今回のテーマはカルバペネム系薬!
抗菌スペクトルの広さと抗菌力の強さから、細菌性感染症の切り札ですよね。
・カルバペネム系抗菌薬の特徴は何か?
・薬剤師が押さえておきたいポイントは何か?
勉強がてらまとめたので共有したいと思います。
ポイントは全部で7つです。
- カルバペネム系抗菌薬の種類は?
- カルバペネム系抗菌薬、配合剤と単剤の違いは?
- カルバペネム系抗菌薬の作用機序は?
- カルバペネム系抗菌薬の抗菌スペクトルは?
- カルバペネム系抗菌薬、臨床の位置付けは?
- カルバペネム系抗菌薬、最適な投与方法は?
- カルバペネム系抗菌薬、投与に際して注意すべき点は?
Q&A形式で、順番に見ていきましょう。
カルバペネム系抗菌薬の種類は?
カルバペネム系抗菌薬は全部で6種類あります。
製品名 | チエナム | カルベニン | メロペン | オメガシン | フィニバックス | オラペネム |
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販売日 | 1987年9月 | 1993年12月 | 2001年6月 | 2002年3月 | 2005年9月 | 2009年8月 |
一般名 | イミペネム・シラスタチン | パニペネム・ベタミプロン | メロペネム | ビアぺネム | ドリペネム | テビペネムピボキシル |
略号 | IPM/CS | PAPM/BP | MEPM | BIPM | DRPM | TBPM |
剤型 | 注射 | 注射 | 注射 | 注射 | 注射 | 内服 |
注射薬は全部で5種類。オラペネムは唯一のカルバペネム経口製剤です。適応は小児に限定されています。
ちなみに、ファロペネム(FRPM)はカルバペネム系薬ではありません。ペニシリンとセファロスポリンを融合した構造を持つペネム系抗菌薬です。臨床的な位置付けも異なります。名前が似ていて紛らわしい…。
ここからは、注射薬を中心に見ていきます。
実は、イミペネム・シラスタチンにβラクタマーゼ阻害剤レレバクタムを配合したレカルブリオ配合点滴静注用(REL/IPM/CS)が2021年11月より発売されています。カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す細菌感染症に用いる薬剤です。位置付けが異なるため、本記事では割愛します。
配合剤と単剤の違いは?
カルバペネム注射薬は以下のように配合剤と単剤に分類されます。
なぜ、シラスタチンとベタミプロンが配合されているのか?
理由は下記のとおりです
- シラスタチン…イミペネムの不活化、代謝物の腎毒性を抑制
- ベタミプロン…パニぺネムの腎毒性を軽減
イミペネムは単剤では十分な効果が得られません。腎臓の近位尿細管刷子縁膜にあるデヒドロペプチダーゼ-1(DHP-1)によって分解されるからです。DHP-1阻害剤のシラスタチンは、イミペネムの不活化を阻害し、薬効の減弱を防ぐ役割があります。
加えて、腎毒性を軽減する効果も期待できます。イミペネムの代謝物(DHP-1による)には尿細管の障害作用があるからです。つまり、不活化を防ぎつつ、腎毒性も軽減できるわけですね。
イミペネムは優れた抗菌力を示すにもかかわらず、腎の酵素dehydropeptidase-Iにより代謝を受け、不活性化されることから、この不活性化を抑制するためにシラスタチンナトリウムが配合された。シラスタチンナトリウムは、dehydropeptidase-Iによるイミペネムの代謝・不活性化を抑制するのみならず、動物実験でみられるイミペネムの腎毒性も抑制する。なお、シラスタチンナトリウムには抗菌活性が認められず、イミペネムの抗菌活性にも影響を与えない
チエナム点滴静注 電子添文
続いて、ベタミプロンはなぜ配合されているのか?
腎毒性を防ぐためです。シラスタチンと異なりDHP-1阻害作用はありません。
パニぺネムは動物実験で単独投与により腎毒性が認められています。機序は尿細管からの再吸収に伴う蓄積と推察され、リスク低減のために有機アニオン輸送系阻害剤であるベタミプロンとの合剤として開発されました。
一方で、メロペネムとビアぺネム、ドリペネムは単剤で用いることができます。カルバペネム骨格の1β位にメチル基を導入することで、DHP-1に安定になったからです。加えて、構造の改良により腎毒性も軽減されています。
メロペネムは、カルバペネム骨格の2位側鎖にジメチルカルバモイルピロリジニルチオ基を導入することにより腎毒性(ウサギ)及び痙攣誘発作用(マウス)の低減化、さらに、1β位にメチル基を導入することによりDHP-I に対して安定化した。これら置換基の導入により単剤での使用が可能となった。
メロペン インタビューフォーム
DHP-1の安定性は構造の違いによる!
カルバペネム系は構造の違いにより2つに分類されます。
- 1位に水素…1Hカルバペネム
- 1位メチル基…1βメチルカルバペネム
メチル基の導入によりDHP-1に安定になり、単剤使用が可能になりました。製剤ごとのDHP-1に対する安定性は以下のとおりです。
このように、初期のカルバペネム系薬は、DHP-1による不活化や腎毒性を軽減するために配合剤となっている点は押さえておきましょう。
作用機序は?
