CDIの治療薬に選択肢が増えました。
・MNZ、VCMに加えて3剤目。
・一般名はフィダキソマイシン(FDX)です。
・18員環のマクロライド骨格、RNAポリメラーゼを阻害するのが作用機序
今回は、ダフクリアの特徴と臨床的な位置付けについて解説します。
ダフクリアの特徴は?
CDIの治療に使う薬
ダフクリアはCDIの治療薬です。
CDIとは、Clostridium difficile infectionの略で、偏性嫌気性のグラム陽性桿菌、クロストリジウム・ディフィシルによる感染症のことです。
C.difficileは抗菌薬関連下痢症(AAD)や腸炎を引き起こします。CDIの重症型が偽膜性大腸炎です。内視鏡検査によって診断されます。
ダフクリアは、C.difficileによる感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)の治療薬です。
CDIの臨床症状は?
・下痢や発熱、腹痛、食欲低下、白血球増加などの症状を認めます
CDIは、重症化すると、中毒性巨大結腸症、敗血症、消化管穿孔を併発する場合もあり、致死的となりうる病態です。
CDIの原因は?
代表的なリスク因子といえば、抗菌薬の使用です。
ほかにも、いくつかあります。
・65歳以上の高齢者
・プロトンポンプ阻害薬使用中
・ICU入室歴
・手術後
・免疫不全
・経鼻チューブ挿入
・肥満など
参考文献)日本化学療法学会雑誌.64:31,2015.
クスリでいうと、抗菌薬だけでなくPPIにも注意が必要ですね。
抗菌薬投与中に認めた下痢=CDI??!
抗菌薬投与中に下痢を認めたからといって、CDIというわけではありません。
抗菌薬投与中に見られる抗菌薬関連下痢症(AAD)のうち、約20%がC.Diffcileによるもの(CDAD)です。さらに一部が偽膜性大腸炎を発症します。
・AAD>CDAD>偽膜性大腸炎
割合はこんな感じで、抗菌薬投与中の下痢イコールCDIではないのです。
一方で、抗菌薬投与中はCDIを疑うことが大切
重症化しないためにも、早期発見が大切!
CDIを疑ったら、C.difficileが産生するトキシンやGDH(グルタメートデヒドロゲナーゼ)のチェック、便培養、また施設により対応が可能であれば毒素の遺伝子検査であるNAAT検査(Nucleic acid amplification test)などを駆使してCDIを診断します。
抗菌薬投与中の下痢を認めたら、CDIでは?と連想できることが大事です。
CDIは再発しやすいのが問題!
治癒しても、また発症するのが厄介です。
・抗菌薬治療を受けたCDI患者のうち、約25%が再発。そのうち約45〜65%がさらに再発するといわれてます。
参考文献)Clin Microbiol Infect.18(Suppl 6)
CDIは再発率が高いのが特徴的です。
患者さんのQOLを下げるだけではなく、入院期間の延長や治療費の増大など医療経済を圧迫することが問題視されています。
CDIの治療薬は3種類
国内で使用できるCDI治療薬は、ダフクリアを含め3種類です。
- メトロニダゾール(MNZ)…フラジール(内服)、アネメトロ(点滴)
- バンコマイシン(VCM)…バンコマイシン散(内服)
- フィダキソマイシン(FDX)…ダフクリア(内服)
フラジール錠とバンコマイシン散は従来からある薬。2014年9月から点滴アネメトロが、2018年9月から新しく経口薬ダフクリアが使用できるようになりました。
バンコマイシン点滴は腸管内へ到達できないので、CDI治療には使用できません。誤解してる人も多いので注意が必要です。
ダフクリアは抗菌スペクトルが狭い
ターゲットは、C.Difficileのみ
抗菌スペクトルが狭く、基本的に効くのはC.Difficileのみです。
一部を除きグラム陽性球菌やグラム陰性桿菌にはほとんど効きません。
本薬はAcinetobactercalcoaceticus及びMoraxellacatarrhalisを除くグラム陰性菌に抗菌活性は示さないものの、C. difficile以外の一部のグラム陽性菌に対して一定の抗菌活性を有することを確認した
参考文献)ダフクリア PMDA審議結果報告書
消化管の細菌叢に対する影響が少ない
CDIの治療薬であるMNZは嫌気性菌に幅広く感受性があるし、VCMの方はグラム陽性球菌にだいだい効きます。
腸管内の細菌叢に対する影響が心配されるし、VCM散はVRE出現のリスクに注意が必要です。※バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci:VRE)
狭域スペクトルのダフクリアは、腸内細菌叢の乱れや耐性菌への問題が少ないと考えられます。
ほぼ消化管から吸収されない
ダフクリアは、ほとんど吸収されません。
(添付文書を見ると尿中排泄率は0.594%以下、多くは糞中に排泄)
VCMはほとんど吸収されませんが、MNZの方はバイオアベイラビリティがほぼ100%近く、長期投与による神経障害のリスクがあります。
腸管内のみで作用するダフクリアは、全身性の副作用がほとんどないと考えられます。
コストが高い
ダフクリアはコストがかかります。ほかのCDI治療薬と比べても高めです。
- フラジール内服500mg×3 or 4…¥2,172 or ¥2,896
- アネメトロ点滴500mg×3…¥38,250
- バンコマイシン散125mg×4…¥10,444
- フィダキソマイシン200mg×2…¥80,336
ほかの治療薬の比べるとかなり差があります。
・フラジールの約28〜37倍
・バンコマイシン散の約8倍
ダフクリアの臨床的な位置付けは?
