ゾフルーザの処方はメチャクチャ多い。
問題視されながらも、特定の医師は好んで処方する。
「耐性ウイルスがーー!」と心で叫びながらも調剤するしかないのが現状です。
今回のテーマは「ゾフルーザ」
選ばれる理由、問題点に触れながら、臨床における位置付けについて考察します。
なぜ、ゾフルーザが使われるのか?
ゾフルーザの売り上げは263億円!!
塩野義製薬によると、平成30年度の国内売上高が予想(130億円)の約2倍を記録したとのこと。
抗インフルエンザ薬の中でトップシェアを誇るゾフルーザ。
どうして、ここまで使用されるのか?
投与方法が簡便だから
1回服用するだけで治療が完結する
患者さんにとって、とにかく利便性が良い。
単回使用、経口投与である点、ここがゾフルーザの最大のメリット!
他の抗インフルエンザと比べてみましょう。
抗インフルエンザ薬との比較
- タミフル(オセルタミビル)…経口(1日2回、5日間)
- リレンザ(ザナミビル)…吸入(1日2回、5日間)
- イナビル(ラニナミビル)…吸入(単回使用)
- ラピアクタ(ペラミビル)…点滴(単回使用)
- ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)…経口薬(単回使用)
タミフルとリレンザは、5日間使用する必要があります。
単回使用できるのは3種類(イナビル、ラピアクタ、ゾフルーザ)あるけど、経口投与できるのはゾフルーザのみです。
経口薬の方が、吸入よりも効果が確実
吸入は本人次第です。
- COPDや気管支喘息など肺機能が低下した人や5歳未満の小児では吸入力不足で十分に吸えません。
- 年齢に伴う認知機能の低下がある人では、手技の理解不足が問題となり、手順を守ってきちんと吸入することがむずかしいです。
一方、経口薬は、消化管機能に問題がなければ確実な効果が期待できます。
注射薬は患者さんへの侵襲が大きい
点滴は穿刺時に痛みを伴う。
小児では躊躇するケースが多いし、穿刺に伴う合併症として血管外漏出や神経損傷などのリスクもあります。
注射薬は重症例や、経口投与、吸入が難しいケースの代替という位置付けです。
ゾフルーザは単回使用で、経口投与できるのが他の抗インフルエンザ薬より優れた点です。手技の説明や点滴の準備が不要なので医療者にとっても利便性がいい!
新しい薬は良く効くというイメージ
新薬には期待が膨らみます。
やっぱり新しい薬の方がよく効くイメージがあって、新製品の家電みたいに、性能が優れてるという印象を持ちやすい。
メディアもこぞってゾフルーザについて取り上げた
報道の過熱感が凄かった。
テレビやニュースなどの番組でも取り上げ、ゾフルーザの知名度が急上昇し、新薬の抗インフルエンザ薬に期待も高まりました。
ゾフルーザの名前を聞かない日がないくらい、お祭り騒ぎだったように思います。
誤った解釈が生まれた可能性も
一部、事実が歪められた報道も。
・症状が改善する期間はタミフルと変わらないのに、ウイルスの排出期間が短縮することを大きく取り上げて、あたかもゾフルーザが既存の薬よりよく効くというイメージが作り上げられてしまった可能性があります。
一般の人は当然、医療者の中にも、有効性においてゾフルーザが他のインフルエンザ薬よりも優れていると誤解した人も少なからずいたように思う。
患者さん自らがゾフルーザを希望する!?
そのせいか、ゾフルーザの処方を希望する患者さんも。
患者さんの求めに応じて、処方されるケースも多かったみたいです。なかなか断れずに仕方なく処方する例もあったと聞いています。
ゾフルーザの名が瞬く間に広がり、社会全体として、新薬に対する期待が膨らみ処方拡大に繋がったと考えられます。メディアの力はすごいですね。
ゾフルーザの懸念事項は【耐性ウイルス】
特に小児では頻度が高い!?
臨床試験における耐性ウイルスの割合は以下のとおりです。
- 12歳未満の小児…23.3%(18/77)
- 成人及び12歳以上の小児…9.7%(36/370)
※12歳未満の小児を対象とした国内第III相臨床試験
※CAPSTONE-1試験
ゾフルーザ服用により成人で約1割、小児では2割以上に耐性ウイルスが出現することが問題視されています。
インフルエンザウイルスの型によって頻度が変わる?!
最近の耐性ウイルスの動向はどうなっているのでしょうか?
国立感染症研究所の抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス。
2019.10.4時点の状況は以下のとおりです。
A型(H3N2)
・ゾフルーザ…9.6%(34/356)
・タミフル…0%(0/332)
・ラピアクタ…0%(0/332)
・リレンザ…0%(0/332)
・イナビル…0%(0/332)
A型(H1N1)pdm09
・ゾフルーザ…1.8%(6/335)
・タミフル…1.0%(21/2175)
・ラピアクタ…1.0%(21/2175)
・リレンザ…0%(0/345)
・イナビル…0%(0/345)
B型
・ゾフルーザ…0%(0/42)
・タミフル…0%(0/161)
・ラピアクタ…0.6%(1/161)
・リレンザ…0%(0/161)
・イナビル…0%(0/161)
ゾフルーザは従来のノイラミニダーゼ阻害薬よりも頻度は高めで、特にH3N2型の場合はCAPSTONE-1臨床試験と同じくらいの確率です。
ちなみに、B型においてゾフルーザ耐性ウイルスは検出されていません。
耐性ウイルスが伝播する!?