カルバペネム系薬は細胞壁の合成を妨げ、細菌の細胞分裂を阻害します。ペニシリンやセファロスポリンと同様の機序です。
具体的には、ペプチド架橋酵素(トランスペプチダーゼ)の活性部位(ペニシリン結合タンパク:PBP)に結合し、活性を阻害します。
抗菌スペクトルは?
カルバペネム系といえば広範囲にわたる抗菌スペクトルが特徴です。グラム陽性球菌や陰性桿菌、嫌気性菌等に幅広く抗菌活性を示します。
なぜ、広域スペクトルなのか?
理由は大きく3つです
- 結合できるPBPの種類が多い
- porin孔を通りやすい(グラム陰性桿菌の外膜)
- βラクタマーゼに安定
- ペニシリナーゼ
- セファロスポリナーゼ
- 基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)
- AmpC型βラクタマーゼ…等
抗菌スペクトル:チエナム(IPM/CS)とセフェム系薬の比較
腸球菌 | 連鎖球菌 | ブドウ球菌 | P | E | K | H | M | S | C | E | P | A | 嫌気性菌 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
IPM/CS | ||||||||||||||
CEZ セファゾリン | ||||||||||||||
CTM セフォチアム | ||||||||||||||
CMZ セフメタゾール | ||||||||||||||
CTRX セフトリアキソン | ||||||||||||||
CAZ セフタジジム | ||||||||||||||
CFPM セフェピム |
▲…E.フェシウムは耐性、E.フェカーリスに感受性あり
- P:プロテウス
- E:大腸菌
- K:クレブシエラ
- H:インフルエンザ菌
- M:モラクセラ.カタラーリス
- S:セラチア、P:緑膿菌
- A:アシネトバクター
- C:シトロバクター
- E:エンテロバクター
全般的にカルバペネム系薬はCTRX(第3世代)に加えて、SPACE+嫌気性菌、CFPM(第4世代)に加えて、嫌気性菌のカバーが可能です。それだけではなく、下記の耐性菌にも抗菌活性を示します。
- ESBL産生菌
※第1〜4世代セファロスポリン無効(セファマイシン除く) - AmpC型βラクタマーゼ産生菌
※セファマイシンも無効(第4世代は感受性あり)
カルバペネムは万能ではない!
ここは誤解というか盲点だと思います。効かない菌は以下のとおりです。
- グラム陽性球菌… MRSA、MR-CNS、Enterococcus
- グラム陰性桿菌…stenotrophomonas maltophilia
- 非定型細菌…マイコプラズマ、クラミジア
- 嫌気性菌…C.Difficile
- 真菌
- 結核菌
カルバペネム系薬の中でも
スペクトル、抗菌力に差があるのか?
インタビューフォーム等を調べてみると、押さえておきたいポイントは下記のとおりです。
- グラム陽性球菌>陰性桿菌 …IPM/CS、PAPM/BP
- グラム陽性球菌<陰性桿菌 …MEPM、BIPM、DRPM
- MEPM、DRPMは緑膿菌に強い(特にDRPM、緑膿菌の抗菌力を高めるために開発)
- PAPM/BPは緑膿菌が苦手だが、PISP、PRSPに対する抗菌活性が強い(※細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014において、免疫能が正常の16歳から50歳未満の方に、MEPMと同様に推奨)
- IPM/CSは腸球菌(フェカーリス)に感受性あり(MEPMはなし)
臨床の位置付けは?
カルバペネム系薬はどのような場面で使うのか?
