コレステロールの薬が処方されている人、本当に多いですね。スタチンだけでなく作用機序が新しい薬もよく見かけます。
どうして飲んでいるのか?
答えは簡単。コレステロールを下げるためですね。
・でも、本当にそうなのか、それだけなのか?
というのが、今回のテーマです。
・抗コレステロール薬の処方目的とは?薬剤師が押さえておきたいポイントを解説します。
LDLコレステロールの基本を確認!
はじめに、抗コレステロール薬のターゲットである、LDLコレステロール(以下、LDL-C)について基本事項を確認しておきます。
わかっている人は、飛ばしてくださいね。
LDL-Cとは?
低比重リポタンパク(Low density lipoprotein:LDL)の略
脂質とタンパク質の複合体のことです。
コレステロールやトリグリセリドなどの脂質成分は、周りを水に溶けやすいタンパク質に包まれて、球状の形で血液に溶け込んでいる。そのなかに含まれるコレステロールをLDL-Cといいます。
・LDLコレステロールの基準値は、70〜139mg/dL。→140mg/dLを超えると高LDLコレステロール血症と診断されます。
LDLコレステロールが増えると?
動脈硬化の原因になります。
「悪玉コレステロール」と呼ばれるLDL-Cは、動脈組織に蓄積して、プラークを形成、動脈硬化を進展させるからです。
プラークとは、コレステロールやトリグリセリドなどの脂質やそれを取り込んだマクロファージの死骸、増殖した血管平滑筋細胞などから形成される異常な血管組織のことをいいます。
LDL-Cは本来、恒常性を維持するために大切なものです。細胞膜の成分やステロイドホルモンや性ホルモン、胆汁酸などの材料として使われるからですね。
・しかし、LDL-Cが過剰になると恒常性が破綻し、動脈硬化によって様々な疾患を引き起こします。
一方、HDL-Cとは?
高比重リポタンパク(High density lipoprotein:HDL)のこと。
いわゆる善玉コレステロールですね。
動脈内に蓄積したコレステロールを取り除いて肝臓に運んでくれるため、動脈硬化の予防に欠かせないリポタンパク質です。
・高LDLコレステロール血症→動脈内にプラークを形成→動脈硬化を進展。さまざまな疾患のリスクとなることを押さえておきましょう。
抗コレステロール薬の処方目的は?
コレステロールを下げると大きく2つのメリットがあります。
- 冠動脈疾患の発症リスクを低下させる
- 脳梗塞の発症リスクを低下させる
順番に見ていきましょう。
冠動脈疾患発症リスクを低下させる…その①
LDL-C上昇は狭心症や心筋梗塞の発症リスクを増加させる!
LDL-C上昇は冠動脈疾患発症のリスクを増加させることが指摘されています。文献を紹介しますね。
CIRCS研究。(Circulatory Risk in Communities Study)
脳卒中や冠動脈疾患の既往がない日本人の男女8131人(40〜69歳)を対象にLDL-C値と冠動脈疾患の発症リスクについて関連を調査したものです。
結果は以下のように。
→LDL-C値が上昇するほど、総冠動脈疾患および心筋梗塞発症のリスクが増加、正の相関が認められることがわかりました。
さらに驚くべきことに、LDL-C値が140mg/dLを超えると発症リスクが増大します。
・総冠動脈疾患で2.8倍
・心筋梗塞に限っては3.8倍
(※80mg/dL未満のリスクを1とした場合)
LDL-C値の増加は冠動脈疾患の発症リスク因子といえます。
脳梗塞の発症リスクを低下させる…その②
LDL-C上昇は脳梗塞の発症リスクを増加させる!
LDL-Cの上昇は冠動脈疾患の発症リスクを増加させるだけ!?かというとそうではありません。脳梗塞の発症リスクとの関連も指摘されています。
脳梗塞について簡単に確認です。以下のように3つに分類できます。
- アテローム血栓性脳梗塞…頸動脈や脳の血管の太い部分が詰まる(欧米人に多い)
- ラクナ梗塞…脳血管の細い部分が詰まる(日本人に多い)
- 心原性脳梗塞…心臓でできた血栓が血流を介して脳に運ばれて脳血管を塞ぐ
同様にLDL-Cと脳梗塞発症リスクを見てみましょう。
久山町研究。
40歳以上の日本人2351人を対象にLDL-C値と脳梗塞発症の関連性を調査したものです。
結果は以下のように。
→LDL-C値の上昇によってアテローム血栓性脳梗塞の発症リスクが増加。151を超えると、最低値群に比べてリスクは2.8倍に増加することが示されました。
一方で、ラクナ梗塞はLDL-C値が上昇するにつれて、発症リスクに増加傾向が見らるものの、有意な関連性は認められず。(※心原性脳梗塞…LDL-C値増加と発症リスクに有意な関連性はなし)
LDL-C値の増加は、アテローム血栓性脳梗塞の発症リスク因子であることがわかります。
・アテローム性脳梗塞は、頸動脈や脳の太い血管にできたプラークによる動脈硬化が原因で、LDL-C増加と関連があります。(※ちなみにラクナ梗塞は高血圧、心原性脳梗塞は心房細動による不整脈が主な原因です。)
心血管イベントを下げるのが処方目的!
