類一般名商品名
クラブラン酸(CVA)クラブラン酸/アモキシシリン(CVA/AMPC)オーグメンチン、クラバモックス
スルバクタム(SBT)①スルバクタム/アンピシリン(SBT/ABPC)
②スルバクタム/セフォペラゾン(SBT/CPZ)
①ユナシン
②スルペラゾン
タゾバクタム(TAZ)タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)
タゾバクタム/セフトロザン(TAZ/CTLZ)
①ゾシン
②ザバクサ
共通点
腎機能に応じた投与設計

ザバクサとゾシンは腎機能に応じた投与設計が欠かせません。腎排泄型の薬剤であり、排泄遅延に伴い副作用のリスクが高まるからです。

ザバクサ
ゾシン

本剤 1.5 g を健康成人男性に単回静脈内投与したときの排泄率(fe)の幾何平均はタゾバクタムで 58.7%〜87.1%、セフトロザンで 74.1%〜106%であった

ザバクサ配合静注用インタビューフォーム

点滴静注した時の尿中排泄率は、投与後12時間までにタゾバクタ ムで63.5〜71.2%、ピペラシリンで46.0〜52.9%であり、主に未変化体として尿中に排泄されることが明らかになった

ゾシン静注用インタビューフォーム

ザバクサとゾシンの腎機能別投与量は以下のとおりです。

ザバクサ
Ccr(mL/min)敗血症、肺炎腹腔内感染、尿路感染
50>3g × 31.5g × 3
30〜501.5g × 30.75g × 3
15〜290.75g × 30.375g × 3
15<推奨量データなし推奨量データなし
血液透析0.45g × 3
(初回は2.25g)
※透析日は透析終了後に
0.150g × 3
(初回は0.75g)
※透析日は透析終了後に
ザバクサ配合点滴静注 電子添文より作成

Ccr50を超えていたら通常量、以下なら減量を考慮します。投与回数は変わらず、1回量を調節するかたちです。腹腔内感染症の場合に併用するメトロニダゾールはCcr15以上あれば減量は必要ありませんが、Ccr15未満の場合には減量を考慮します。

500mgを8〜12時間毎(活性代謝物が蓄積するかもしれないが血液透析で速やかに除去されるため透析後に補充)

薬剤性腎障害診療ガイドライン2016

1回量を減量する場合の溶解・希釈手順は以下のとおりです。

ザバクサの溶解と希釈方法
STEP
溶解液)生理食塩液または注射用水を準備

注射器で10mLを測りとり、バイアルに注入する(全量11.4mL)

STEP
溶解後、必要量を抜き取る
ザバクサ使用量抜き取る量
3.0g約22.8mL
2.25g約17.1mL
1.5g約11.4mL
0.75g約5.7mL
0.45g約3.5mL
0.375g約2.9mL
0.15g約1.2mL
ザバクサ配合静注用インタビューフォーム
STEP
希釈液)生理食塩液または5%ブドウ糖液100mLを準備

抜き取った薬液(必要量)を希釈液に注入する

ゾシン
Ccr(mL/min)肺炎(重症)
発熱性好中球減少症
敗血症/肺炎/尿路感染(重症)/腹腔内感染、皮膚感染尿路感染
>404.5g × 44.5g × 34.5g × 2
10〜404.5g × 3
又は
2.25g × 4
4.5g × 2
又は
2.25g × 3
2.25g × 2
<10
HD、CAPD
4.5g × 2
又は
2.25g × 4
2.25g × 22.25g × 2
ゾシン静注用インタビューフォームより作成

Ccr40を超えていたら通常量、切っていたら減量を考慮するかたちです。1回量を減らすか投与間隔を延長させるか、いずれかの対応をとります。4.5gを半量使用する場合は、1瓶あたり生食20mLで溶解後に液量23.3mLから約11.6mL抜き取って希釈する手順です。20mLで溶解して半分10mL使用すると指示通りの投与量(2.25g)に満たない(1.93g)ので注意しましょう。

