CDI(シーディーアイ)って聞いたことありますよね。
院内感染対策でよく話題になる、アレです。
・CDIはクスリが原因で起こる場合があって、治療薬について聞かれることも多く、薬剤師ならきちんと理解しておきたいものです。
そこで今回は、CDIを引き起こす原因薬剤と治療薬について解説します。
CDIの原因薬剤は?

大きく2つあります。
- 抗菌薬
- プロトンポンプ阻害薬(PPI)
抗菌薬は有名ですよね。きっと異論はないはず。
でも、それだけではなくて、PPIも注意が必要です。CDIのリスク因子は以下のようなものが知られています。
・抗菌薬
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与中
・高齢者65歳以上
・ICU入室歴
・経鼻チューブ挿入
・消化管手術後
・免疫抑制状態
・肥満
参考文献)日本化学療法学会雑誌.64:31,2015.
まず、PPIについて見ていきます。
PPIは独立した危険因子!
PPIは、抗菌薬と並んでCDIの独立した危険因子です。
2012年に報告された大規模なメタ解析。
(※42件の観察研究を対象に313,000人のデータをもとに)
→①PPIの使用は、CDIの発症リスクと再発リスクを共に増加させるという結果でした。
→②PPI+抗菌薬併用は、CDI発症リスクを増加、PPI単独(抗菌薬なし)でもリスクを増加させることが明らかになりました。
- PPI使用はCDI発症リスク増加…OR 1.74倍(1.47~2.05)
- PPI使用はCDI再発リスク増加…OR 2.51倍(1.16~5.44)
- PPI+抗菌薬併用はCDI発症リスク増加…OR 3.87倍(2.28~6.56)
- PPI単独使用はCDI発症リスク増加…OR 1.98倍(1.39~2.83)
参考文献) Am J Gastroenterol. 2012 ;107:1011.
CDIのリスクを増加させる理由は?
腸内細菌叢が乱れるためと考えられています。
胃のPHが低下し、本来なら失活されていた細菌が生き延びて、腸内細菌叢のバランスが崩れてしまうからです。
もともと胃酸分泌が低下している高齢者や長期服用例では、CDI発症リスクが懸念されるので、症状のモニタリングが大切です。
PPI服用中に下痢を認めたらCDIの可能性も、チェックする習慣を身につけたいですね。
それから、Pcab(ボノプラザン)も同様に注意が必要だと思います。※カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker:P-CAB)
抗菌薬はリスクを増加させる最大の要因!
基本的には、全ての種類の抗菌薬がCDIを引き起こす可能性があります。
抗菌薬の種類によってリスクが違う?
2014年のシステマティックレビューとメタ解析。
(※13のケースコントロール研究と1つのコホート研究を対象)
抗菌薬系統別の院内発症におけるCDIリスクは、以下の結果でした。
- 第2、3、4世代セフェム
- クリンダマイシン
- カルバペネム
- ST合剤
- フルオロキノロン
- ペニシリン合剤
- ペニシリン
- 第1世代セフェム
- アミノグリコシド
- マクロライド
- テトラサイクリン
参考文献 )Journal of Antimicrobial Chemotherapy 2014 ;69 :881–891
例えば、カルバペネムやフルオロキノロン、世代の新しい広域のセフェム系など。安易に使ってはいけないクスリのラインナップですね。
クリンダマイシンやカルバペネム、一部のフルオロキノロン、βラクタマーゼを配合したペニシリン合剤など。嫌気性菌が大部分を占める腸内細菌叢に対する影響が強いためと考えられます。
このように、抗菌薬の種類によってCDIのリスクが異なるようです。
・しかし、全ての種類の抗菌薬がCDIを引き起こす可能性があります。抗菌薬投与中に下痢を認めた場合には、AADの中に隠れているCDIの可能性を確認する習慣を身につけておくことが大切です。
第3世代セフェム経口薬はCDIのリスクが高い!?
