術前管理

SERMとピルにも注目!手術前に休薬するのは血液サラサラ系だけではない!

「血液をサラサラにする薬、飲んでますか?」

手術が決まったら真っ先に確認するお約束のフレーズですね。

続いて聞き取りたいのがSERMサームとピルです。血液をサラサラにする薬に比べ目立たない……。だからついつい見逃してしまいがち。

手術前に忘れて欲しくない!

という強い思いを込めて、「SERMとピル」をテーマに術前管理のポイントを解説します。

SERMと低用量ピル:基本情報

はじめに、基本的な事項を確認しておきますね。

SERMとは?

選択的エストロゲン受容体調節薬!

Selective Estrogen Receptor Modulatorの頭文字をとった呼称。

日本語では、選択的エストロゲン受容体調節薬のことですね。以前にSERM(サーム)と言っても、「何それ?」ってわかってもらえなかったので、名前もいまいち売れていない気がします。

国内で使えるSERMは以下の2種類です。

  • ラロキシフェン(エビスタ®︎)
  • バゼドキシフェン(ビビアント®︎)

SERMは閉経後の骨粗鬆症治療に使う

基本的には、女性が服用する薬です。

破骨細胞のエストロゲン受容体を刺激して、骨吸収を抑制し、骨密度を増やしますのが作用機序ですね。

骨吸収というのは骨からカルシウムが溶け出すこと。SERMは骨が弱くなるのを防ぐ効果があります。有名なビスホスホネート製剤も骨吸収を抑制する薬ですね。

破骨細胞に対する選択性が高い

ここがSERMのS、セレクティブの魅力です。

従来のエストロゲン補充療法に比べて乳房や子宮への作用が弱いので乳がんや子宮がんなどの発症リスクが軽減されています。

椎体骨折の発現頻度を低下させる

SERMの処方目的ですね。

ラロキシフェンは3年間の投与により、プラセボに比べて、新規椎体骨折が発生頻度を低下させることが示されています。一次予防と二次予防、どちらにも有用です。

・既椎体骨折のない患者群…55%低下 ( p<0.05 )
・既椎体骨折のある患者群…30%低下 ( p<0.05 )
(※Rheum. Dis. Clin. North Am.,27,163,2001)

SERMの概要はざっとこんな感じ。次は、低用量ピルについて。

低用量ピルとは

エストロゲンの量が50μg未満のピル

国内で使用できるピルの多くは30〜45μgくらいです。20μgまで含量を減らした超低用量ピルもあります。例えば、ヤーズ配合錠やルナベルUTDなどです。

ちなみに50μgを超えると中用量ピルや高用量ピルといいます。

低用量ピルは世代で分類される

共通しているのは、卵胞ホルモンの成分=「エチニルエストラジオール」である点。含まれる量が多少違っても、どの世代も合成エストロゲンの種類は一緒です。

一方で、相棒である黄体ホルモンの成分は違います。世代ごとの成分と代表製品は以下のとおりです。

  1. 第1世代(黄体ホルモン…ノルエチステロン)
    …シンフェーズ、ルナベルLD、ルナベルULD、フリウェルLD(※ルナベルのジェネリック)など
  2. 第2世代(黄体ホルモン…レボノルゲストレル)
    …トリキュラー、アンジュ、ラベルフィーユ(※トリキュラーのジェネリック)など
  3. 第3世代(黄体ホルモン…デソゲストレル)
    …マーベロン、ファボワール(※マーベロンのジェネリック)
  4. 第4世代(黄体ホルモン…ドロスピレノン)
    …ヤーズ

世代が新しくなるにつれて、プロゲステロン活性↑

避妊効果が強くなります。

また、世代が進むにつれて、ニキビや食欲増進作用のあるアンドロゲン活性が削ぎ落とされ、天然の黄体ホルモンに近いプロファイルを示すのが特徴です。

低用量ピルの特徴を簡単に確認しました。ここからが本題です。

手術前休薬が必要な理由

血栓症のリスクを増加させる

SERMや低用量ピルは血液の凝固機能を亢進する作用があり、手術中または手術後に血栓ができやすくなります。

普通に考えると、手術の時に問題になるのは出血リスクですが、手術後は血栓症リスクにも注意が必要です。

SERMとピルは見落とされがちなので気をつけましょう。

エストロゲンは血液凝固因子の生成を促す!