本剤2.25gバイアルにおいて、1バイアルを生理食塩液及び5%ブドウ糖注射液10mLに溶解した時の溶解後の液量は、いずれも11.5mL(196mg(力価)/mL)となる。また、本剤4.5gバイアルにおいて、1バイアルを生理食塩液及び5%ブドウ糖注射液20mLに溶解した時の溶解後の液量は、それぞれ23.3及び23.4mL(193及び192mg(力価)/mL)となる。

ゾシン静注用 電子添文
共通点
PK-PDパラメータ

ザバクサとゾシンのPK-PDパラメータはtime above MICです。1日投与量が同じなら複数回に分けて投与した方が高い有効性が得られます。いわゆる時間依存性の抗菌薬ですね。MICを超えた濃度を維持する必要があり、ザバクサは1日3回、ゾシンは1日3回の投与回数(尿路感染:2回/日、重症:4回/日)が設定されています。

ザバクサ
ゾシン

他のセファロスポリン系抗菌薬と同じく、セフトロザンの in vivo での有効性と最も関連する PK 指標は、血漿中薬物濃度が MIC を超えている時間の割合(%T>MICであった。

ザバクサ配合静注用インタビューフォーム

ペニシリン系抗菌薬は時間依存的な殺菌作用を示し、Time above MICが効果に相関するといわれており、Time above MICが30%以上で増殖抑制作用、50%で最大殺菌作用を示すことが示唆されている。

ゾシン静注用インタビューフォーム

ここからが本題!ザバクサとゾシンの違いについて。

大きく6つです。

  1. 分類
  2. 規格・剤型
  3. 抗菌スペクトル
  4. 適応
  5. コスト
  6. 臨床の位置付け

順に見ていきましょう。

ザバクサとゾシンの分類

相違点①

・ザバクサ…タゾバクタム/セフトロザン
・ゾシン…タゾバクタム/ピペラシリン

ザバクサとゾシンは成分の分類が違います。セフトロザンはセファロスポリン系、ピペラシリンはペニシリン系の抗菌薬です。以下のように、βラクタム環を有する点は同じですが、骨格が異なります。

セフトロザンとピペラシリン:構造の比較
  • セファロスポリン…4員環のβラクタム環+6員環のヒドロチアジン環
  • ペニシリン…4員環のβラクタム環+5員環のチアゾリジン環

それぞれの特性は?

セフトロザンはセフタジジム(第3世代セファロスポリン)と似た構造です。抗菌スペクトルも類似しており、主に緑膿菌を含めたグラム陰性桿菌に活性があります(詳細は後述)。Webで検索すると第4世代との記載がありますが、スペクトル的には3世代の印象です(グラム陽性球菌には効きにくいので)。

代表的なセフェム系の注射薬
略号一般名分類
CEZセファゾリン第1世代セファロスポリン系
CTMセフォチアム第2世代セファロスポリン系
CMZセフメタゾールセファマイシン系
FMOXフロモキセフオキサセフェム系
CTRXセフトリアキソン第3世代セファロスポリン系
CPZ/SBTセフォペラゾン/スルバクタム第3世代セファロスポリン系
(βラクラマーゼ配合)
CAZセフタジジム第3世代セファロスポリン系
CFPMセフェピム第4世代セファロスポリン系
TAZ/CTLZタゾバクタム/セフトロザン

一方で、ピペラシリンはアミノペニシリンの改良版です。グラム陰性桿菌にスペクトルを拡大して、緑膿菌までカバーできます。

代表的なペニシリン系の注射薬
略号一般名分類
PCGベンジルペニシリン天然ペニシリン
ABPCアンピシリンアミノペニシリン
PIPCピペラシリン抗緑膿菌活性ペニシリン
ABPC/SBTアンピシリン/スルバクタムβラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン
TAZ/PIPCタゾバクタム/ピペラシリンβラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン

下に行くほど、グラム陰性桿菌へのスペクトルが広がります(PCG→ABPC→PIPC)。βラクタマーゼ阻害剤(BLi)の配合により、BLi産生の細菌、嫌気性菌にも抗菌活性が付与されます(ABPC/SBT、TAZ/PIPC)

ザバクサの有効成分セフトロザンはセファロスポリン系、ゾシンに含まれるピペラシリンはペニシリン系です!