第3世代セフェム経口薬は要注意です。
理由は、バイオアベイラビリティ(BA)が低いからです。消化管でほとんど吸収されないので、残った成分が腸内環境に悪影響を与え、CDIを起こす可能性があります。
経口セフェム系抗菌薬、世代ごとのBAは以下の通りです。
▽セフェム系経口薬BAの比較
第1世代
・セファレキシン(ケフレックス®︎)…90%
第2世代
・セファクロル(ケフラール®︎)…93%
第3世代
・セフジニル(セフゾン®︎)…25%
・セフジトレンピボキシル(メイアクト®︎)…16%
・セフカペンピボキシル(フロモックス®︎)…35%
・セフポドキシムプロキセチル(バナン®︎)…46%
参考文献)日本化学療法学会 抗菌薬適正使用生涯教育テキスト改訂版
第1と第2世代セフェム系薬は、BAが90%を超えているのに対して、第3世代セフェム系薬は、若干ばらつきはあるものの、だいたい20〜35%程度と低く、吸収率はかなり低いです。
最も低いメイアクト®︎のBAが16%。単純に84%は吸収されずに糞便となってしまう計算です。第3世代セフェム経口薬は本当に効いてるのか不安になるくらい。
・効かないだけならまだマシですが、糞便中に残った薬効成分は腸内細菌叢を撹乱してCDI発症のリスクになる可能性も指摘されています。しかも、抗菌スペクトルが広いので、影響も大きいです。
BAの低い第3世代セフェム経口薬は、CDIのリスクを増加させる可能性があることを押さえておきましょう。
抗菌薬コンサルテーション時は、CDIの可能性を忘れないように
CDIの可能性を念頭に置いておくと、より適切な処方提案ができます。
特に、抗菌薬が効かない時の代替薬について、相談されたときです。
「尿路感染で、セフトリアキソンを使って7日目です。尿の性状はきれいになったけど、38℃台の発熱もあるし炎症所見もよくなっていません。別の抗菌薬に変えるとしたら何がいいですか?」
たとえば、このような相談。どのように回答すればいいのか?
年齢や基礎疾患の有無など患者背景によるものの、普通に考えると、第3世代セフェム系薬セフトリアキソンでカバーできないESBL産生の大腸菌や緑膿菌などを想定して、スペクトルがより広い抗菌薬への変更が選択肢になります。カルバペネム系やβラクタマーゼを配合した広域ペニシリンなどですね。
でも、立ち止まって考えて欲しいのが、以下の可能性。
- 尿路感染以外の原因はないのか?(尿はきれいになっている)
- TPNで栄養管理していれば、CVカテーテル感染?
- 嚥下機能の低下している人は誤嚥性肺炎の可能性も?
……など。ここに、CDIの可能性も加えたいです。
「先生、尿はきれいになっているようですが、ほかに感染源はないでしょうか?例えば、下痢を認めているなどCDIの可能性はどうでしょうか?」
こんな風に、抗菌薬変更の前にCDIの可能性も確認しておくことが大切です。
意外とCDIの可能性はピットフォールかも知れません。CDIではないケースの方が多いけど、疑って見る価値は十分にあると思います。
ここまでが、CDIの原因薬について。次はCDIを発症した時の治療薬は何を選べばいいのかを見ていきます。
CDIの治療薬とは?

CDIの治療薬は以下の3種類があります。
- メトロニダゾール(MNZ)
- バンコマイシン(VCM)
- フィダキソマイシン(FDX)
2018年9月からフィダキソマイシン(製品名ダフクリア)が使えるようになりました。
メトロニダゾールとバンコマイシンの使い分け?
重症度に応じて使い分けます。以下のとおりです。
①軽症〜中等症
・MNZ 250mg x4または 500mg ×3 10〜14日間
(経口困難時、MNZ点滴 500mg ×3)
②重症またはMNZ使用できない時
・VCM散 125mg x4 10〜14日間
(超重症例では500mg x4の場合も、またはMNZ点滴を併用する場合も)
参考文献)日本化学療法学会雑誌.64:31,2015
MNZは軽症から中等症、VCMは重症CDIに使用する!