下記の機序です。

(肝臓)エストロゲン→血液凝固因子の生成促進→凝固能亢進

エストロゲン様作用を示すSERMでも凝固機能が亢進します。含有製剤である低用量ピルも同様です。

SERMとピルは凝固機能を亢進して、周術期の血栓症のリスクを増加させる!

手術後に問題となる血栓症とは?

肺塞栓症と深部静脈血栓症

  • 肺塞栓症… Pulmonary embolism : PE
  • 深部静脈血栓症…Deep vein thrombosis : DVT

PEとDVTを合わせて静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)といいます。

DVTとPEは連続した病態!

DVTはその名のとおり、体表の目に見える静脈ではなくて、もっと深いところの静脈内で起こる血栓です。

その一部が剥がれて血液に乗り、右心房と右心室を通り、肺動脈を閉塞させてしまうのがPEになります。

DVTとPEは連続した病態ですね。飛行機による長時間の移動だけでなく、長時間のバス旅行でも、また災害時の車中泊などでも起こることが知られています。

VTEはいわゆるエコノミークラス症候群とも呼ばれ、以前、ワールドカップ前に、日本のサッカー選手が発症したことでも大きな話題になりましたね。

術中と術後は血栓症が起こりやすい

理由は大きく3つです。

  1. 長時間ベッド上で安静状態を保つ場合が多いので、血液が滞留しやすい
  2. 手術後は止血機能も亢進しやすい
  3. 手術による血管内皮の障害

手術後は下肢や骨盤内の静脈に血栓(DVT)ができやすいです。初めて歩く時やベッドでの体位変換、排尿、排便時などに血流にのって肺動脈を閉塞しPEを引き起こします。

症状は胸痛や息切れ、呼吸困難などです。重症の場合には命を落とすこともあります。手術をうまく終えた後も油断はできないわけですね。

血栓症のリスクが高い手術とは?

手術の種類によってVTEリスクが異なります。

一般的にリスクが高いのは、整形外科、一般外科、産婦人科、 脳外科、泌尿器科の手術。中でも、整形外科の手術はハイリスクです。

特に、人工股関節全置換術(THA)や人工膝関節全置換術(TKA)、股関節骨折手術(HFS)など下肢の手術では、血流障害が起こりやすいです。術後も長期にわたり安静状態が続くためですね。

・ある報告では、DVT予防なしの場合、DVT発生頻度は30〜50%、PEの発生頻度は、症状のある場合が1%、致死的な場合が0.1%前後と、かなりの高確率で起こるいわれてます。(血栓止血誌19:26-28,2008.)

・1000人手術を受けたら、300〜500人にDVTが発症。10人がPEを、そのうち1人が亡くなられるという確率です。

実際にDVTは多い気がします。下肢の手術を受けた整形外科患者さんは予防しているにも関わらず発症する人は少なくありません。術後に長期安静が続く人は要注意ですね。

血栓症のリスクが高い患者さんは?

患者背景や基礎疾患などによってVTEリスクが異なります。危険因子は以下のとおりです。

・弱い…肥満、エストロゲン治療、下肢静脈瘤
・中等度…高齢、長期臥床、うっ血性心不全、呼吸不全、悪性疾患、中心静脈カテーテル留置、癌化学療法、重症感染症
・強い…VTEの既往、血栓性素因、下肢麻痺、ギプスによる下肢固定

参考文献)肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン2017

高齢になるほどリスクが上昇します。肥満の方やガン患者さんもハイリスクです。長期臥床、下肢麻痺なども血流障害を生じやすいのですね。

今回のテーマであるエストロゲン治療もリスク因子です。SERMだけではなく製剤全般ですね。

手術後の血栓症リスクを低減する方法

PEは致死的となるので、とにかく予防が第一!

手術後と手術前に分けて予防方法を見ていきますね。

手術後に血栓症を予防する方法

早期離床と運動、水分摂取の励行が基本です。

加えて、DVTのリスクが高い人は、血流を良くする下記の方法を選択します。

  • 弾性ストッキングの使用
  • 間欠的空気圧迫法(足裏やふくらはぎを機械の力でマッサージ)

…など。さらにハイリスクの場合は抗凝固薬療法(ヘパリン)を行う場合もあります。最近では、DOACであるリクシアナを整形外科の手術後に使用する機会が増えました。

手術前に血栓症を予防する方法

エストロゲン製剤の中止です!

SERMやピルなどですね。

安全に周術期を過ごしてもらうために欠かせません。

だから、手術前にきちんと休薬することが大切です。

といっても、SERMとピルは認知度が低い!