\ペニシリン系とセフェム系のスペクトルをまとめた記事です!/

ザバクサとゾシンの規格・剤型

相違点②

・ザバクサ…1規格
・ゾシン…2規格・キット製剤もあり

規格・剤型のラインナップに違いがあります。ザバクサは1規格のみ、1バイアル1.5gです。一方で、ゾシンは2規格。通常量の1バイアル4.5gと半量の2.25g製剤があります。又、生食100mL付きのキット制剤も発売されました。

この点、ゾシンの方が使い勝手に優れます。半量製剤は用量調節時の調製手間が省けるし、キット製剤は希釈の労力の最小化できるからです(採用薬の事情によりますが…)。先述のように、ザバクサは減量パターンが多く、調製が煩雑です。

ザバクサとゾシンの抗菌スペクトル

相違点③

グラム陽性球菌グラム陰性桿菌嫌気性菌
ザバクサ
ゾシン

上記はザックリとしたイメージです。どちらもグラム陰性桿菌に安定した抗菌活性を示します。セフトロザン、ピペラシリンともに単独でスペクトルが及ぶ上に、先述のようにβラクタマーゼ阻害剤配合によりさらに守備範囲が増えているからです。緑膿菌や最近問題になっているESBL産生菌にも抗菌活性を示します。

一方で違いは何か?ポイントは3つです。

  1. 緑膿菌に対するスペクトル
  2. 嫌気性菌に対するスペクトル
  3. グラム陽性菌に対するスペクトル

緑膿菌に対するスペクトル

ザバクサの特性を一言でいうなら

緑膿菌に対する抗菌力の強さです。

緑膿菌はさまざまなメカニズム(下記)で抗菌薬に耐性を示します。

  • 外膜透過性低下…ポーリン孔が減少し、抗菌薬が作用点に到達できない
  • 抗菌薬の不活化亢進…βラクタマーゼ(AmpC、カルバペネマーゼ等)を産生して、抗菌薬を無力化させる
  • 排出ポンプの機能亢進…ペプチドグリカンに到達する前に抗菌薬が菌外へ排出される
  • ペニシリン結合蛋白(PBP)の変異…抗菌薬が作用点に結合できない

しかし、セフトロザンはポーリンの欠損、AmpC亢進、薬剤排出タンパク質のいずれに対しても安定であることが示されています。

セフトロザンの抗 P. aeruginosa 活性に及ぼす AmpC β-ラクタマーゼの発現レベルの影響と、AmpC β-ラクタマーゼに対する安定性

・セフトロザンの抗 P. aeruginosa 活性に及ぼす AmpC β-ラクタマーゼの発現レベルの影響と、 P. aeruginosa から精製した AmpC β-ラクタマーゼに対するセフトロザンの安定性を検討した試験において、セフトロザンは P. aeruginosa の AmpC 酵素に対する親和性が低く、AmpCによる加水分解を受けず安定であった。

・外膜蛋白質ポーリン(OprD)の欠損又はその変化はP. aeruginosaのカルバぺネム系抗菌薬に対す る耐性機構の 1 つであるが、OprD 変異のある P. aeruginosa に対してセフトロザンは抗菌活性を示し、OprD の欠損による影響を受けなかった

