フェインジェクト静注の特徴は?【フェジンと比較しながら解説】

当ページのリンクには広告が含まれています

今回のテーマはフェインジェクト静注!

一般名はカルボキシマルトース第二鉄、鉄欠乏性貧血の治療薬です。2019年3月に承認されたものの、度重なる薬価収載の見送りを経て、ようやく2020年9月に発売されました。

待ちに待ったフェインジェクト!

どのような特徴があるのか?

同効薬フェジンと比較しながら解説します。

目次

フェインジェクトとフェジンの比較表

フェインジェクトフェジン
一般名カルボキシマルトース第二鉄含糖酸化鉄
規格500mg/10mL40mg/2mL
適応鉄欠乏性貧血鉄欠乏性貧血
用法用量1回500mgを週1回1日40〜120mg
手技静注又は点滴静注静脈内注射
最大投与量1500mg
血中Hb値と体重で算出
血中Hb値と体重で算出

押さえておきたいポイントは全部で7つです。

  1. 適応
  2. 投与方法
  3. 投与量設計
  4. 投与手技
  5. 位置付け
  6. 使い分け
  7. 注意すべき副作用

順番に見ていきましょう。

フェインジェクトとフェジンの適応

1つ目のポイント!

どちらも鉄(Fe)欠乏性貧血注射薬です

フェインジェクトとフェジンの共通点ですね。ご存知のとおり、Fe製剤は経口と注射の大きく2つに分かれます。

一般名商品名
経口薬クエン酸第一鉄ナトリウムフェロミア錠・顆粒
フマル酸第一鉄フェルムカプセル
乾燥硫酸鉄フェロ・グラデュメット錠
溶性ピロリン酸第二鉄インクレミンシロップ
クエン酸第二鉄水和物リオナ錠
2021年3月適応追加
注射薬含糖酸化鉄フェジン静注
カルボキシマルトース第二鉄フェインジェクト静注
デルイソマルトース第二鉄モノヴァー静注
2023年3月15日発売

経口剤は5種類あります

フェロミア、フェロ・グラデュメットがよく使われている印象ですね。剤形も複数あり、患者さんに適したものを選択できます。今後、高リン血症の治療薬であるリオナも仲間入りの予定です(→適応が追加されました)

一方で、注射のFe製剤は2種類だけ
3種類に増えました!

フェジン(含糖酸化鉄)とフェインジェクトのみです。過去にはフェリコン鉄静注液(シデフェロン)、ブルタール(コンドロイチン硫酸・鉄コロイド )が使用されていましたが、ショックや薬疹等により販売が中止となった経緯があります。フェジンだけが生き残っていたわけです。

フェインジェクトの登場により、注射製剤の選択肢が2つに増えました。今まで一択だったのが、二者択一になったわけですね。

2023年3月15日モノヴァーの登場により、選択肢が3つに増えました。

ちなみに、有効性はどちらが優れているのか?

臨床試験を確認しておきます。効果は同等です。フェインジェクトは国内第3相試験でフェジンと比べて非劣性が示されています。

国内第3相試験
  • 患者…過多月経を伴う日本人鉄欠乏性貧血患者238例(18歳以上50歳未満で体重35kg以上)
  • 介入…フェインジェクト500mg週1回投与×2~3
  • 比較…フェジン80~120mg×週に2~3回投与
  • ※いずれも投与前に選択した総投与鉄量1000mg又は1500mgに達するまで
  • 結果…主要評価項目、ベースラインから12週時までのヘモグロビン最大変化量は下記のとおり
群間差0.15g/dL[-0.35, 0.04]で非劣性でした
ヘモグロビン最大変化量
フェインジェクト群
3.90g/dL
フェジン群
4.05g/dL

そもそも非劣性を検証するための試験であるし、どちらも成分は違っても鉄を補給する点は一緒なので、同じだけの鉄量を投与すれば、同等の効果が得られるというわけです。

では、フェインジェクトはフェジンと何が違うのか、ここから見ていきましょう。

フェインジェクトとフェジンの投与方法

続いて2つ目のポイント

フェインジェクト週1回製剤です!