CDIの重症度別に、MNZとVCMを比較した試験があります。
・対象者は入院中のCDI患者172名のうち、最後まで治療を継続した150名
・MNZ 250mgx4 vs VCM 125mgx4 10日間
結果は以下のとおりでした。
▽Mild CDI 81人
・治癒率…MNZ群 90%、VCM群 98% (p=0.36)
▽Severe CDI 69人
・治癒率…MNZ群 76%、VCM群 97% (p=0.02)
→Mild CDIではMNZはVCMと同等(非劣性)、Severe CDIではVCMの方が治療成績が良い
参考文献)Clin Infect Dis 2007; 45:302–7
軽症から中等症にはMNZ、重症例にはVCMを選択するのが基本です。
MNZの利点
大きく2つあります。
- バンコマイシン耐性腸球菌の発生リスクがない
- 経口MNZはコストが低い(※点滴MNZは高め )
MNZは、VCMのようにVREが発生する可能性が通常ありません。(※vancomycin-resistant enterococci: VRE )
経口MNZは安価です。
- フラジール内服500mg×3〜4…¥2172、¥2896
- アネメトロ点滴500mg×3=¥38250
- バンコマイシン散125mg×4…¥10444
VCMの点滴はCDI治療には使用できない
VCMは腎排泄率が約90%と高いからです。
胆汁に排泄されないので、大腸病変部で効力を発揮することができません。一方で、胆汁排泄型のMNZは腸管へ分泌され病変部に到達するので点滴で使用できます。
ときどき誤解されてる人がいるので気をつけましょう。
経口投与ができない場合はどうすればいいのか?
投与経路が胃ろうであれば、MNZとVCM散は簡易懸濁法で投与可です。
経口や胃ろうなどから投与できない時には、MNZ点滴またはVCMの注腸投与という選択肢が候補にあがります。
個々の症例に適した投与経路と薬剤の選択が大切です。 医師からいつ相談を受けても適切な回答ができるようにしておきたいですね。
フィダキソマイシンは再発例や難治例に
③再発例、難治例
・フィダキソマイシン 200mg x 2 10日間
(有効性はVCMと非劣性。再発率が有意に低い。海外第3相臨床試験)
VCMが使えないときや再発例、難治例では、再発率の低いフィダキシマイシンの選択が望ましいです。
下記記事に特徴や臨床の位置付けについて詳しくまとめているので、参考にしていただけたらと思います。

使用中の抗菌薬があれば、中止が原則!
これだけで、症状が回復するケースもあります。
まずは、CDIの原因を評価して、取り除くことから始めましょう。
CDIの治療薬は覚えておくのがおススメ!
医師から質問される機会が多いからです。感染症の専門医だけじゃなくて、一般診療科の医師もCDI治療を行います。日常的に使うクスリではないので、いざ必要となったときに薬剤師に問い合わせ、よくあります。
CDIの治療薬について聞かれたときに、スピーディに適切な処方提案ができれば薬剤師に対する信頼度も上がるはずです。
まとめ

最後にまとめておきますね。
ポイントは以下のとおりです。
- CDIはクロストリジウム・ディフィシルによる感染症のこと
- C.difficileは抗菌薬関連下痢症AADや腸炎の原因になる
- AADのうち約20%がC.difficileが原因
- 抗菌薬だけじゃない。PPIも要注意!
- 抗菌薬でもリスクが高いものがある。広域スペクトル、嫌気性活性のある薬剤など
- 経口第3世代セフェム薬はBAが低く、CDIのリスクが指摘されている
- CDIの治療薬はMNZ、VCM、FDXの3種類。患者さんごとに重症度や投与経路を加味した薬剤の選択を!
- 抗菌薬コンサルテーションではCDIのリスクを念頭に。薬剤性を疑うことが大切
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今回は、CDIの原因薬と治療薬についてポイントを解説しました。
日常業務にお役立ていただけたら、うれしいです♪
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