・P. aeruginosa の非酵素的耐性機構である薬剤の能動的排出機構に介在する排出ポンプ(MexAB- OprM、MexCD-OprJ、MexEF-OprN 及び MexXY-OprM)を過剰発現した菌株に対するセフトロザ ンの MIC は、親株に対する MIC と比較して上昇しなかったことから、セフトロザンはこれらの排出ポンプの基質ではないことが示された

ザバクサ配合静注 インタビューフォーム

「日本国内で収集された臨床分離株の各種細菌におけるin vitro 抗菌活性」の調査によると、ザバクサのMIC50/90 は1/2μg/mLであり、感性率は93.0%とすべての対照薬(ゾシン、カルバペネムを含む)と比べて最も高い結果でした。AmpC産生の緑膿菌にも優れた抗菌活性を認めています。

国内臨床分離株に対するTazobactam/Ceftolozaneのin vitro抗菌力

ゾシンも緑膿菌に感受性がありますが、この点ザバクサに優位性があるといえます

嫌気性菌に対するスペクトル

ザバクサゾシン
嫌気性菌ペプトストレプトコッカス属
クロストリジウム属(クロストリジウム・ディフィシルを除く)
バクテロイデス属
プレボテラ属
適応菌種の比較、電子添文より作成

ここは大きな違い!

ザバクサは嫌気性菌が関与する感染症に単独で使用できません。セフトロザン(TAZ存在下)は一部のバクテロイデス属に抗菌活性が確認されていないからです。

申請適応菌種のうち、バクテロイデス属について、B. fragilisに対するセフトロザンの MIC50/90は0.06/0.25μg/mLであったが、B. thetaiotaomicro 及び B. distasonis に対しては、それぞれ5/6株及び3/3株でMICが32μg/mL以上と高値であり、B. fragilisの抗菌活性は確認されたが、それ以外の菌種に対しては得られているデータからは抗菌活性は確認されていないと考える。

ザバクサ配合点滴静注用、審議結果報告書

嫌気性菌の関与が疑われる腹腔内感染症の場合、メトロニダゾール(MNZ、嫌気性菌感染症治療薬)と併用します。

〈膀胱炎、腎盂腎炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、肝膿瘍〉通常、成人には1回1.5g(タゾバクタムとして0.5g/セフトロザンとして1g)を1日3回60分かけて点滴静注する。なお、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、肝膿瘍に対しては、メトロニダゾール注射液と併用すること。

〈敗血症、肺炎〉通常、成人には1回3g(タゾバクタムとして1g/セフトロザンとして2g)を1日3回60分かけて点滴静注する。

ザバクサ配合点滴静注用、電子添文

一方で、ゾシンはバクテロイデス属をはじめ、ペプトストレプトコッカス属、クロストリジウム属(クロストリジウム・ディフィシルを除く)、プレボテラ属など嫌気性菌に広く抗菌活性が認められます。通常、MNZとの併用は不要です。

どちらもタゾバクタムを含む時点で、嫌気性菌(多くがβラクタマーゼを産生)に効くと思ったのですが、そうではないんですね。ピペラシリンとセフトロザン自体の活性の違いによるという理解でしょうか(ピペラシリンの適応菌種にバクテロイデスの記載あり)

グラム陽性球菌に対するスペクトル

ザバクサゾシン
グラム陽性球菌レンサ球菌属レンサ球菌属
ブドウ球菌属
肺炎球菌
腸球菌属
適応菌種の比較

ポイントは2つです。

ゾシンは黄色ブドウ球菌に抗菌活性を示します。タゾバクタム配合によりペニシリナーゼ(βラクタマーゼの一種)による分解を阻止できるからです。黄色ブドウ球菌の多くはペニシリナーゼを産生します。

一方で、ザバクサは黄色ブドウ球菌に抗菌活性が認められません。セフトロザン自体の活性が弱いからです。セフタジジムと同様に緑膿菌への抗菌力と引き換えに、黄色ブドウ球菌への活性が失われています(PBPの結合親和性低下)。TAZにより分解を免れても、そもそも効かないという理解ですね。