ここが1番の違い!フェジンに比べての強みになります。投与方法を比較すると下記です。

フェインジェクト
フェジン
  • 週1回投与
  • 1~3回/コース
  • 1日1回投与(※週に2~3回も可)
  • 必要鉄量を投与できるまで

どうして週1回投与が可能なのか?

理由はフェインジェクトが下図のようにカルボキシマルトースによる複合体を形成しており、血中に安定的に存在できる構造だからです。

フェインジェクト インタビューフォームより

効果が7日続く!

半減期は42.2〜89.1時間と長く、下記のように投与後7日目にベースラインまで血清鉄濃度が下がるというプロファイルを示します。

フェインジェクト インタビューフォーム

フェインジェクトは週1投与により

投与回数の減少投与期間の短縮が可能です

たとえば、1000mgの鉄を投与する場合を考えてみると

投与回数と投与終了日を下記の通りです。
フェジンは毎日投与する場合)

投与回数
フェインジェクト500mg/週
2回
フェジン40mg/日
25回
フェジン80mg/日
13回
フェジン120mg/日
9回
投与終了日
フェインジェクト500mg/週
8日目
フェジン40mg/日
25日目
フェジン80mg/日
13日目
フェジン120mg/日
9日目

フェジンの1回投与量によりますが、フェインジェクトは投与期間の短縮、投与回数の大幅な減少が見込めます。結果、外来診療では通院回数を減らせるし、入院診療でも入院期間の短縮が可能です。もちろん痛みを伴う注射回数が減るのも患者さんにとってメリットだといえます。

フェインジェクトは週1回製剤です。利便性が良く患者さんの負担を軽減できるのが最大の魅力ですね。

フェインジェクトとフェジンの投与量設計

続いて3つ目のポイント

フェインジェクトは投与設計わかりやすい

フェジンと比較すると下記です。

フェインジェクト
フェジン
  • 体重、Hb値から選択する
  • 4パターン
  • 体重、Hb値を計算式に当てはめる
  • 患者さんごとに異なる

フェインジェクトは簡単に投与量を決定できます

下表をもとにHb値と体重から500・1000・1500mgのいずれかを選べばいいだけです。超簡単ですね。

フェインジェクト 添付文書より

一方で、フェジンはやや複雑です

以下の計算式に数値を当てはめて総投与量を求めます。そこから、1回投与量を決めて、投与回数を算出する流れです。ややこしい…。実際、こういう方法で投与設計を行う先生は少ないかも知れないですが…。

総投与鉄量(mg)=[2.72(16ーX)+17]W
 X:Hb値(g/dL) W:体重(kg)

しかも、計算を誤る危険もあります。過量投与や過小投与を招く可能性があるわけです。

その点、フェインジェクトは複雑な計算は必要ありません。体重とHb値をもとに4パターンから選択するだけです。投与設計がシンプルでわかりやすいのが長所ですね

フェインジェクトとフェジンの注射手技

続いて4つ目のポイント

フェインジェクトは点滴静注可能です!

両薬剤は投与方法に違いがあります。

フェインジェクト
フェジン
  • 静注又は点滴静注
  • 生食で希釈
  • 1バイアルあたり生食100mL
  • 5分以上かけて(静注)、6分以上かけて(点滴静注)
  • 静注のみ
  • ブドウ糖で希釈
  • 1アンプルあたり10〜20%ブドウ糖注射液で5〜10倍希釈
  • 2分以上かけて

フェインジェクトの利点は2つです。

  1. 点滴静注できる
  2. 糖尿病患者さんにも使いやすい

①フェインジェクトは点滴静注ができる!

看護師さんには好評だと思います。1バイアル10mLを5分以上かけてゆっくり静注するのは大変だし、誤って急速静注を行うリスクもあるからです。 生食100mLに溶解後、6分以上かけて点滴静注できるのは現場にはうれしいポイントですね。

②糖尿病の患者さんにはフェインジェクトが使いやすい

生理食塩液で希釈が可能だからですね。フェジンは希釈液がブドウ糖であるため、血糖値への影響が懸念されます。

しかも、ブドウ糖濃度は10〜20%と高めなので、1A(2mL)あたり最大4g(20%で10倍希釈)のブドウ糖を投与せざるをえません。耐糖能異常がある人にはフェインジェクトの方が向いています。

フェインジェクトは点滴静注の選択と、生食での希釈が可能です。現場における使い勝手は良さそうですね。

参考までに

フェジンは点滴静注できないのはなぜ?

