糖尿病薬の副作用は?と聞かれたら「低血糖」と答えるはず…。
きっと、異論はないですよね。糖尿病の薬なんで、まず頭に浮かびます。
でも、メトホルミンの副作用をランキングするとおそらくこうなるはずです。
- 乳酸アシドーシス
- 消化器症状
- 低血糖
低血糖が1番じゃない…
今回は、低血糖も大事だけど、メトホルミンといえば誰もが知っている乳酸アシドースと消化器症状について特徴と予防方法を解説します。
乳酸アシドーシス:メトホルミンの副作用①
乳酸アシドーシスは超有名な副作用ですよね。
ビグアナイド薬は2種類ある
メトホルミンはビグアナイド系(BG)に分類される薬です。国内で使用できるBG薬は2種類あります。
- メトホルミン(商品名メトグルコ)
- ブホルミン(商品名ジベトス)
以前はフェンホルミンが使用されていた時期もありました。
しかし、乳酸アシドーシスによる死亡例の報告を受けて、販売が中止された経緯があります。
どのくらい起こりやすいのか?
頻度はまれ、重篤化しやすい!
致死率はなんと、約50%といわれています。かなり危険ですね。
一方で、起こる頻度はまれです。
ある報告によれば、メトホルミンによる乳酸アシドーシスの頻度は、10万人年あたり9人とされています。
フェンホルミンの頻度が、10万人年あたり40〜64人であることを考えると、かなり低い確率です。
参考文献)Diabetes Care 1999;22:925-927.
メトホルミンはフェンホルミンに比べ頻度が低い?!
メトホルミンは乳酸アシドーシスが起こりにくいといわれています。
水溶性が高いのでミトコンドリア膜との親和性が弱く、電子伝達系を阻害して乳酸の代謝を抑制する作用が弱いためです。
一方で、フェンホルミンは脂溶性が高い。ミトコンドリア膜との親和性が強いので、電子伝達系を阻害する作用も強いといわれています。
現在、使われているビグアナイド薬は安全性が高いといえるわけですね。
メトホルミンはリスクが低いといっても、油断は禁物!
メトホルミンやブホルミンは腎排泄型の薬剤だからです。
CKD患者や高齢者、または脱水症状を起こしやすい状況では、排泄遅延のより血中濃度が上昇し乳酸アシドーシスの危険が高まります。
メトホルミンはCKD患者や高齢者によく処方される薬なので注意が必要ですね。
起こるメカニズム
どのようにして乳酸アシドーシスが起こるのか?
【糖新生の抑制作用】が関係しています。作用機序を確認しながら見ていきますね。
メトホルミンの作用点は、肝臓のミトコンドリアにある呼吸鎖(Complex1)です。
以下の作用を介して血糖降下作用を示します。
- 電子伝達系を阻害
- AMP活性化プロテインキナーゼ活性↑
- 糖新生の抑制→グルコース産生↓
- 骨格筋への糖取り込み促進→グルコースの消費↑
糖新生は解糖系の逆行経路です。乳酸やアミノ酸、グリセロール等をグルコースに変換する反応を進めます。
メトホルミンは糖新生を抑制するので、乳酸の代謝を妨げ、乳酸アシドーシスを引き起こすのです。
起こりやすい人とその理由
乳酸アシドーシスのハイリスク例は以下の3タイプです。理由を合わせて押さえておきましょう。
①心不全や心筋梗塞の患者、肺梗塞など呼吸不全のある人
低酸素状態のため、嫌気的解糖系が亢進しやすいです。
ピルビン酸が好気的酸化(TCAサイクル、電子伝達系)されずに乳酸へ変換され、血中乳酸値が上昇します。
②脱水症、腎機能障害のある人
メトホルミンの排泄遅延により血中濃度が上昇します。
糖新生抑制作用が強くなり乳酸が蓄積しやすい状態です。
③アルコール摂取者
アルコールの代謝にNAD+が消費され、乳酸からピルビン酸に変換するデヒドロゲナーゼの活性が低下します。
乳酸が代謝されにくくなる状態です。
3つの予防方法
メトホルミンの適正使用に関するRecommendationによれば、乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴は以下のとおりです。
- 腎機能障害患者(透析患者を含む)
- 脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態
- 心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者
- 高齢者
予防法は大きく3つです。順番に説明します。
①eGFRをチェック!