国内第3相臨床試験
- 対象者…トキシン陽性かつ下痢を有する20歳以上のCDI患者212例
- 主要評価項目…C. difficile関連下痢症の治癒維持率
(※治験薬投与終了時に治癒し、かつ治験薬投与終了後28日(±3)の間に再発しなかった人の割合) - 副次評価項目…投与終了時の治癒率、再発率
- FDX200mg×2 vs VCM125mg×4を10日間
治癒維持率で非劣性が検証されず、再発率は低い
結果は、以下のとおり。
- 治癒維持率…FDX群は67.3%、VCM群は65.7%
→割合は同程度だが、非劣性は検証されず
[※群間差1.2 [−11.3、13.7]%であり、95%信頼区間の下限値が事前に設定された非劣性マージン(−10%)を下回ったため]
- 投与終了時の治癒率…FDX群は83.7%、VCM群は88.0%
- 再発率…FDX群は19.5%、VCM群は25.3%
→フィダキソマイシンの方が再発率は低かった
国内の試験では、主要評価項目で非劣性が検証されませんでしたが、治癒維持率はVCMより高く、再発率は低いという結果でした。
海外の第3相臨床試験(米国、カナダ)
- 対象者…16歳以上のCDI患者664例
- 主要評価項目…治癒率
(※治験薬最終投与日(±2日)又は試験中止時にCDI治癒の有無を判定し、治癒がみられた人の割合) - 副次評価項目…再発率、治癒維持率
- FDX200mg×2 vs VCM125mg×4を10日間(国内と同一)
治癒率はバンコマイシンと非劣性、再発率は優越性
結果は以下のとおり。
- 治癒率…FDX群は88.2%、VCM群は85.8%
→バンコマイシンとほぼ同等(非劣性)
(※群間差2.3% [-2.6、7.1]%であり、95%信頼区間の下限値が事前に設定された非劣性マージン(-10%)を上回ったため) - 再発率…FDX群は15.4%、VCM群は25.3%、p=0.005
- 治癒維持率… FDX群は74.6%、VCM群は64.1%、p=0.006
→FDXの方が再発率は低く、治癒維持率は高かった(優越性)
参考文献)N Engl J Med 2011;364:422–31.
海外の試験では、治癒率で非劣性が検証されました。治癒維持率はVCMより高く、再発率は低いという結果でした(優越性)
ガイドラインでの位置付け
CDI治療薬3種類の位置づけを確認します。
- MNZ(メトロニダゾール)
- VCM(バンコマイシン)
- FDX(フィダキソマイシン)
まず、第1選択薬を確認!
- 初発(軽症から中等症)…MNZ
- 初発(重症)…VCM
- 再発例…VCM or FDX
- 難治例…FDX
非重症例にはMNZが第一選択です。
低コストだし、VCM耐性腸球菌防止においてメリットもあります。
それに、軽症から中等症の場合にはMNZ内服とVCM内服で有効性が変わらないからです。一方で、VCMの方が重症例には優れています。(Clin Infect Dis 2007; 45:302–7)
そのため、重症例にはVCMを選択。再発例や難治例には再発率の低いFDXの出番です。
第2選択薬は?
副作用やアレルギー、効果不十分などで第一選択薬が使用できない時には、以下の選択肢が用意されてます。
- 初発(軽症から中等症)…VCM
- 初発(重症)…FDX or ①VCM+MNZ or ②VCM高用量
- 再発例…② or ③VCMパルス・漸減療法
- 難治例…① or ② or ③
参考文献)Clostridium difficile感染症診療ガイドライン2018
VCMにMNZ点滴を併用したり、VCMの投与量を1回125mgから500mgに増量したり、VCMパルス・漸減療法なんてものもあります。
臨床の位置付けは、再発リスクが高いまたは再発を繰り返す難治例(※2回以上の再発を繰り返すもの)です。キーワードは再発リスクですね。
まとめ
最後にまとめておきますね。
ポイントは以下のとおりです。
- ダフクリア(フィダキソマイシン:FDX)はCDIの治療薬
- 抗菌スペクトルは、C.Difficileに限定的。一部を除きグラム陽性球菌、グラム陰性桿菌にはほとんど作用しない
- CDIは再発しやすい。再発に伴う入院期間の延長、治療費の増大など医療経済を圧迫する疾患です
- FDXはVCMに比べて、非劣性が検証されなかったが、治癒維持率は高く、再発率は低かった。(国内第3相臨床試験)
- 一方、海外の臨床試験では、VCMに比べて治癒率が非劣性。再発率は低く治癒維持率は高かった(有意差あり)
- 臨床の位置付けは、再発リスクが高いまたは再発を繰り返す難治例に推奨(初発の初回投与にはMNZやVCMを選択)
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今回はCDI治療薬ダフクリアについて、特徴と臨床的な位置付けを解説しました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。