ゾフルーザを飲んでいない人からも検出され、ゾフルーザ投与例から伝播の可能性が示唆されています。
上記のH3N2株の34名中、5例は薬剤未投与例です。
H1N1株は全て薬剤投与例。
発売当時、危惧されてたことが現実となりました。このままの状態が続けば、近い将来ゾフルーザが効かない耐性ウイルスが蔓延する可能性も十分に考えられます。
ウイルスの排出期間が延長する(有症状期間も)
12歳以上の成人を対象とした臨床試験
ゾフルーザ服用中にPA/I38アミノ酸変異ウイルスが検出された患者さんの割合は9.7%。
以下のように、ウイルス排出期間も延長することがわかっています。
ウイルスを検出した割合(5日目)
・ゾフルーザ群(変異なし)…7%
・ゾフルーザ群(変異あり)…91%
・プラセボ群…31%
ウイルスの検出率(9日目)
・ゾフルーザ群(変異なし)…2%
・ゾフルーザ群(変異あり)…17%
・プラセボ群…6%
同様に、インフルエンザ罹病期間も延長します。
・ゾフルーザ群(変異なし)…49.6時間
・ゾフルーザ群(変異あり)…63.1時間
・プラセボ群…80.2時間
参考文献)N Engl J Med 2018; 379:913-923
罹病期間の中央値が約1.27倍に延長している!
12歳未満の小児を対象とした国内第3相臨床試験
ゾフルーザ服用中にPA/I38アミノ酸変異ウイルスが検出された患者さんの割合は23.3%。
成人と同様にインフルエンザ罹病期間が延長することが示されています。
・ゾフルーザ群(変異なし)…43.0時間
・ゾフルーザ群(変異あり)…79.6時間
なんと、1.85倍に延長している!
参考文献)PMDA、ゾフルーザ錠審査報告書
罹病期間を延長する!ゾフルーザで危惧される耐性ウイルスの問題。今後の動向に注意が必要ですね。
ゾフルーザは使うべきなのか?
経口投与で単回使用のメリットは大きいけど、ゾフルーザじゃないとダメなのか?
CAPSTONE-1:国内第3相臨床試験の結果
有効性はプラセボに比べて優れている
- 対象者:インフルエンザ感染症例、12 歳以上 65 歳未満の患者(重症例、ハイリスク因子を有する患者をのぞく)
- 主要評価項目:インフルエンザ罹病期間(ゾフルーザ vs プラセボ)
- 結果:ゾフルーザ群で53.7時間、プラセボ群で80.2時間 (p<0.0001)
ゾフルーザはプラセボに比べて罹病期間を約1日程度(26.5時間)短縮できる効果が示されています。
でも、タミフルと効果は同じくらい
タミフルとの比較は、以下のとおりです。
- 対象者:インフルエンザ感染症例、20歳以上 65 歳未満の患者(重症例、ハイリスク因子を有する患者をのぞく)
(※試験当時はタミフルは10代の未成年は禁忌だったため) - 主要評価項目:インフルエンザ罹病期間(ゾフルーザ vs タミフル)
- 結果:ゾフルーザ群で53.5時間、プラセボ群で53.7時間 (p=0.7560)
ゾフルーザはタミフルとほぼ同じ効果。ゾフルーザの方が優れているわけではありません。
変わるのはウイルス排出期間
ゾフルーザの方が優れている点はココ。
- 20歳以上65歳未満患者におけるウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間。
結果は以下のとおりです。
・ゾフルーザ群で24.0時間、プラセボ群で72.0時間 (p<0.0001)
でも、感染の伝播をどのくらい減らせるかまでよくわかっていませんし、上述のとおり耐性ウイルスが出現すると、期間は延長することが指摘されています。
CAPSTONE-2 ハイリスク患者を対象とした試験
簡単に結果をまとめると以下のとおり。
- 対象者:喘息及び呼吸器疾患、内分泌疾患、心疾患、代謝異常、病的な肥満等の基礎疾患をもつ患者や65歳以上の高齢者などの重症化および合併症を起こしやすい患者
- 主要評価項目:インフルエンザ罹病期間(ゾフルーザ vs タミフル vs プラセボ
- 結果:ゾフルーザ群73.2時間、タミフル群81.0時間、プラセボ102.3時間
→ゾフルーザはプラセボに比べて優越性、タミフルに比べて非劣性でした。
※B型ウイルスに対しては、プラセボ、タミフル群に比べて優越性という結果でした。
- 結果:ゾフルーザ群74.6時間 vs タミフル群101.6時間(P =0.0251)vs プラセボ100.6時間(P =0.0138)
参考文献)Phase 3 Trial of Baloxavir Marboxil in High Risk Influenza Patients (CAPSTONE-2 Study)
ハイリスク患者を対象とした試験でも、プラセボに優越性、タミフルに非劣性で、CAPSTONE-1と同様です。B型にはタミフルより優れているという結果でした。
関連学会の対応
日本小児科学会
ゾフルーザは推奨されていません。
理由は大きく2つ。