ゾシンは腸球菌(E.フェカーリス)に感受性があります。一方で、ザバクサは感受性がありません。そもそも腸球菌はセファロスポリンに対して自然耐性(PBPに結合できない)だからです。

ゾシンと違って、ザバクサはグラム陽性球菌に対する感受性が十分ではありません。黄色ブドウ球菌が起炎菌となる発熱性好中球減少症や皮膚感染症には適応もない点は押さえておきましょう。

ザバクサとゾシンの適応

相違点④

ザバクサ
ゾシン
  • 腹腔内感染症
  • 尿路感染症
  • 肺炎
  • 敗血症
  • 腹腔内感染症
  • 尿路感染症
  • 肺炎
  • 敗血症
  • 皮膚感染症
  • 発熱性好中球減少症

小児の適応もあり

ゾシンの方が適応が広めです。あと、小児にも使用できます(深在性皮膚感染症、びらん・潰瘍の二次感染を除く、用量設定なし)。発熱性好中球減少症は、グラム陽性球菌(レンサ球菌、黄色ブドウ球菌等)、グラム陰性桿菌(緑膿菌、腸内細菌)、嫌気性菌をカバーすべき病態であり、ゾシンの広域スペクトルを生かせます。

一方で、先述のようにザバクサは発熱性好中球減少症、皮膚感染症には適応がありません。どちらもグラム陽性球菌や嫌気性菌が起炎菌になる可能性が高く、抗菌スペクトルが一部及ばないことから、今後の適応追加はなさそうですね。

適応の広さ…ザバクサ<ゾシン(発熱性好中球減少症、皮膚感染症、小児にも使用可)

ザバクサとゾシンのコスト

相違点⑤

・ザバクサ…割高(ハイコスト)
・ゾシン…やや安価ジェネリックあり

ザバクサとゾシン:薬価の比較
ザバクサゾシンタゾピペ
薬価5,967円/1.5g瓶1,315円/4.5g瓶
1,010円/2.25g瓶
1,989円/4.5gキット
1,195円/4.5g瓶
945円/2.25g瓶
1,835円/4.5gキット
876〜892円/4.5g瓶
590〜616円/2.25g瓶
1,722円/4.5gキット
936円/2.25gキット
腹腔内感染症
(1日あたり)
17,901円
+3,564円(MNZ)
3,585円2,628〜2,676円
尿路感染症
(1日あたり)
17,901円2,390円1.752〜1,784円
敗血症・肺炎
(1日あたり)
35,802円4,780円3,504〜3,568円
2024年4月時点の薬価です

1日あたりの費用は、以下のように尿路感染症→腹腔内感染症→肺炎・敗血症の順にコスト差が大きく広がっていきます。元々の薬価差に加えて、腹腔内感染症では、アネメトロの薬剤費が上乗せされ、敗血症・肺炎では倍量投与になるからです。

尿路感染症
ザバクサ1.5g×3
17,901円
ゾシン4.5g×2
2,390円
腹腔内感染症
ザバクサ1.5g×3+MNZ500mg×3
21,465円
ゾシン4.5g×3
3,585円
敗血症・肺炎
ザバクサ3.0g×3
35,802円
ゾシン4.5g×4
4,780円

敗血症で使用する場合には、1日約31,000円の差が生じます。1週間で217,000円。とてつもない額ですね。さらに、ゾシンはジェネリック(タゾピペ)があり、差額はより広がります。

ゾシンが安いというよりは、ザバクサが高すぎですね!

ザバクサとゾシンの臨床的な位置付け

前提として

どちらも広い抗菌スペクトルを生かして、特にグラム陰性桿菌(緑膿菌、ESBL産生菌を含む)、嫌気性菌の関与が疑われる重症・難治性感染症に対する経験的治療・標的治療の選択肢の一つです。カルバペネム系薬の使用を温存し、CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)の出現を防ぐ役割もあります。

(相違点⑥)
では、ザバクサとゾシンの使い分けは?

