今回のテーマは低用量ピル。
- 低用量ピルってそもそも何?
- どんな名前の薬があるの?
- どうやって効くの?
- どのような種類があってどう使い分けるの?
押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。
低用量ピルの特徴
低用量ピルとは
エストロゲンの量が50μg未満のもの!
含まれるエストロゲン量はだいたい30〜35μgくらいで、20μgまで低減した超低用量ピルもあります。
以下の2種類のホルモンを配合した製剤です。
- 合成エストロゲン(卵胞ホルモン)
- 合成プロゲステロン(黄体ホルモン)
50μgのものを中用量ピル、50μg以上を高用量ピルといいます。
副作用を軽減できる
低用量ピルは副作用が少ないのが特徴です。
エストロゲンの量が多いと、吐き気や不正出血、頭痛などが起こりやすくなります。
最近では安全性に配慮した低用量ピルが主流ですね。
(※稀ですが血栓症が起こる可能性には注意が必要です→後述します)
使用目的の違い
OCそれともLEP?大きく2つに分けられます。
- 経口避妊薬(Oral Contraceptive : OC)
- 低用量エストロゲン―プロゲスチン(Low dose estrogen-progestin : LEP)
経口避妊薬(OC)として使うか、月経困難症や子宮内膜症の治療(LEP)として使うのか用途の違いですね。
低用量ピルはOCのイメージが強いです。自費で処方される場合ですね。しかし、最近では保険適用が認められた製剤も登場し、LEPとして使用するケースも増えています。
投与目的は
低用量ピルの効果は大きく3つあります。
- 避妊効果
- 月経困難症の改善
- 子宮内膜症の疼痛軽減
避妊効果のメカニズム
低用量ピルを服用すると血中のホルモンバランスが変わります。
脳が妊娠状態であると錯覚して、排卵が抑制されるのがメカニズムです。休薬期間中に無排卵の月経が見られ、OC服用中は避妊効果が持続します。
薬学的にいうと、エストロゲンとプロゲステロンの血中濃度が上昇し、視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)、脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(FSH、LH)にネガティブフィードバックがかかり、排卵を抑制するのが機序(①)です。
ほかには、子宮内膜の形成を抑え卵子の着床を妨げたり(②)、また、子宮頸管の粘液性状を変化させ、精子の侵入を阻止する(③)作用もあります。
LEPとしての作用もある!
避妊効果だけ?かというとそうではありません。
下記のように、月経困難症の病状を改善する作用もあります。
- 生理周期のリズムを整える
- 月経量を少なくする
- 月経痛を和らげる
加えてイライラや抑うつ、倦怠感など月経前症候群(PMS)を和らげる効果が期待できます。子宮内膜症に伴う月経痛、下腹痛や腰痛などにも有効です。さらに、副次的にニキビを軽減する効果もあります。
低用量ピルは多岐にわたる作用を期待して使われる製剤ですね。
世代の違い
低用量ピルは大きく、第1〜4世代に分類!
4つのグループに分かれます。
共通しているのは卵胞ホルモンの成分が 、エチニルエストラジオールである点。含有量は異なっても、合成エストロゲンの種類は一緒です。
違いは、黄体ホルモンの種類。世代ごとに合成プロゲステロンが違います。
プロゲステロンの性質で特性が決まる
組み合わせる黄体ホルモン製剤の性質によって世代ごとの特性が決定されます。ここがポイントです。
プロゲステロンは黄体ホルモン作用以外にエストロゲンやアンドロゲン活性があります。その強さやバランスによって製剤が特徴づけられるわけです。
各世代ごとの特性と代表的な製剤を確認しておきますね。
第1世代
合成プロゲステロン…ノルエチステロン(NET)
- OC…シンフェーズT28(サンデーピル)
- LEP…ルナベルLD、ルナベルULD、フリウェルLD(ルナベルのジェネリック)
古くから使用されている第一世代は、効果がマイルドです。エストロゲン活性による吐き気や頭痛などが起こりやすいといわれています。
ルナベル配合錠ULDは、超低用量ピルです。エストロゲン量を20μg(ルナベルLDは35μg)まで減らすことで、副作用が軽減されています。