LDL-Cの上昇は以下のリスクを増加させます。
- 狭心症や心筋梗塞などの虚血性疾患の発症リスク↑
- 脳梗塞のうちアテローム血栓性脳梗塞の発症リスク↑
つまり、心血管イベントの発症リスクを増加させるわけです。
・となると、抗コレステロール薬を飲むことで得られる患者さんのメリット、処方目的は心血管イベントの予防であるといえます。
抗コレステロール薬、アドヒアランス向上につながる服薬指導のコツ
「コレステロールを下げる薬です」が鉄板フレーズ!
服薬指導の際に抗コレステロール薬の効果を、どのように説明すれば良いのか?
きっと、「コレステロールを下げるクスリ」が多いのではないかと思います。薬剤師だけじゃなくて、医師や看護師さんも使ってますよね。いわゆる鉄板フレーズです。
じゃあ、薬を販売している製薬企業の説明はどうなってるのか?
くすりのしおりの内容を調べてみました。たとえば、アトルバスタチンのくすりのしおりの内容は以下のとおりです。
肝臓のコレステロール合成を阻害することにより、血液中のコレステロールを低下させます。通常、高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症の治療に用いられます。
こんな風に、くすりの作用機序と適応症がセットになってます。
同様に、他のスタチン製剤やPCSK9阻害薬、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬なども調べると、内容はほとんど一緒でした。
・文言に若干の違いがあっても、【作用機序+適応症】という基本構造はどの薬でも一貫しています。
「コレステロールを下げるクスリ」という説明の問題点
手段であって、目的ではない。
コレステロールを下げるのは、冠動脈疾患のリスクを下げるための手段です。目的ではないですよね。
「コレステロールを下げる薬」という薬効を中心とした説明内容はわかりやすく良い。でも、冠動脈疾患の発症リスクを下げるという処方目的が抜けています。
やはり、目的は伝えた方がいいんじゃないかって思うのです。
確かに、悪玉コレステロールが体に悪いということはよく知られるようになったので「コレステロールを下げるクスリ」が「冠動脈疾患の予防につながる」ということを知っている患者さんもいるでしょう。
しかし、まだまだ一部の人で、処方目的を知らないままにコレステロールの薬を飲んでいる人の方が圧倒的に多い印象があります。
・スタチンの心血管イベント予防効果は、患者さんが処方された薬を飲み忘れなく服用できていることが前提です。飲み忘れを繰り返していたら、心血管イベントの抑制効果も期待できません。
当然、アドヒアランスをよくするためには、服薬の必要性の理解が欠かせません。なぜ飲まなければならないのか、理由をわかってないとダメなのです。
となると、「コレステロールを下げるクスリ」という説明では服薬の必要性を伝えることは難しいと考えられます。
処方目的をプラスした説明を意識しよう!
では、どうすればいいのかというと、「心血管イベント予防」という処方目的を伝えることが大事!
心筋梗塞や脳梗塞にならないようきちんと薬を飲むという意識が芽生えるように処方目的を伝えることが大切です。
具体的には以下の説明内容になります。
「(この薬は)コレステロールを下げる薬です。(悪玉)コレステロールが高いと動脈硬化が進んで心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなるのでコレステロールを下げて予防しましょう。とても大切なくすりなので飲み忘れのないようにきちんと飲んでくださいね。」
例えばこのように、クスリの効果+処方目的(服薬の必要性)を組み合わせた内容にすると、「なぜ飲まなければならないのか」という服薬の必要性を患者さんに伝えることができると思います。
ただし、鉄板フレーズより時間がかかる
処方目的を加えた説明は、鉄板フレーズに比べて少し時間がかかる。
患者さんの理解度に合わせて、丁寧な説明になると長時間を要する場合もあります。とくに、多種類の薬を飲んでいる人。
コレステロール薬だけに時間をかけられないし、また長年にわたって服用している人に毎回、同じ説明を繰り返すのも気が引けますよね。
必要性が高いケースから優先的に行ってみる
例えば、以下のようなケースですね。
- 初回指導の時
- 心筋梗塞、脳梗塞などの既往があってイベント再発リスクが高い人
- 家族性高コレステロール血症の患者
- 服薬アドヒアランスの低い人など
・薬効だけでなく心血管イベントを予防するという処方目的を意識した説明は、服薬アドヒアランス向上につながります。
まとめ:コレステロール薬の処方目的を意識する
最後にまとめておきますね。
▽抗コレステロール薬の処方目的は
- 狭心症や心筋梗塞など冠動脈疾患を予防する
- 脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)を予防する
→心血管イベントの抑制が処方目的であり、患者さんが得られるメリット。
▽アドヒアランス向上につながる服薬指導のコツ
- コレステロールを下げるクスリという説明はわかりやすく汎用されている。
- しかし、処方目的が不在。手段を説明しているだけ。
- 心血管イベントを抑制するという目的、服薬の必要性を伝えることが大切
→服薬アドヒアランスの向上が期待できる
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今回は、抗コレステロール薬の処方目的をテーマに、薬剤師が押さえておきたいポイントを解説しました。
「コレステロールを下げるクスリ」という薬効中心の説明から処方目的を意識した説明を取り入れてみてはどうでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。