エンタイビオ点滴静注液が登場しました。
・2014年に欧米で発売されて、すでに20万人以上に使用されているエンタイビオ。一体、どのような薬剤なのか?
ポイントを押さえて解説します。さっそく見ていきましょう。
エンタイビオを理解するためのポイント
エンタイビオ(ベドリズマブ)の特徴は?大きく4つのポイントに集約できます。
- インテグリン!?に作用するモノクローナル抗体
- 潰瘍性大腸炎と、クローン病にも適応追加(2019/5)
- おもに難治例に対して寛解導入と寛解維持に使用
- 安全性が高い(免疫抑制作用が局所的)
インテグリンモノクローナル抗体
エンタイビオはα4β7インテグリンモノクローナル抗体です。新しい機序の薬剤になります。
ターゲットはリンパ球の細胞膜にあるα4β7インテグリン。リンパ球が末梢血管から腸管組織へ遊走するときに血管のMAdCAM-1と結合するために必要な接着因子です。
リンパ球側“α4β7インテグリン”ーー血管側“MAdCAM-1”
こんな感じです。エンタイビオはインテグリンに選択的にくっついて、リンパ球が腸管内へ遊走するのを阻止することで炎症を鎮静化します。
適応はUCとCDの2つ
エンタイビオには2つの適応があります。
- 潰瘍性大腸炎(Ulcerous colitis :UC)
- クローン病(Crohn’s disease : CD)
最近になって、新しい薬がゾクゾクと登場してるので、
UCとCDに使う薬を合わせて整理しておきますね。
潰瘍性大腸炎に使う薬
- 5-ASA製剤(ペンタサ、アサコール、リアルダなど)
- ステロイド(プレドニゾロン、レクタブル注腸など)
- 抗TNF-α製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー)
- 免疫調整薬(イムラン、アザニン、プログラフなど)
- JAKキナーゼ阻害剤(ゼルヤンツ)
- α4β7インテグリンモノクローナル抗体(エンタイビオ)
クローン病に使う薬
- 5-ASA製剤(ペンタサ、サラゾピリンなど)
- ステロイド(プレドニゾロン、ゼンタコートなど)
- 抗TNF-α製剤(レミケード、ヒュミラ)
- 免疫調整薬(イムラン、アザニンなど)
- 抗ヒトIL-12/23モノクローナル抗体(ステラーラ)
- α4β7インテグリンモノクローナル抗体(エンタイビオ)
UCとCDは、治療薬が類似しているものの、一部異なる製剤もあります。JAKキナーゼ阻害薬はUCのみで、抗IL-12/23モノクローナル抗体はCDのみです。
エンタイビオはUCに加えて、2019/5からCDにも使えるようになりました。今後、新たな剤型として皮下注射も登場する予定です。
難治例に対して寛解導入と寛解維持に
エンタイビオは寛解導入と寛解維持の2つの病期に使えます。
- 寛解導入…悪化または再燃した炎症を鎮めるための治療
- 寛解維持…(症状が良くなったあとに)再燃、再発を防止して寛解状態を維持するための治療
UCとCDは症状が悪化したり、再燃する活動期と症状が良くなって状態が安定する維持期を繰り返す疾患です。
エンタイビオの臨床における位置付けは?
・潰瘍性大腸炎では、寛解導入、寛解維持においてステロイドが効かない(抵抗性)または、中止すると再燃する(依存例)に対する選択肢の一つです。
抗TNF-α製剤と同じように難治例に対して使用します。CDに関しては現時点で未記載ですが、UCと同様と考えられます。
参考文献)潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 平成30年度改訂版
安全性が高いのがメリット!
エンタイビオで注意すべき重大な副作用は3つです。
- Infusion reaction
- 重篤な感染症
- PML(進行性多巣性白質脳症)
インフュージョンリアクション
国内臨床試験における頻度は3.6%でした。
本剤投与中及び本剤投与終了後2時間以内に発現するアナフィラキシーやInfusion reaction(呼吸困難、気管支痙攣、蕁麻疹、潮紅、発疹、血圧変動、心拍数増加等)に十分注意すること
エンタイビオ添付文書より
投与中と投与後は経過観察が必要です。
重篤な感染症
免疫抑制作用があるので、以下の重篤な感染症に対する注意が必要です。
・肺炎、敗血症、結核、リステリア症、サイトメガロウイルス感染、日和見感染など
消化管粘膜に発現するMAdCAM-1に選択的に作用するため、免疫抑制作用が全身で現れるTNF-α阻害薬に比べて安全性が高いといわれています。
PMS
ナタリズマブで進行性多巣性白質脳症(PMS)の報告があります。
インテグリンに作用する同効薬です。ベドリズマブは消化管に選択的に作用するためリスクは低いと考えられます。
ちなみに、2830名の統合解析の結果、ベドリズマブは重篤なものも含め感染症のリスクを増加させず、PMLの発現はなかったと報告されています。
参考文献)Gut.2017;66:839-851
あとですね。ほかの免疫抑制剤では生ワクチンの投与が禁忌とされていますが、エンタイビオでは併用注意のあつかいです。
エンタイビオの海外臨床試験を確認!