希釈量が増えたり、投与時間が長くなるとコロイドが不安定となり遊離鉄イオンが大量に生じるためです。投与により、発熱、悪心、嘔吐の原因になる可能性もあります。

フェジン静注を安全にご使用いただくために

フェインジェクトとフェジンの位置付け

続いて5つめのポイント

どちらも経口鉄剤が投与できない場合の代替薬です!

これはフェインジェクトとフェジンの共通点ですね。

鉄欠乏性貧血の治療は原則、経口剤を用います

直接血管内へ投与するのは過量投与のリスクがあるし、患者さんへの侵襲を考えても、簡便に安全に投与できる経口剤が第一選択だからです。

一方で、経口投与が困難な場合は注射製剤が適応です

注射用鉄剤を使用する場面は以下のとおりです。

  1. 鉄剤が飲めない(吐き気、嘔吐等)
  2. 鉄剤の経口投与で間に合わない(ひどい出血など)
  3. 鉄剤を内服できない(炎症性腸疾患など)
  4. 鉄の吸収不良(胃、小腸切除等)
  5. 透析や自己血輸血時の鉄補給

参考)鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂第3版

まずは経口鉄剤を投与できるか、難しい場合に注射製剤を選択する!この基本の考え方は押さえておきましょう

フェインジェクトとフェジンの使い分け

続いて6つ目のポイント

フェインジェクトフェジンの使い分けは?

気になりますよね。以下、考察しました。

フェインジェクトを選択する場面

大きく2つです。

  1. 大幅な鉄補正が必要な場合
  2. 手術前早期の補正が必要な場合

①大幅な鉄補正が必要な場合

フェインジェクトは血中Hb濃度の大きな補正が必要な場合に向いています。 1回投与量が500mgと多く、最大3回の投与で治療が完了できるからです。先述のとおりですね。

厚生労働省の留意事項通知によると

フェインジェクトの対象は血中Hb値8.0g/dL未満の患者さんです

現状はこの基準をもとに薬剤を選択するかたちになります。8.0g/dL以上で使用するときには、診療報酬明細書に必要理由を書かなければならない点も覚えておきましょう。

本製剤(フェインジェクト)は、原則として血中Hb値が8.0g/dL未満の患者に投与することとし、血中Hb値が8.0g/dL以上の場合は、手術前等早期に高用量の鉄補充が必要であって、含糖酸化鉄による治療で対応できない患者にのみ投与すること。

なお、本製剤投与前の血中Hb値及び血中Hb値が8.0g/dL以上の場合は本製剤の投与が必要と判断した理由を診療報酬明細書に記載すること

フェインジェクト静注500mg インタビューフォーム

②手術前早期の補正が必要な場合

手術前の早期補正ではフェインジェクトが向いています

出来るだけ短期間で治療が完了し、手術に臨む必要があるからです。上記留意事項にあるとおりですね。

まさに、高用量、週1製剤の利点が生かされる場面だといえます。

フェジンを選択する場面

一方で、フェジンを選ぶケースは大きく4つあります。

  1. 低体重の方
  2. 血中Hb値8.0g/dL以上
  3. コストを抑えた場合
  4. 透析患者

①低体重の方

フェインジェクトは低体重の人には向いていません。

1回投与量が500mgと多く、過量投与のリスクがあるからですね。体重25kg未満の人には用量設定がなく投与を避けるのが無難です。インタビューフォームにも下記の記載があります。