メトホルミンは代表的な腎排泄型薬剤です。
尿中未変化体排泄率はなんと約85%。
CKD患者さん、高齢者では排泄遅延に伴い血中濃度が上昇し、乳酸アシドーシスのリスクが増大します。
メトホルミンは、投与前に腎機能の確認が必須です。
- eGFR30未満には禁忌(mL/min/1.73㎡)
- eGFR30〜45は投与可ですが、利尿薬やACE阻害薬、SGLT2阻害薬などの併用時には、急速なGFR低下を招くことがあるため要注意。
2019年6月、添付文書改訂されました。腎機能に応じた投与量の上限は下記です。
- eGFR30未満…禁忌
- 30≦eGFR<45…MAX750mg
- 45≦eGFR<60…MAX1500mg
メトホルミンを処方箋で見つけたら、腎機能をチェック!投与の可否、投与量の適否を確認する習慣を身につけておくことが大切です。
②脱水を予防する!
脱水症状は乳酸アシドーシスのリスクを上げます。
投与中は適度な水分摂取の励行を促し、下痢や嘔吐時、またシックデイやアルコール摂取時の対応も合わせて患者さんに説明しておくことが大切です。
アルコールの過剰摂取も脱水のリスクから併用禁忌になりました。(2019/6添付文書改訂)
・併用禁忌…アルコール(過剰摂取)
③造影剤の使用時は、服薬の有無をチェック!
ヨード造影剤使用により、乳酸アシドーシスの危険性が高まります。一過性に糸球体ろ過量GFRが低下する可能性があるからです。
検査前は一時的に休薬し、造影剤使用後48時間はメトホルミンを再開しないのが基本!可能であれば検査2日前からの休薬が望ましいと考えられます。
造影CTや心臓カテーテル検査・治療時にはメトホルミンの服薬確認が欠かせません。
手術前後もメトホルミンに注意!
手術前後、とくに手術後はしばらく休薬するのが一般的です。(例えば、胃がんや大腸がんなどの消化管の手術、人工関節置換術などの整形外科手術等、比較的侵襲が大きい場合)
循環動態が不安定であるし、摂取カロリーも不足することが予想されるからです。手術後は一定期間、インスリンによる血糖管理が基本になります。
参考文献)
・メトホルミンの適正使用に関するRecommendation 2016年5月12改訂
・メトグルコ錠、添付文書
消化器症状:メトホルミンの副作用②
メトホルミンの副作用、第2位は消化器症状ですね。
頻度はどのくらい?
投与後に、下痢、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛などの症状があらわれやすく、しかも頻度がかなり高いことがわかっています。
成人における長期投与試験によると、約58%(169例中98例)に消化器症状が見られました。これってかなり多いですよね。
内訳をみると、一番多いのは下痢で91例。
悪心25例と食欲不振24例がそれに続きます。症状は軽度なものがほとんど(9割以上)で、投与14週未満に見られるとのこと。
メトホルミンで見られる消化器症状は、頻度は高いものの、軽度であり投与中に軽減していくのが一般的です。
用量調節でコントロールする
少量から投与を開始して、消化器症状を見ながら徐々に増量していくことで、ある程度副作用をコントロールできます。
メトホルミンは最大2250mgまで使用できるようになりました。
初回は500mgからスタートして、効果、副作用を見ながら250〜500mg/日ずつ段階的に増やしていくというのが、副作用を抑えながら治療を継続する上でのポイントです。
メトホルミンは、心血管イベント抑制というエビデンスが確立しており低血糖も起こりにくく、しかも低コスト。2型糖尿病に対する標準治療薬です。
副作用をコントロールしながら、十分な効果が期待できるように投与計画を立てることが大切だといえますね。
まとめ
メトホルミンの副作用といえば、乳酸アシドーシスと消化器症状。特徴と予防方法は以下のとおりです。
乳酸アシドーシス
- 頻度は稀だけど、発症すると重症化しやすい
- 糖新生の抑制により乳酸が溜まりやすくなる
- 低酸素状態の患者、腎機能障害・脱水のある人、アルコール摂取者はハイリスク
- 予防方法は大きく3つ。腎機能チェック、脱水予防、造影剤使用時の服薬確認(手術前後も!)
消化器症状
- 臨床でよく見られる副作用(とくに開始、増量時)
- 下痢や嘔気、食欲不振、腹痛など、症状は軽度なことが多い
- 少量から開始することが予防につながる
- 忍容性を見ながら、少量から段階的に増量していく
- MAXは2250mg、腎機能に応じて最大投与量が異なるので処方監査は腎機能のチェックが欠かせない
今回はメトホルミンの副作用に注目し、“乳酸アシドーシス”と“消化器症状”について解説しました。日常業務の助けになればうれしいです♪