潰瘍性大腸炎(GEMINI 1試験)
寛解導入と寛解維持の試験を組み合わせたデザインです。
- 対象…ステロイド、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、抗TNFα製剤を少なくとも1つ以上で効果不十分な中等症〜重症のUC患者
- エンタイビオ vs プラセボ
▽寛解導入(6週時点での改善率)
- 全体→優越性(47.1% vs 25.5%)
- 抗TNF-α治療歴なし→53.1% vs 26.3%
- 抗TNF-α治療歴あり→38.9% vs 24.7%
▽寛解維持(52週時点で寛解率)
- 全体→優越性(41.8% vs 15.9%)
- 抗TNF-α治療歴なし→45.8% vs 19.0%
- 抗TNF-α治療歴あり→36.0% vs 10.6%
→エンタイビオは寛解導入、寛解維持ともにプラセボより優れており、抗TNF-α製剤治療歴がない方が成績が良いという結果でした。
・UCの適応は寛解導入と寛解維持。既存治療で効果が不十分な場合の中等症から重症の患者さんです。抗TNF-α製剤を使っていない人は、より高い効果が期待できます。
参考文献)GEMINI 1試験、インタビューフォーム、添付文書など
ちなみに国内の臨床試験(試験デザインは海外とほぼ同じ)でも同様の傾向が見られました。※導入療法ではプラセボと有意差なし
- 導入療法(エンタイビオ vs プラセボ)
- 改善率…39.6% vs 32.9%(10週の時点で)
- 維持療法(エンタイビオ vs プラセボ)
- 寛解率…優越性、56.1% vs 31.0%(60週の時点で)
クローン病(GEMINI 2試験)
UCと同様に、寛解導入と寛解維持の試験が一緒になった試験デザインです。
- 対象はステロイド、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、抗TNFα製剤を少なくとも1つ以上で効果不十分な中等症〜重症のUC患者
- エンタイビオ vs プラセボ
▽寛解導入(6週時点での改善率)
- 全体→31.4% vs 25.7%
- 抗TNF-α治療歴なし→42.2% vs 30.3%
- 抗TNF-α治療歴あり→20.7% vs 20.8%
▽寛解導入(6週時点での寛解率)
- 全体→優越性(14.5% vs 6.8%)
- 抗TNF-α治療歴なし→17.4% vs 9.2%
- 抗TNF-α治療歴あり→11.7% vs 4.2%
▽寛解維持(52週時点での寛解率)
- 全体→優越性(39.0% vs 21.6%)
- 抗TNF-α治療歴なし→51.5% vs 26.8%
- 抗TNF-α治療歴あり→29.5% vs 17.1%
→エンタイビオは寛解導入、寛解維持ともに優れており、抗TNF-α製剤治療歴がない方が成績が良いという結果でした。
・CDの適応も寛解導入と寛解維持。既存治療で効果が不十分な場合の中等症から重症の患者さんに有用です。CDと同様に抗TNF-α阻害薬を使ったことがない人の方が優れた効果が期待できます。
参考文献)GEMINI 2試験、インタビューフォーム、添付文書など
国内の臨床試験(試験デザインは海外とほぼ同じ)でも同様の傾向が見られました。※導入療法ではプラセボと有意差なしです。
- 導入療法(エンタイビオ vs プラセボ)
- 改善率…26.6% vs 16.7%(10週の時点で)
- 維持療法(エンタイビオ vs プラセボ)
- 寛解率…優越性、41.7% vs 16.7%(60週の時点で)
参考までに
外来化学療法調整加算の算定は?
現時点では、算定できません。
UCやCDにインフリキシマブ(レミケード)を投与する場合には、算定できますが、ベドリズマブは対象外だそうです。(メーカー確認)
溶けるまでに時間がかかる
エンタイビオは乾燥粉末を注射用水4.8mLで溶解し、全量5mL抜き取り、生食100mLで希釈します。
泡立ちやすいので、壁面をつたわせて溶解し、溶けるまで20分間静置。溶けなかったら、さらに10分間静置。結構時間がかかります……。
実際に溶解した感覚では、かなり溶けにくいです。
まとめ
エンタイビオ点滴静注、ポイントは以下のとおりです。
- インテグリン!?に作用するモノクローナル抗体
→リンパ球側“インテグリン”と血管側MAdCAM-1の結合をブロック。リンパ球の腸管組織への遊走を妨げて、炎症を鎮静化。 - 潰瘍性大腸炎とクローン病に適応
→2018/7にUC、2019/5からCDに適応が追加。今後、皮下投与製剤も発売予定。患者さんのライフスタイルに合わせて選択肢が増える。 - 寛解導入と寛解維持に使用できる
→UC、CDともに、既存治療が効果不十分時に選択。抗TNF-α製剤とほぼ同じ位置付けです。 - 安全性が高い
→局所的に作用するため、抗TNF-α製剤に比べて感染症のリスクが低いとされてます!
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今回はエンタイビオ点滴静注についてまとめました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。