ルナベルLD錠とULD錠は保険診療が可能なLEPです。月経困難症に用いられます。
シンフェーズT28は、開始日が日曜日はじまりのOCでサンデーピルと呼ばれ、月経が週末にかからない工夫がされた製剤です。
第2世代
黄体ホルモン…レボノルゲストレル(LNG)
- OC…トリキュラー21・28、アンジュ21・28、ラベルフィーユ21・28(トリキュラーのジェネリック)
- LEP…ジェミーナなど
第二世代は第一世代に比べてプロゲステロン活性が強くなりました。
子宮内膜維持作用が向上し、第一世代で見られた不正出血を軽減できるのがいい点です。エストロゲン活性がほとんどなく、吐き気や頭痛なども軽減されています。
一方で、アンドロゲン活性が高めです。ニキビや食欲増進など男性ホルモン様作用が出やすく、LDL-C上昇、HDL-C低下など脂質代謝への影響が心配されます。
トリキュラー、アンジュはOCとして。ジェミニーナは、月経困難症に保険適応があるLEPです。エストロゲン量が20μgの超低用量ピルですね。
第3世代
黄体ホルモン…デソゲストレル(DSG)
- OC…マーベロン21・28、ファボワール21・28(マーベロンのジェネリック)
第三世代は、さらにプロゲステロン活性が向上しました。
第二世代で問題となったアンドロゲン活性が低下し、男性ホルモン様の副作用が起こりにくく、脂質代謝への影響も少ないのが特徴ですね。
ニキビに対する副次的な効果を期待して使用するケースもあるそうです。
第4世代
黄体ホルモン…ドロスピレノン(DRSP)
- LEP…ヤーズ、ヤーズフレックス
生体の黄体ホルモンに近い性質を示します。
アンドロゲン作用がほとんどなく、男性ホルモン様の副作用が問題になりません。抗ミネラルステロイド作用があり、むくみが起こりにくいのもメリットです。
ヤーズ配合錠は24錠タイプのLEP。エストロゲン含量20μgの「超低用量ピル」で月経困難症に対して保険診療が可能な製剤です。
ヤーズフレックス配合錠は28錠タイプのLEP。連続使用できるので、月経回数を減らせるのがメリットです。月経困難症に加えて、子宮内膜症に伴う疼痛緩和に使用できます。
相性の違い
1シートに含まれるプロゲステロン量が一定ではない?!
低用量ピルは21日間服用し、7日間は休薬するという28日周期が基本です。
その21日間に服用するホルモン量が期間ごとに変化する製剤があります。
具体的には、下記です。
- 一相性OC…ホルモン量が一定で変わらない
- 二相性、三相性ピル…一定ではなく段階的に変わる
現在使用できるのは、一相性OCと三相性OCのみです。さらに、3相性OCは増えるタイミングの違いから、2タイプに分類できます。
- 中間増量型…真ん中で増加する
- 漸増型…3段階で増量していく
なぜ、用量を変化させる必要があるのか?
理由は、1周期あたりのホルモン製剤の量を軽減し、自然のホルモンバランスに近づけるためです。
相性ごとに製剤を分けると以下のようになります。
- 1相性…ルナベルLD、ULD、マーベロン、ヤーズ
- 3相性…シンフェーズ(中間)、アンジュ(漸増)、トリキュラー(漸増)
低用量ピルは、世代や相性の違いにより特徴が決まる。効果と副作用を見ながら個々に適した製剤が選択される。
低用量ピルの副作用
マイナートラブルと血栓症に注意が必要ですね。
低用量ピルの副作用は以下のように大きく2つに分けて、考えるとわかりやすいです。
- めったにはない、でも起こると危険な副作用…血栓症
- よく起こるけど、しばらくすると消失するもの…マイナートラブル
マイナートラブル
エストロゲン作用に起因するものです。
・吐き気
・不正出血
・頭痛
・むくみ…など
飲み始めに見られ、服用を続けると徐々に消失していくのが一般的です。症状がひどいときには、ほかのOCやLEPに変更するケースもあります。
例えば、下記への変更です。
- エストロゲンの量が少ないもの(超低用量ピル)
- 世代や相性が異なる製剤
血栓症
どうして起こるの?
凝固機能が亢進するのが一つの原因です。
エストロゲンは肝臓でフィブリンやプロトロンビンなど凝固因子の生成を促します。これがメインの機序です。
一方で黄体ホルモンは血中のLDLコレステロールを上昇させる作用があるので相加的に血栓症が起こりやすくなります。
頻度はどのくらい?