- 使用経験が少ないこと(12歳未満では体重10kg以上の小児107人を対象とした、対照群なしの臨床試験のみ)
- 耐性ウイルスの問題(前述のとおり)
〜(省略)〜同薬の使用経験に関する報告が少ない事や薬剤耐性ウイルスの出現が認められることから、当委員会では12 歳未満の小児に対する同薬の積極的な投与を推奨しない。一方で現時点においては同薬に対する使用制限は設けないが、使用に当たっては耐性ウイルスの出現や伝播について注意深く観察する必要があると考える。 なお、免疫不全患者では耐性ウイルスの排泄が遷延する可能性があり同薬を単剤で使用すべきではないと考える。また重症例・肺炎例については他剤との併用療法も考慮されるが、当委員会では十分なデータを持たず、現時点では検討中である
日本小児科学会、2019/2020 シーズンのインフルエンザ治療指針
治療は、ノイラミニダーゼ阻害薬で、経口のタミフル、吸入が可能であればイナビルやリレンザ、経口投与や吸入が不可ならラピアクタという感じ。ゾフルーザは推奨されていません。
日本感染症学会
日本感染症学会の提言は以下のとおりです。
(1)12-19歳および成人:臨床データが乏しい中で、現時点では、推奨/非推奨は決められない。
(2)12歳未満の小児:低感受性株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する。
(3)免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない。
12歳未満の小児には慎重投与、つまり基本的に使わない方が良いということですね。成人の位置付けは現時点でははっきりとしていません。
ゾフルーザはコストが高い
かなり高薬価です。
2019/10月時点の薬価です。
- タミフルカプセル(オセルタミビル)…2678.0円/コース(1297.0円ジェネリック)
- リレンザ(ザナミビル)…2890.0円/コース
- イナビル吸入粉末剤…20mgで2179.5円(40mgで4359.0円)
- ラピアクタ(ペラミビル)…6331.0円/袋
- ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)…4877.6円/40mg(通常量)、9755.2円/80mg(高用量)
通常量であれば、ゾフルーザはタミフルの約1.8倍、ジェネリックのオセルタミビルでは 3.8倍の高薬価です。80kg以上では、さらに倍になります。
昨今の医療費増大を考えると、効果が同じなら、コストが低い薬剤を選択したいところですね。
抗インフルエンザ薬の投与は必須ではない
基本的に季節性インフルエンザは自然に症状が改善します。
抗インフルエンザ薬を発症48時間以降に服用した時の有効性は検証されていないし、48時間以内であっても、投与は必須ではなく、個々のケースで基礎疾患やハイリスク因子を考慮して治療の必要性を検討するのが基本です。
・インフルエンザにかかったからといって、必ず薬物治療が必要になるわけではありません。
薬を使わないという選択肢も用意されています。
絶対ゾフルーザという状況ではない?!
というわけで、
現時点でゾフルーザじゃないといけないという症例は見つかりません。
ノイラミニダーゼ阻害薬がアレルギーや副作用などで使えない、または無効時の代替薬という位置付けでしょうか?
今後は耐性ウイルスの動向や新しいエビデンスに注目しながら、ゾフルーザの使いどころを見極めていく必要があります。
まとめ:ゾフルーザは今後どうなっていくのか?
最後にまとめておきますね。
ポイントは以下のとおりです。
- 最大のメリットは、経口投与で単回使用であること
- 新薬に対する期待、メディアの報道も相まって、使用量が急増し抗インフルエンザ薬の中でトップシェアを誇る(2018/4〜2019/3)
- インフルエンザ罹病期間の短縮は、プラセボよりも優越性(−26.5時間)、タミフルと非劣性(CAPSTONE-1)
- 一方で、PA/I38アミノ酸変異ウイルスの出現が問題視されている(小児9.7%、成人23.3%、国内臨床試験の結果)
- ウイルスの排出期間を短縮するため、感染拡大を防ぐ可能性があるものの、耐性ウイルスの出現により、ウイルス排出期間、有症状期間も延長する。(CAPSTONE-1)
- 日本小児科学会はゾフルーザの積極的な投与を推奨していない(感染症学会…小児は慎重投与、成人は推奨/非推奨が決められないとしている)
- 耐性ウイルスの懸念、高コスト、適切な代替薬があることから、現時点でゾフルーザを選択すべき例はほとんどないと考えられる。(今後の動向に注目です)
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今回は「ゾフルーザの今後の位置付け」について考察しました。
ゾフルーザは良い薬なので、耐性ウイルスが蔓延して使えない薬にならないように適正使用を心がけたいですね♪
最後まで読んでいただきありがとうございます。