体重が25kg未満の患者に、本剤1バイアル(鉄として500mg)を投与すると鉄過剰となる可能性がある

フェインジェクト静注 IF

効果を見ながら細かく用量設定できるフェジンの方が使い勝手が良いですね。

②血中Hb値8.0g/dL以上

上記の留意事項通知にあるように、血中Hb値8.0g/dL以上の方は原則フェジンを選択することとなっています。必要鉄量によって製剤を使い分けるかたちでしたね。

③コストを抑えた場合

コストを重視するならフェジンですね

以下のように、フェインジェクトは高薬価だからです。

フェインジェクトとフェジン:薬価の比較
  • フェインジェクト500mg…¥5,850
  • フェジン40mg…¥127

※2023年4月時点の薬価です

鉄1mgあたりの費用を換算すると

約4倍も割高です。医療費、患者負担を考えるとフェジンが望ましいといえます。

鉄1mgあたりの費用
フェインジェクト
¥11.7
フェジン
¥3.2

④透析患者

フェジンが向いています

定期的に透析回路から投与できるからです。透析患者さんではフェインジェクトによる通院回数や注射回数減少の恩恵はそれほど大きくありません。コストもかかりますからね。

もちろん、高用量を投与する場合にはフェインジェクトが良いですが…。

ちなみに、ガイドラインでは

透析患者さんにはフェジンによる鉄補正が推奨されています。

以下のように、具体的な投与方法も書いているんですね。

静注鉄剤として含糖酸化鉄を保存期CKD、PD患者には通院時に40~80mgを、HD患者には40mgを週1回もしくは2週に1回、透析終了時にゆっくりと透析回路返血側から投与する 

2015年版 日本透析医学会 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン

フェインジェクトとフェジンの注意すべき副作用

最後に7つ目のポイント

フェインジェクトの投与時注意すべき点は?

大きく2つあります。当然、フェジンにもいえることです。

  1. 過敏症状
  2. 低リン血症

順番に見ていきましょう。

過敏症状

特に初回投与時!

フェインジェクトは過敏症状に気をつけなければなりません。

臨床試験における過敏症状(有害事象)の頻度は以下のとおりです。

  • Z213-02試験…4.2%(5/119)
    ※内訳…蕁麻疹、発疹、湿疹、接触皮膚炎、日光皮膚炎各1例
  • Z213-03試験…10.3%(4/39)
    ※内訳…蕁麻疹3 例、薬疹及び発疹各1例※重複あり

国内第3相臨床試験

そこそこ頻度が高い印象を受けます。アナフィラキシー反応は国内の臨床試験では認められていませんが、海外では認められている点は留意しておきたいところです。投与中、投与後のモニタリングが欠かせないですね。

海外の最新の定期的安全性最新報告(調査期間:2017年1月2日~2018年 1月1日)における過敏症に関連する有害事象は989 例であった。報告頻度が多い事象は、「蕁麻疹」「そう痒症」「発疹」等であった。アナフィラキシー反応の有害事象は33例であった。

フェインジェクト審議結果報告書

低リン血症

知ってましたか?

フェインジェクトの投与により血清リン値が下がり、骨軟化症を引き起こす可能性があります。FGF23の活性化により、尿細管でリンの再吸収が抑制されるためです。

類似薬フェジンでは以下のように注意喚起がされています。

長期投与により,骨痛,関節痛等を伴う骨軟化症があらわれることがあるので,観察を十分に行い,症状があらわれた場合には投与を中止すること。

フェジン添付文書

ちなみに、国内第3相臨床試験における低リン血症の頻度は以下のとおりです。

  • フェインジェクト…18.5%(22/119)
  • フェジン…20.2%(24/119)

国内第3相臨床試験:血中リン減少

約2割に認められ、臨床試験では両群ともに7割以上の患者が無処置で基準値に回復(投与第12週の時点)しているため、臨床的に問題となる低リン血症が持続することは懸念は低いとされています。

しかし、繰り返し投与を行う場合や長期投与例では、低リン血症に伴う骨軟化症のリスクを注意が必要です。血清リン値の測定や骨痛、筋力低下等、自覚症状のモニタリングを忘れないようにしたいですね。

まとめ

今回は鉄欠乏性貧血の注射剤、フェインジェクトの特徴についてフェジンと比較しながら解説しました。

フェインジェクトはかなり使えそうな印象です

週一回、最大3回の投与で治療が完了できるのは魅力ですよね。投与回数の減少、治療期間の短縮が最大のメリット!

じゃあ、フェジンにとって代わるのかというと、そんなことは全然ありません。

両薬剤はうまく棲み分けがされています

過量投与のリスクから低体重の人やHbがそこまで低くない人などには、フェインジェクトは不向きです。費用がかさむのも軽視できないですよね。

結局、フェジンとフェインジェクトどちらが良いのかは、患者さんごとに検討することが大切だと思いました。あと、注射製剤は経口剤が使えないときの代替薬である点も肝に命じておきたいですね♪

目次