海外の疫学調査によると、頻度は以下のとおりです。
- OCを飲んでいない人のVTE(静脈血栓症)頻度は、1万人当たり年間1〜5人。
- OC服用者のVTE頻度は、1万人当たり年間3〜9人。
- 妊婦と褥婦(分娩後12週)のVTE頻度は、それぞれ1万人あたり年間5〜20、40〜65人。
OCのVTEリスクは、妊娠中や分娩後に比べ高いとはいえません。VTEを発症しても適切な処置を行えば血栓は消失するし、肺塞栓症(PE)を発症し致死的となるのは、1%程度とわずかであると報告されているからです。
ただし、稀であっても、重篤となったり、致死的となりうる血栓症リスクには注意を払わないといけません。
静脈血栓症の前駆症状は?
VTEの前駆症状は以下のように、ACHESと表現するのが一般的です。
- A…abdominal pain(激しい腹痛)
- C…chest pain(激しい胸痛)
- H…headache (激しい頭痛)
- E…eye/speech problems(視野の狭窄、舌のもつれ、意識障害など)
- S…severe leg pain(ふくらはぎの痛み、むくみなど)
服用中は血栓症に注意!
ヤーズ配合錠はブルーレターが発行されました。
過去に血栓症による死亡例の報告を受けて、安全性速報が出されたのは記憶に新しいですね。
服用中は血栓症の前駆症状についてモニタリングが必要です。
世代ごとに血栓症のリスクが異なる?
第1〜2世代に比べて、第3〜4世代の方が血栓症のリスクが高いといわれています。
しかし、はっきりと結論づけられているわけではなく、どんな種類のOC・LEPであっても、注意が必要である点は変わりありません。
忘れやすいのは手術前の休薬!
手術の予定日、4週間前から休薬が必要になります。
周術期は凝固機能が亢進しやすく、特に整形外科下肢手術などでは長期不動状態となるケースも多いので、手術前のチェックが欠かせません。
術前休薬については下記も参考にして下さいね。

Q&A
頻繁に聞かれることはないにせよ、質問されたときに、慌てないで対応できるように知っておくべき点を3つ紹介します。
- 薬物相互作用
- 飲み忘れ時の対応
- 嘔吐、下痢時の対応
薬物相互作用
低用量ピルはCYPで代謝を受ける!
エストロゲンとプロゲステロンは主に肝臓のCYP3A4で代謝されて活性を失うので、CYPを誘導するクスリとの併用により血中濃度が低下します。
特に気をつけたいのは、以下の3つです。
- 抗結核薬(リファンピシン)
- 抗てんかん薬(フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、プリミドン、トピラマートなど)
- HIV感染症治療薬(エファビレンツ、ネビラピン、リトナビル等)
相互作用のチェックが欠かせない!
併用により、避妊効果や治療効果が減弱する可能性があります。必要に応じて、他の避妊法を考慮するのが基本的な対応です。
また、低用量ピルは抗てんかん薬ラモトリギンのグルクロン酸抱合を促進、血中濃度を低下させる可能性があります。
CYP3A4を誘導する薬剤と低用量ピルの相互作用についてチェックする習慣が必要ですね。
飲み忘れ時の対応
飲み忘れ時の対応は、以下のとおりです。
一般的には2日までに気づき、すぐに飲めば避妊効果に対する影響は問題にならないようです。
嘔吐、下痢時の対応
下記です。
→一旦服用中止
- (再開方法)2日経過していなければ、速やかに1錠服用(残りは予定通り)
- (再開方法)2日以上経過の時は服用中止のまま(※その周期は避妊効果なし、次回月経開始日より再開)
嘔吐や下痢で医療機関を受診されたときには、質問されたり、対応が必要なケースもあるので覚えておいた方が良いと思います。
参考文献)低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤ガイドライン
まとめ
ポイントは以下のとおりです。
- 適応は避妊目的(OC)と月経困難症/子宮内膜症(LEP)の2つ
- プロゲステロンの違いにより第1〜4世代に分類。特徴をもとに忍容性を考慮して個々に合った製剤を選択する
- 相性の違いから1相性と3相性の2タイプに。1周期あたりのホルモン量を減らしたり、自然なホルモンバランスに近づけるための製剤設計
- 副作用は大きく2つに分ける。①頻度が高く服用中に消失するもの(吐き気、不正出血、頭痛、むくみなど)と、②頻度はまれだけど重篤になりうる副作用(血栓症)
- 薬物相互作用、飲み忘れ時、嘔吐や下痢時の対応は覚えておいた方がよい
今回は低用量ピルの特徴をテーマにポイント解説しました。