前提として出番はかなり限定されています。安易な使用は耐性菌の出現につながるからです。できるだけ温存すべき薬剤である点は押さえておきましょう。
選択する場面は大きく2つです。
- 標的治療
- 経験的治療
①カルバペネム系薬は「多剤耐性グラム陰性桿菌の標的治療」に用います。たとえば培養結果から以下の起炎菌が判明した場合です。
カルバペネム系:標的治療のターゲット(例)
- 多剤耐性のSPACE(セラチア、緑膿菌、アシネトバクター、シトロバクター、エンテロバクター)
- ESBL産生菌
- AmpC型βラクタマーゼ産生菌
他剤に感受性がない耐性菌の治療に使います。ここが一つ目の出番です。
2つ目は「重症・難治性感染症(耐性菌を疑う)の初期治療」で用います。たとえば、以下のようなケースです。
カルバペネム系:経験的治療の場面(例)
- 腹腔内感染、壊死性筋膜炎(グラム陽性、陰性、嫌気性菌など複数菌の関与)
- 敗血症(ショックを伴う、急速に進行する)
- 発熱性好中球減少症(耐性菌、嫌気性菌の関与を疑う)
一刻を争う状況で、起炎菌を漏れなく広くカバーしたい場面で用います。適正使用の観点から、治療後、起炎菌が判明した時点で、感受性がある狭域スペクトルの薬剤への変更(デ・エスカレーション)を行うのが基本です。
以下のように製剤ごとに違いがあります。細かい違いは置いといて、押さえておきたいのは下記です。
- 発熱性好中球減少症…MEPMのみ
- 化膿性髄膜炎…PAPM/BP、MEPM、DRPMのみ
チエナム…敗血症、感染性心内膜炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、関節炎、急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎(急性症、慢性症)、腹膜炎、胆嚢炎、胆管炎、肝膿瘍、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、子宮旁結合織炎、角膜炎(角膜潰瘍を含む)、眼内炎(全眼球炎を含む)
カルベニン…敗血症、感染性心内膜炎、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肛門周囲膿瘍、骨髄炎、関節炎、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎(急性症、慢性症)、精巣上体炎(副睾丸炎)、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、胆管炎、肝膿瘍、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、子宮旁結合織炎、化膿性髄膜炎、眼窩感染、眼内炎(全眼球炎を含む)、中耳炎、副鼻腔炎、化膿性唾液腺炎、顎骨周辺の蜂巣炎、顎炎
メロペン…敗血症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肛門周囲膿瘍、骨髄炎、関節炎、扁桃炎(扁桃周囲膿瘍を含む)、肺炎、肺膿瘍、膿胸、慢性呼吸器病変の二次感染、複雑性膀胱炎、腎盂腎炎、腹膜炎、胆嚢炎、胆管炎、肝膿瘍、子宮内感染、子宮付属器炎、子宮旁結合織炎、化膿性髄膜炎、眼内炎(全眼球炎を含む)、中耳炎、副鼻腔炎、顎骨周辺の蜂巣炎、顎炎、発熱性好中球減少症
オメガシン…敗血症、肺炎、肺膿瘍、慢性呼吸器病変の二次感染、複雑性膀胱炎、腎盂腎炎、腹膜炎、子宮旁結合織炎
フィニバックス…敗血症、感染性心内膜炎、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、関節炎、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、肺炎、肺膿瘍、膿胸、慢性呼吸器病変の二次感染、複雑性膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎(急性症、慢性症)、精巣上体炎(副睾丸炎)、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、胆管炎、肝膿瘍、子宮内感染、子宮付属器炎、子宮旁結合織炎、化膿性髄膜炎、眼窩感染、角膜炎(角膜潰瘍を含む)、眼内炎(全眼球炎を含む)、中耳炎、顎骨周辺の蜂巣炎、顎炎
各種電子添文より
最適な投与方法は?
PK-PD理論から
カルバペネム系薬は、臨床効果と細菌学的効果がTime above MICに相関します。
1日の投与量が同じなら、投与回数を増やす(分割投与)、投与速度をゆっくりにすると効果的です。ペニシリンとセファロスポリンと同様ですね。
ちなみに、TBPMはAUC/MICに相関するといわれています。
投与時の注意点は?
大きく2つあります。
- 痙攣や意識障害の副作用
- バルプロ酸ナトリウムとの相互作用
①カルバペネム系薬は中枢神経刺激作用があります。抑制系の神経伝達物質であるGABAが受容体に結合するのを妨げるからです。頻度自体は低いですが、腎機能が低下した人や痙攣の既往のある方では注意が欠かせません。
特に、チエナム(IPM/CS)はリスクが高いとされています。以下のように「減量等を考慮すること」と添付文書に記載があり、細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014では、髄膜炎の治療にイミペネムは避けるべきとあります。
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.4 てんかんの既往歴あるいは中枢神経系障害を有する患者減量等を考慮すること。痙攣、呼吸停止、意識障害、呼吸抑制等の中枢神経症状が起こりやすい。9.2 腎機能障害患者
チエナム点滴静注 電子添文
9.2.1 減量等を考慮すること。痙攣、呼吸停止、意識障害、呼吸抑制等の中枢神経症状が起こりやすい。
また、カルバペネム系薬は併用薬のチェックが欠かせません。機序は明らかでないものの、バルプロ酸の血中濃度を低下させ、けいれんを誘発する可能性があるからです。いずれの薬剤も併用禁忌になっています。
まとめ
今回は、カルバペネム系薬の特徴について、Q&A形式で解説しました。
ポイントをまとめると、以下のとおりです。
- どんな種類があるの?
-
注射5種類(IPM/CS、PAPM/BP、MEPM、BIPM、DRPM)、内服1種類(TBPM)
- 配合剤と単剤の違いは?
-
DHP-1に対する安定性、腎毒性の有無
- 作用機序は?
-
PBP結合、細胞壁合成阻害
- なぜ広域スペクトルなのか?
-
結合できるPBPが多い、外膜の透過性に優れる、各種βラクタマーゼに安定
- 臨床の位置付けは?
-
多剤耐性グラム陰性桿菌の標的治療又はエンピリック治療
- 最適な投与方法は?
-
Time above MIC
- 投与に際して注意すべき点は?
-
中枢興奮作用、バルプロ酸Naと併用禁忌
ざっと、こんな感じですね。日常業務にお役立ていただけたら幸いです♪