基本的には

ゾシンの選択が望ましいと考えられます。低コスト(無視できないほどの大きな差)であり、嫌気性菌に対するスペクトルから腹腔内感染症においてメトロニダゾールの併用が不要だからです。患者負担が少なく使い勝手の良いゾシンに軍配が上がります。もちろん、適応の関係で、皮膚感染症と発熱性好中球減少症ではザバクサの出番はありません。

その状況でもあえて

ザバクサの方をゾシンよりも優先的に選択するケースは

緑膿菌に対する抗菌力の強さを生かせる場面が挙げられます。ザバクサの強みですね。緑膿菌の関与を強く疑う場合のエンピリック治療や、耐性度の強い緑膿菌感染症の標的治療において有用だと考えられます。

※ESBL産生菌による感染症はカルバペネム系薬が第一選択です。ザバクサ、ゾシンともにタゾバクタムの配合により、in vitroでは感受性が認められますが、臨床効果が期待できない可能性があります。ピペラシリン/タゾバクタムはESBL産生菌の菌血症において、メロペネムと比べて30日後の死亡率で非劣性が認められませんでした(JAMA. 2018 Sep 11;320:984-994.)。セフトロザン/タゾバクタムについても、ESBL産生菌感染症における臨床データが十分ではありません。菌血症や重症例では、避けた方が良いと考えられます。

コスト・使い勝手から、基本的にはゾシンの選択ですね。当院でもそうです。ザバクサの出番はゾシンが使えない時や重症・難治性の緑膿菌感染症等が考えられます。

まとめ

今回は、ザバクサとゾシンの違いについてまとめました。

本記事のポイント

思っていた以上に、違いはありました!
私は「抗菌スペクトル」の違いが興味深かったです。セフトロザンとピペラシリンの抗菌力の差も合わせた理解が必要ですね。

ザバクサゾシン
成分
(略号)
タゾバクタム/セフトロザン
(TAZ/CTLZ)
タゾバクタム/ピペラシリン
(TAZ/PIPC)
分類
β-ラクタマーゼ阻害剤配合抗生物質
セファロスポリン系

β-ラクタマーゼ阻害剤配合抗生物質
ペニシリン系
規格ザバクサ配合点滴静注1.5g
1規格
ゾシン点滴静注4.5g
ゾシン点滴静注2.25g
ゾシン配合点滴静注用バッグ4.5g
→2規格(キット製剤も)
抗菌スペクトル連鎖球菌+グラム陰性桿菌
緑膿菌、ESBL産生等)
特に緑膿菌に有用
グラム陽性球菌+グラム陰性桿菌(緑膿菌、ESBL産生等)、嫌気性菌
陽性球菌、嫌気性菌にも活性あり
適応①膀胱炎、腎盂腎炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、肝膿瘍
②敗血症、肺炎
①敗血症、肺炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、胆管炎、
深在性皮膚感染症、びらん・潰瘍の二次感染
③腎盂腎炎、複雑性膀胱炎
発熱性好中球減少症
投与方法
1回1.5gを1日3回
腹腔内感染ではMNZ併用

1回3gを1日3回
①②
1回4.5gを1日3回
(肺炎1日4回まで増量可)

1回4.5gを1日2回
(1日3回まで増量可)

1回4.5gを1日4回
腎障害時の投与Ccr40以下で減量Ccr50以下で減量
PK-PDパラメータtime above MICtime above MIC
小児適応なし適応あり
コスト高価やや安価
臨床の位置付けグラム陰性菌、嫌気性菌(MNZと併用)に対する
・経験的治療
・標的治療
特に、緑膿菌感染症に!
(カルバペム温存のための選択肢)
グラム陰性桿菌、嫌気性菌に対する
・経験的治療
・標的治療
(カルバペム温存のための選択肢)
目次