薬剤師が医師になったら、薬剤師免許はどう活かせるのか?考察してみた

当ページのリンクには広告が含まれています

薬剤師免許を持った医師って、なんか凄そうなイメージですよね。

近頃は薬学部を卒業後、医師を目指す人が増えています。特に社会人が医学部2年生に編入できる試験が人気ですね。

実をいうと私も、過去に薬剤師として働きながら医学部を目指したことがあります。

結局、うまくいかなかったけど、死ぬほど勉強しました。出勤前、休み時間、家に帰ってから、休みの日も生命科学と英語の勉強に明け暮れた記憶が今でも残っています。

君はどのような医師になりたいの?

面接官の問いに、自信を持って答えました。

薬に詳しい医師になりたいです!

(アイコンはイメージです笑)

これが薬剤師が医師になる強みだと信じていたからです。薬剤師と医師のダブルライセンスは最強だと思っていたんだと思います。

でも、本当にそうなのか?

あらためて考えてみると、今となっては何か違う気がします。

「薬剤師が医師になったら、薬剤師免許はどう活かせるのか?」

そんなことをふと思い、考察しました。個人的な意見なので、参考程度に読んで頂けたら幸いです。

目次

結論…薬剤師免許はそれほど活用できない?!

結論からいいます。

薬剤師が医師になったら、薬剤師免許はどう活かせるのか?

残念ながら、それほど活用できません。

医師免許を大幅にパワーアップさせるほどの効力はないと考えられるからです。もちろん、まったく役に立たないわけじゃなくて、思ったほどという意味ですよ^_^

理由は大きく3つです。

  1. 「薬に詳しい」の意味は医師と薬剤師で異なる
  2. 「薬剤師免許を使わない」→「価値が失われる」
  3. 「ダブルライセンス」よりも「シングルライセンス×2」

順番に見ていきましょう。

理由①「薬に詳しい」の意味は医師と薬剤師で異なる

まず一つ目の理由は「医師が求める薬の知識」と「薬剤師が身につける知識」がイコールではないからです。

「薬に詳しい」と言っても、医師と薬剤師、職種によって必要とする知識の種類や程度が異なりますよね。当然のことなんですが、働き出して間もなかった私は、そのことに気づいてませんでした…。

薬に詳しい意味とは?

では何が違うのか、医師と薬剤師て比べてみましょう。

医師
薬剤師
  • 薬の有効性と安全性(臨床効果、患者背景等)
  • 薬の使い分け(エビデンス、ガイドライン)
  • 基本情報(適応、用法用量、副作用、禁忌、警告等)
  • 薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)
  • 薬力学(効果、副作用)
  • 製剤の知識(組成、性状、剤型、貯法、規制区分等)

あえて分けるとこんな感じ。異論はあるかも知れないですが、私はこんな印象です。

なぜ、異なるのでしょうか?

以下のようにアプローチの仕方が異なるからだと思います。

医師のアプローチ

STEP
患者さんの症状を見る
STEP
薬を選ぶ

薬剤師のアプローチ

STEP
処方(薬)を見る
STEP
患者さんに関わる

医師は患者さん(症状や病態)からスタート

臨床効果が得られる患者背景を重視しています。

年齢や性別、基礎疾患の有無など、どのような人に有効性が期待できるのかという点です。また、薬剤の選択や使い分けを行うために、ガイドラインやエビデンス等の知識も必要になります。

一方で薬剤師は処方箋から仕事が始まります

最初に目にするのは薬の名前です。

患者さんの症状ではありません。まずは薬の基本情報を確認します。薬効、投与方法、相互作用、副作用、禁忌などですね。また、投与量の計算や相互作用のチェック等を行うために薬物動態や薬力学の知識も欠かせません。さらに、薬の保管や管理等、製剤に関する知識も必要になります。