処方する機会の少ない一般外科の先生はもちろんですが、整形外科医でさえ確認が漏れる場合もあります。まだまだ、術前休薬の必要性が浸透しているとはいえない状況です。

にも関わらず、SERMを飲んでいる人が手術を受けることは稀ではなく、特に骨や関節の手術を受ける人は普通にいます。

低用量ピルは患者さんが申告してくれないことが多いです。避妊目的で飲んでいる場合はそもそもクスリという認識が薄かったり、伝えるのをためらう人だっています。

ではどうすればいいのか?

チェックする習慣を作る!

1番大切なのは、ルーチン業務にすることです。血液サラサラ系と合わせてチェックする体制ですね。

血栓症のリスクに対してもっと意識を高めることが大事です。出血だけがリスクではありません。

確実に漏れなく聞き取るためにも“術前チェックシート”などを作成するのも良いと思います。施設にあった形で運用を始めるといいですね。

SERMの休薬期間は?

いつからSERMを中止すれば良いのか?

添付文書には以下のように記載があります。

静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症、網膜静脈血栓症を含む)のリスクが上昇するため、長期不動状態(術後回復期、長期安静期等)に入る3日前には本剤の服用を中止し、完全に歩行可能になるまでは投与を再開しないこと。

エビスタ添付文書

一般的な手術の場合、手術当日から体動が制限されるため、手術日を含めずに手術前3日間、休薬するのが基本です。

イメージは、服用→休薬→休薬→休薬→手術当日、こんな感じですね。

低用量ピル製剤の方は?

手術前4週間の休薬が基本です。

低用量ピルは種類、世代に関係なく一律の対応になっています。

ホルモン補充療法(HRT)に使用する薬剤も注意!

例えば、以下のような薬があります。

エストロゲン製剤
  • プレマリン錠0.625mg(結合型エストロゲン)
  • ジュリナ錠(エストラジオール)
  • エストリール・ホーリン錠(エストリオール)
  • エストラーナテープ、ル・エストロジェル、ディビゲル(エストラジオール外用)
卵胞ホルモン、黄体ホルモン配合剤
  • ウェールナラ配合錠(エストラジオール、レボノルゲストレル)
  • メノエイドコンビパッチ(エストラジオール、酢酸ノルエチステロン)

多種多様のラインナップです。
単独のエストロゲン製剤、黄体ホルモンとの配合剤という形を取るもの、また内服や外用剤など、色々とあります。

プレマリンを除き、術前休薬期間が明確に記載されているわけではありません。ですが、「術前又は長期臥床状態の患者」が慎重投与として注意喚起されています。

一部の黄体ホルモン製剤では周術期の血栓症リスクについて記載されており注意が必要です。

・女性ホルモン製剤の処方を見たらその都度、添付文書の内容をチェックして、周術期の休薬の必要性を主治医と相談・確認することが大切です。

SERMの再開のタイミングは?

長期不動状態から離脱した時点です。

つまり、自立して歩行できるようになった状態ですね。ただし、完全に歩行可能になったとしても、DVTを認めたり、リスクが高い場合には再開することが難しいので医師と相談しながらタイミングを決定する必要があります。

中止したのはいいけど、再開指示漏れも結構多いので気をつけたいですね。

まとめ

ポイントは下記です。

▽SERMとピル、周術期の血栓症リスク

  • SERMとピルは凝固機能を亢進する!エストロゲン様作用があるため
  • 手術後のDVTやPEなどVTE発症リスクを増強させるリスクがある
  • 手術の種類によって危険度が変わるが、下肢整形外科手術は特にハイリスク
  • 患者背景、基礎疾患など様々な危険因子がある。エストロゲン製剤も要チェック!

▽予防方法

  • 弾性ストッキングの使用、間欠的空気圧迫法、抗凝固薬療法などリスクに応じて
  • 手術前はSERMやピル、女性ホルモン製剤の休薬チェックが欠かせない(休薬期間はSERMで手術前3日、ピルで4週間)
  • SERMやピルは認知度が低く見落としがち。薬剤師による術前チェック体制を強化しよう

今回は、SERMと低用量ピルをテーマに、術前管理で押さえておきたいポイントを解説しました。

「手術を受ける」と聞くと、反射的に「SERMと低用量ピル」と連想できるようになれば、安全な周術期管理をサポートできますね♪

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