このように、医師と薬剤師では求める知識の幅や程度が異なるわけです。

もう少し具体的に

たとえば、SGLT2阻害薬のフォシーガ。このワードに紐付けされる薬の知識を両者で比較してみましょう。

医師
薬剤師
  • 国内第3相臨床試験(対象…2型糖尿病・1型糖尿病患者、プラセボと比較、HbA1c低下)
  • DECLARE試験(対象…2型糖尿病患者、プラセボ比較、心不全による入院または心血管死のリスクを低下)
  • DAPA-HF試験(対象…慢性心不全患者、プラセボ比較、心不全悪化と心血管死の抑制)
  • 臨床の位置付け(各種ガイドライン)
  • 分類…SGLT2阻害薬
  • 作用機序…尿細管で糖の再吸収を阻害
  • 適応…2型糖尿病薬(1型もOK)、慢性心不全にも適応追加
  • 用法用量…1回5~10mg1日1回
  • 重度腎機能障害の人は注意
  • 半減期8~12時間
  • 食事の影響なし
  • 尿路感染症、脱水、ケトアシドーシスに注意
  • 手術前休薬

あえて、切り分けました。もちろん、重なる点は沢山あります。薬剤師も臨床試験の結果やガイドラインでの位置付けはある程度知っているし、医師も処方を行う上で最低限の薬物動態等の知識は必要になるからです。

でも、視点が違うのはたしかですよね。

ザックリと、医師は治療、薬剤師は適正使用に必要な知識を求める傾向があると思います。

以前、メーカーの説明会で、薬剤師と医師が全然違う質問をしていたのをふと、思い出しました。

・臨床試験で効果が得られたのは服用後何日後なのか?
・(投与量に幅がある場合)平均してどのくらいの量なのか?

…など。医師は治療を行う上での情報ばかり聞いていたような…。一方で、薬剤師である私は、副作用や適正使用に関する内容を質問したのを覚えてます。

もちろんこれでいいんだと思います。もし、薬剤師と医師が同じ視点だと大変です。ダブルチェックが働かなくなり、安全性において問題が生じかねません。危ないですよね。

薬に詳しい医師になるための努力が別途必要!

以上から、薬剤師が医師になっても、すぐに「薬に詳しい医師」になれるわけではありません。

F1マシーンのメカニック担当がF1ドライバーになっても、すぐにレースで活躍できないのと同じですね。

「薬に詳しい医師」になるためには、視点を変えて、薬の使い方や臨床の位置付け等をあらためて勉強しなければならないのです。

理由②薬剤師免許を使わない→価値が失われる

続いて二つめの理由。

医師になったら、なぜ薬剤師免許が活用できないのか?

薬剤師免許は臨床で使ってこそ、磨かれていくからです。

薬剤師として業務をこなさないなら、価値はどんどん失われて行きます。

経験を積まなければ薬剤師免許なんてないも同然!

薬剤師なら共感できると思います。

薬の勉強をいくら頑張っても、いつまで経ってもゴールに辿り着けません。わかることが増えた分、わからないことも増えていきます。一つ壁を越えたらまた次の壁が現れるといった感じですよね。

結局、薬剤師免許を取ってからがスタート!

そこから、薬剤師のスキルを高めていくわけです。

ハッキリ言って、薬剤師経験年数がわずかなのに、ダブルライセンスなんて名乗れないと思います。経験を積まなければ薬剤師免許なんてないも同然だからです。

長年薬剤師をやってる人ならわかりますよね。一生かけても足りないくらい、薬剤師の仕事は奥が深いです。もちろん、医師にも言えることだと思いますが…。

二兎追うものは一兎も得ず

これは自論ですが

医師になった時点で、潔く薬剤師免許はなかったもの同然として、医師の道を進むべきだと思います。

じゃないと、結局どちらも得ることができないからです。ダブルライセンスは聞こえが良いですが、中途半端に終わる可能性も十分にあります

二兎追うものは一兎も得ずです。片方を捨てる覚悟で望まないと、やり手の医師になるのは難しいと思います

じゃあ、薬剤師免許はまったく役に立たないのか?

そんなことはないです。医師になったら薬剤師免許はそれほど役に立たないけど、無駄というわけでもありません。薬学的な視点は適切な処方を行う上で欠かせないからです。

たとえば、薬物動態の知識により、腎機能に応じた投与設計をしっかりとやって処方を行なったり、代謝酵素に注目し、併用禁忌や注意薬をすべて回避の上、処方したりなど。本来は後から薬剤師がやってるのを処方の前から行うことができます。

「疑義照会が不要になる!」

薬剤師免許を持った医師ならある程度可能ですよね。

でも、今となってはその利点もインパクトに欠けます。

続いて3つ目の理由を見ましょう。

理由③ダブルライセンスよりもシングルライセンス×2

今となっては「薬剤師×医師」の必要性は高くありません。

医師と薬剤師が協働で、患者さんの薬物治療を進める時代になりつつあるからです。

一人で二役は不要!

医師との協働が当たり前になっているからです。以下のように、薬剤師が積極的に処方に介入していく形をとっている病院がほとんどだと思います。

  • 持参薬のチェック→服薬計画の提案
  • 服薬アドヒアランス評価→剤型の選択、投与方法の提案
  • 検査値の確認→効果や副作用のモニター、投与量の調節を提案
  • CKD、HD→腎機能に応じた投与設計
  • MRSA薬、抗MRSA薬、抗てんかん薬等→TDM
  • 手術前の休薬チェック→中止再開の指示確認

協働関係のメリットはそれぞれが専門性を活かせる点です。

医師
薬剤師
  • 診断(検査)
  • 治療(手術)
  • 処方の適正化
  • 処方提案
  • 投与設計等

一人で二役をこなすよりも、二人で役割分担を行う方が、それぞれの専門性を発揮できます。特に医師は、自分にしかできない検査や手術等に集中できるのが大きな利点ですね。

医師と薬剤師のコラボが最強!

医学や薬学は日々進歩しています。

最新の治療、画期的な治療薬がどんどん出てくる中で、一人で、全てを担っていくことは不可能です。両方の知識を兼ね備えるなんて現実的ではありません。結局どちらも中途半端となるのがオチですよね。

ダブルライセンスは聞こえは良いですが、効率が悪くパフォーマンスもよくありません

効果は半減の図式ですね。

薬剤師免許0.5×医師免許0.5

一方で、シングルライセンス同士の方が優れていると思います。やり手の医師と薬剤師、2人が手を組むスタイルですね。

2.25倍のインパクト!

医師免許1.5×薬剤師免許1.5

さらに、それぞれが専門性を磨けば、磨くほど3倍、4倍へと力は増していきます。スムーズに仕事が進み、良い成果が得られること間違いありません。これこそ、本来の医薬分業の姿だと思います。

まとめ

今回は、「薬剤師が医師になったら、薬剤師免許はどう活かせるのか?」について考察しました。

結論…それほど活かせません。

理由は下記3点でした!

薬剤師免許が活かせない理由
  • 「薬剤師が医師になる」≠「薬に詳しい医師」
    求める薬の知識は別物(ほぼ一から勉強^^;)
  • 「薬剤師免許を使わない」→「価値が失われる」
    →経験を積まなければ免許なんてないも同然(残念ながら>_<)
  • 「ダブルライセンス」<「シングルライセンス」×2
    →医師と薬剤師のコラボが最強!(仲間の薬剤師免許を求めよう)

薬剤師になったけど、医師を目指したい方は、「薬剤師免許に固執せずに、医師の道を!」というのが結論ですかね。

どうしても、ダブルライセンスを活かしたい人は、開業後に院内処方で自分で調剤を行うのであれば、一人で二役は務まると思います。

それよりも、やり手の医師を目指して、仲間である薬剤師とコラボの方が良いのではないでしょうか♪

目次